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コレクト 後

「後で通帳を見てくれ。生活に困らないぐらいはあるはずだ」


 通帳…。

 身辺整理であらかた預金を引き抜いてしまったからほとんど残っていないだろう。

 ああー…どうしよう、いろんなもん処分していたな。


「……金の話は別にいい。俺はこれからどうすればいい? あんたの駒にでもなれと?」


「駒は足りそうだからいいよ」


「は?」


 その言葉に違和感を覚えたが、彼はそれ以上は触れなかった。

 いや、わざと無視したか。


「君は見事…なんだっけ。ああ、蠱毒で生き残ったわけだ。ただし、背負っただけだ。いわゆる『呪い』をね」


 …なんだ、こいつ。

 つまりは岡崎の読み通りだったってわけか?

 違うか、音声を聞いていたなら当然その話も聞いていた可能性もあるし。


「その身を『呪い』に浸したものが僕の理想。だけど君は遠く及ばず、だ」


「何を言っている?」


「大した話じゃない。組織丸ごとひっくり返すためには何が何でも強い駒を用意しておきたいってだけさ」


「理想値には行かなかったんだな、俺」


 組織…。胡散臭いな、なにもかもが。

 普通に暮らしていたら決して知ることのないものだろう。

 あんなゲームさえ参加していなかったら鼻で笑っている程度には現実感がない。


 まあ国府津のたくらみは俺にとってはどうでもいい。なにやら壮大だが関係ない。関係させないでくれ。


「そんなことはない。君は正しい選択をしたからね、誇っていいと思うよ」


「……」


「コレクト、ってどういう意味だと思う?」


「…? 集めるって意味じゃないのか」


 生憎英語には明るくない。


「それはLだね。COLLECT。だが、もう一つある。Rの、コレクト」


「そっちはどういう?」


「正しい」


「……」


「正しい、だ。君は正しい選択を集められたからこそ、生き残れた」


 慰めのつもりか。

 俺は、どういう正しい選択をしてこられたんだ。

 様々なものを掬い落としてきたことすらも今につながる正しいことだというのか。

 もう今は何も考えたくない。

 頭が痛くなってきた。


「…最後に一つ聞かせてくれ。あの研究所は何だったんだ」


「…研究所?」


 なんだ、知らないのか。


「二階建ての建物。一階は動物の骨がゴロゴロ、二階は見ていない。なんだったんだ、あれは? おまけにゾンビみたいなやつもいたし、とん挫した研究施設でもあったのかあの島」


「ははぁ……話には聞いたことあるけど。戦時中の実験施設かな。ゾンビ。ふうん。あの島自体が曰くつきだからありえなくもない」


 曰くつきだからこんなこと出来たんだな。

 特に興味をそそられた様子はない。「そんなこともあるか」って感じだった。

 これで驚かないって普段何が起きているんだよ。


「どちらにしろどこかでボソボソと続けられているか、ロストテクノロジーだね。ここから遠く離れた場所だし、ただちに影響はないはずだ」


 それ絶対後々影響出るやつ。


 国府津はその研究施設には全く関心がないようでそこで話を止めた。

 琴線にこなかったんだろう。

 高そうな腕時計(普通のものだ。当然ながら)を見て、国府津は「さて」と言った。


「そろそろ時間だ。退却させてもらおう」


「…そうすか」


「これはおせっかいだが、君は退院したらしばらく身を隠したほうが良いよ。あのデスゲーム生き残ったんだから狙われない方がおかしい」


「マジか」


 まだ戦いが終わってないってやつかよ。


「マジで。特に君、来宮と関わってるし。来宮明日香関係は機密の中でもかなりデリケートだからね」


「……そうだったのか」


 あいつそんなだったのか。本人が知らないところで大騒ぎになっているというか。


「そうさ」


 国府津は俺の横から立ち去り、病室のドアの前で振り返った。


「おめでとう、君は自由の身だ。自由の勝者だ。選びたまえよ、君にとっての正しき人生を」


 そんなことを言って、消えた。

 あとに残されたのは包帯と点滴に繋がれた俺だけ。


 …これからどうするかな。

 何かをしなくてはいけないだろうが、それが分からない。

 岡崎の兄弟を探すか。それに、明日香の妹の墓も。

 どこにいけばいいんだよ。結局あいつらの生まれも育ちも知らないままだ。

 そこから始めよう。しばらくは、忙しく走り回ろう。

 失くしたものを振り返るのはまだもう少し先に押し付けて。


 …とりあえず、もっかい寝る。いろんなことを考えるのはそれからだ。



 九日間、ずっと俺のそばにいた少女はもういない。

 そうだなあ、別に俺もお前のこと愛してなんかいなかった。


 だけど、お前と生きてもいいと思うぐらいには好きだった。




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