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三日目・彼女とさんじゅう

 血生臭い風が頭上を撫でていく。

 腕時計型カウンターを見れば二人分数字が減っていた。


「おじさん、自分って馬鹿だなぁとふと冷静になることってありませんか」


 明日香がうつぶせになったまま聞いてきた。

 俺もうつぶせ。

 ブルータスもうつぶせ。…伏せ?


「まあな」


「よく思うんですよ。あそこで躊躇わず校長を刺してれば良かったなって」


「想像していたのとレベルが違う。はい次」


「えぇー」


 気のない抗議をあげる明日香。

 当たり前だ。俺としては『日常における小失敗』みないなものをイメージしていたのだから。

 そんな深刻な悔やみを持ち出されてもこちらが困るだけである。


 三華宮高校…だったか。

 そこの校長、俺がこのゲームに参加するために部屋を引き払う数日前に自殺していた気がする。

 そんなニュースを見て荷物をまとめていたんじゃなかったか。

 他人の死なんて興味なかったから、なんとも思わなかったけど。


 未だに早川の死が一番大きいんだろうな。夢に見るぐらい。どうしようもなく押さえられないぐらいに。

 ともあれ、校長の死のことを明日香に言うべきか一瞬悩んだが止めておいた。

 止めた、というより止めざるを得なかった。


「…こっち、来てません?」


「…だな」


 伊達や酔狂でうつぶせになっていたわけではない。

 数十メートル先でサブマシンガンを景気よくぶっぱなしている男がいたのだ。

 こちらには飛び道具なんかないもんだから静かに退却したかったのだが。

 どうしてこっちくるかなぁ。

 あんなもんどこで手に入れた。

 あ、確かなんか金を出せば用意された武器類を持てる話があったような。

 でもな、ああいうのって相性あるから。見た目だけじゃ判断できないもんなんだよ。


 ハイな感じになっているのでやけくそなんだろう。

 一番嫌な相手だ。

 死をいとわずに向かってくるのがとてもめんどくさい。

 初対面の明日香もそうだった。

 見つけた。殺る。の単純思考で刺しにかかってきた。

 もう少しこいつに技術力があれば俺は死んでいたかも…どうだろうな。同じ展開になっていただろうか。


「…しかしどうするか…」


 サブであろうとなんであろうと連射式じゃねぇか。

 あっというまに蜂の巣だ。


 明日香はちらりとこっちを見て、それから視線を再びサブマシンガン男に向ける。

 ドラマで見るような急かしもなく、ヒステリックにもならない。

 助かるのだが、あまりにも都合が良すぎて気持ちが悪くなるぐらいだ。

 物わかりが良すぎる。


「……弾、いくつぐらいあるんでしょうか」


「あれは30発ぐらいだろうな」


「さんじゅう…」


「そんでもってからにマガジン――弾を取り替えるやつを持ってる可能性あり」


 さて、こちらはどう立ち向かうべきかね。


「……」


 明日香のこめかみに冷や汗が浮かんでいた。

 蒼白になった手をぎゅっと握りしめている。


「怖いか?」


 からかい半分に聞いてみた。


「…いいえ。違います、違うんです」


 唾をなんどか飲み込みながら明日香は答える。

 か細い声で、銃声にかき消されかけながら。


「この音で、あの日を思い出してしまうんです……」


 なんのことかと問いかけた時、ブルータスが動いた。

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