三日目・彼女と焼肉パーティー
風向きが変わったのか、さらに臭いが強くなる。
明日香が鼻を抑えた。
「なんというか…肉の臭いと変な臭いが混じってますね」
わりと一般的な感想だった。
「髪の毛とか燃えるのが原因だっけな」
「…よく平然としてられますね」
「お前にだけは非難されたくない」
小さい頃に一度焼死体を見たことがある。
アパートだかどっかが燃えて、逃げ遅れた住民の。
野次馬の親父に連れられて見たあの時、こんな臭いがしていた。
燃え盛る家の窓からぼとりと人が落ちた。必死で逃げようとした結果だったらしい。
まだ幼稚園児の俺は何も理解していなかった。
にぶい音の後に漂ってきた臭いに首を傾げた時、親父が面白そうに言ったのだ。
『籠原、美味しそうな肉の臭いがするだろ?』
『うん』
『ありゃ人間の焼ける臭いだ』
俺は吐いた。
というかあんな場所に子供を連れていくなと言う話でもある。
その親父は俺が高校生の時に酔っ払って川に落ちてあっさり死んだ。
馬鹿だなとしか思わなかったし、事実馬鹿だ。
はい、過去回想終わり。
「どうするんですか? 行くんですか?」
ブルータスを抱き抱えながら明日香が顔をしかめる。
表情が出てくるようになった。もしやアニマルセラピー効果か。
「めちゃくちゃ嫌そうだな」
「嫌に決まってますよ…人肉で焼肉パーティーしている人がいたらどうするんです」
言葉だけだととてもシュールである。
さすがにパーティーってノリじゃあないと思うのだが。
「それに私、か弱い女の子ですから。精神持ちません」
「どの口が言う」
か弱い女の子はまず学校襲撃したりしない。
「そうだよね? ブルータス」
犬に同意を求めるなと思った矢先、吠えた。
明日香は無表情だがどことなくどうだと言うように俺を見た。
「お前もか、ブルータス」
すごく有名な台詞を言ってみた。
特に反応はなかった。
「ま…別に行く必要はないもんな」
本当に焼肉パーティーしていたらどう反応すればいいか分からないし。
それに俺たちだって材料にされかねない。
俺は絶対美味しくないぞ。
……ああ。
野次馬しにいくなんて、よく考えれば親父と同じことしそうだった。
蛙の子は蛙というか。
いやな遺伝を感じてしまう。
「臭いの届かない場所に行くか。ついでに水の補給もしなきゃな」
「そうですね」
川のある方面に行くことにする。
服の汚れを少しでも洗いたいし。
それに、明日香の体も清潔にさせないと膿む可能性だってある。
残り人数をカウントする腕時計を見ると、それなりに減っていた。
でも、初日や二日目よりは急激な減りはない。
ここからだ。ここからがキツい戦いとなる。
島の広さの為かこれまではあまり人間とは会わなかったが、ここからわざわざ
人間を探しにくる奴が現れてもおかしくはないだろう。
やっぱなんか使える武器を手に入れておくべきだろうか。
そんなことを考えてふと気づく。
まだうっすらと肉の焼ける臭いが鼻に残っていた。
人間って旨いのかな、とちょっと危ない思考をしてみた。
【三日目終了】
【残り 51】