九日目・私とおじさん ○
首を絞められていた。
敗因は、いろいろありすぎてあげきれない。
まあ最近までただの女子高生だったのだからこうなるのは仕方のないことだろう。
いきなり力が覚醒する系の世界ではないので、自力でこのピンチを乗り越えるのは無理だ。
とはいっても、奇跡の一つはおこると思ったんだけどなぁ。奇跡の女神すらも私を見捨てたか、まあいいけど。それより今まで使いすぎたのかも。
だから。
私は無駄な抵抗をせずに死ぬことにした――抵抗はしているか。
だって、今は私の首を絞めている人のわき腹にはナイフが刺さっている。ただ、動きを止めるには意味はなかったということだ。
それにしても序盤から良く生き抜いたものだ。
終盤は思ったよりも盛り上がったという気はしないけど、それでも見届けられてよかった。
無表情で私の首を絞め続けるおじさんは何を今考えているのだろう。
自殺志願にも似た気持ちで参加して、こうして生き残ってしまうのは心境的に複雑かもしれない。本土に戻ったら自殺しちゃうかも。
別にいいですけど、お兄さんとの約束ぐらいは果たしてくださいよ。
もしかしたら存在する地獄の果てで怒られるのは私なんですから。
喉が圧迫されて気持ち悪い。えづいてしまいそう。
もっと強く締めてくれないと。苦しいのはこっちなのに。
早く死ねないかな、と瞼を閉じようとしたがやめた。
せめてその顔を私に刻み付けて死のうか。だからそんな顔をしないでください。
……まったく。
なんて滑稽な人生だったことだろう。
人を殺して、殺して、殺して、最後に殺される。
殺人鬼にピッタリの終わりじゃないか。
ただこんな穏やかな最期はほんの少しだけ後ろめたさを感じてしまうけど。
悲鳴や、怒号や、恐怖に歪ませてきた彼ら彼女たちはきっと不満げに思うだろうか。
頭がぼんやりとする。
楽しかったこと、嬉しかったこと。すべてが泡沫の彼方に弾けていく。
決して幸せではなかった。不幸に不幸をコーティングしたような人生だったけど。
そして、誰かの幸福を奪っても幸福なんて掴みとれもしなかったけど。
そんなものだ。
私なんて、来宮明日香――もしくは来宮京香なんて、そんなものだ。
ふと、いたずら心から『愛してます』なんて言ってやろうかなと思った。
でももう声も出ないし、きっとおじさんを苦しめてしまう。
死に際の言葉が呪縛になるなんて分かり切っていることなのに。
ごめんなさい。
すいません。
ありがとうございました。
気まぐれで あなたに生かされた時から、いろいろ あったけど。
京香 と一緒の 時には及びませ んが楽しか ったですよ。
私が来宮明 日香じゃなくな っても、ま た会え たらいいで すね。
――ねぇ、ナイフ片手に私 と踊って くれ ます か?