表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/178

三日目・彼とせくしゃるはらすめんと

 帰ってきたらおじさんが言い寄られていた。

 予想外すぎて驚いた。

 なんだこの展開。


 おじさんが視線で助けを求めてくる。

 そんなこと言われても私だってどうしようもない。


「ね、ね。あの子殺したらあたしを信じてくれる?」


 甘ったるい声音でそんなことを言う女性。

 なんか話してたんだろうけど、うまくいっていないみたいだ。

 おじさんはどうすると目線で問いかけてきた。


 私と同行していたことは言ってないようだ。

 ならこのままで行こう。話をややこしくする趣味はない。

 女性が私を見ていない隙に表情だけで返答した。にこり。

 …あれ、なんかすごく怯えてないか。

 疑問に思いながらも私は女性に意識を向ける。


「なんですか、もう。いきなり殺すだなんて失礼だと思います」


 人のこと言えないけどな。

 私はポケットにそっと手を突っ込む。

 サバイバルナイフではない、ノーマルなほうの柄を掴んだ。


「アナタも死刑囚みたいじゃない。人を殺したりしてるんでしょ?」


 口振りからしてそっちも死刑囚なのかな。

 私たち死刑囚は基本軽装備だ。与えられたものが少ないから。

 ポーチとお粗末な武器とわずかな食料。

 死刑囚同士は似たり寄ったりな荷物だから同類だとすぐ分かる。分かってもうれしくない。

 これからは装備剥いだりする人が多くなりそうだ。

 別に、一般参加者とか死刑囚とかっていう見分けなんかいらないんだけどね。

 ただ殺すのみだし。


「ごもっとも。――私は明日香、あなたの名前は?」


「名字ぐらい名乗りなさいよ」


「それは嫌です」


 五回ぐらい名字が変わった。

 母親が『結婚』をするたびに。


 私はそのたびに出来るオトウサンたちが嫌いだった。

 嫌いな男を示す単語を名前の上につけたくは、ない。


 女性は眉をひそめる。


「生意気」


 反論はない。

 勝手に言えばいい。


「じゃ、ええと――まあ、殺しにきてみてくださいよ」


 おじさんが所在なさげだった。しかしフォローしている暇はない。

 挑発は得意じゃないけど、効果はてきめんだったようだ。


「ほんと…だからガキは嫌なの」


 ポーチからずるりとナイフが現れた。

 おうおう、同じ土俵で戦うのか。


 足元を目を向けて石がないか探す。

 あった。少し大きめかつすぐ取れる。


 女性が一歩踏み出したのとほぼ同時に予定どおり石を拾う。

 見上げるとまさに両手で柄を持って降りあげた姿勢だった。


「とっ」


 投げる。

 頬に当たった。本当は目に当てたかったが、当たっただけマシか。


 女性は一瞬ひるみ、反射的に目も閉じた。

 その隙が、死だ。


 歯を食い縛り一気に距離を詰める。

 二三メートルぐらいしかないのもあって、すぐ相手にたどり着く。


 目を開けた女性は突然近寄った私に驚いたようだが、そのまま腕を降り下ろした。

 それより少し早く私は右胸にナイフを刺す。

 そして下に倒れこむようにして女性の攻撃を避ける、予定だった。


「ぐっ」


 少し間に合わなかった。

 切っ先が肩に軽く突き刺さって通過した。


 転がって距離を空けてから顔をあげる。

 ブルータスが近寄ってきたが押し退けた。


「あ、あ、――」


 呻きつつ女性が胸から生えたナイフの柄を引き抜く。

 さっきもっていたナイフは手放して地面に落ちていた。

 血のついた刃を見て女性の全身が震え始める。ナイフが手からするりと落ちた。


 サバイバルナイフを取り出し、うずくまる女性に近寄る。

 ナイフを拾い上げないように踏んでから首を刺した。

 悲鳴をあげたが、それでも刺す。

何回も。何回も。


「もういいですかね……」


 悲鳴が途絶えた。

 死んだかもしれない。

 確認のためにもう一度刺してみたが、反応はない。


「……おつかれさん」


「どうも。服が血まみれになりましたね…濡れてて気持ちが悪い」


 着替えたいものだが、あいにく持ってないし。


「明日香」


「はい」


「脱げ」


「はい?」


 おかしいな、なんか今変なこと言われて気がしたけど。

 気のせいか。それか耳が悪くなったか。

 急に悪くなるものかな。


「何度も言わせるな……脱げ」


「せ――セクハラ!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ