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三日目・彼女とブルータス ◾︎

『どうして手を離したんだい?』


 かつて俺とタッグを組んでいた早川が恨めしげに睨んでいる。

 動けない。

 声すら出ない。

 つんと鼻孔に嫌な臭いが突き刺さる。

 その臭いを発するのは誰でもない、早川本人からだった。


 そのことに気付いた瞬間、みるみるうちに彼の身体は膨れ上がる。

 水死体の特徴だ。

 つまり臭いの正体は、死体から出る腐臭だろう。


『前原。自覚しているみたいで何よりだが君は最低だよ』


 早川、聞いてくれ。

 懺悔を。せめて一言だけでも!


 声無き声は届かず、相棒は冷たく言い放った。


『死ね』



――――――


「うっわぁ……」

 嫌な夢をみた。

 朝日が人の気持ちなどしりもせずに輝いていらっしゃる。


 昨日土左衛門みたから夢にまで影響がきたか。

 本当に、もう勘弁してくれ。

 とは言っても自分で自分が許せないのだからこの先もあの夢を見るんだろう。

 俺の犯した罪は、悪夢じゃ甘すぎるぐらいに重い。


 頭を振って思考を変える。

 体調不良は命とりだ。


「…明日香?」


 あたりを見ても明日香の姿が見えない。

 またあいつどこかにほっつき歩きに行ってるのか。


「単独行動…は、ないな」


 荷物はしっかりとあるし荒らされてもいない。

 ならここに戻ってくるだろう。

 わりと賢く、自分の今後を分かった上で行動しているから。


「おじさんおじさん」


 丁度良いタイミングで後ろから明日香の声がした。

 探す手間が省けた――ではなく。

 なんだろうな。心なしかはしゃいでいるようなんだが。

 昨日一昨日でほぼ無表情なあいつが。

 これ、ろくでもないことになりそうな展開フラグだよな。


 恐る恐る振り替えると、彼女は毛むくじゃらの生き物を抱えていた。

 犬だった。

 どこからどうみても、犬だった。

 非常に可愛らしい顔でこちらを見ている。


「……なんだ、それ」


「ワンコです」


「それは分かっている」


「名前はブルータスです。私が今決めました」


「ネーミングセンス悪いんだなお前」


 どこか誇らしげに無い胸をはる明日香に思わず突っ込む。

 ブルータスとか裏切り者の名前じゃねーか。

 じゃなくて。もっと核心に触れることをだな。


「…昨日、犬に追いかけられたよな? お前にいたっては危ういところだった」


「ですね」


「それが昨日の今日なんだが、怖いとかそういうの感じないわけ?」


 トラウマものになっても仕方がないぐらい怖かったし。

 よだれ垂らして走ってくるんだもん。

 

「あれはこの子とはまた別です。ブルータスは襲いませんよ」


 きっぱりと言った。

 なぜそんな強く言い切れるものがあるんだ。


「ブルータス、連れていっていいですか?」


「駄目だ。そいつが足手まといになるのは目に見えているんだよ」


「アニメやゲームにも一人は足手まといいるじゃないですか。同じですよ」


「例えば?」


「主人公にベタ惚れしてるようなヒロインですかね」


 うわー。

 言いやがったこいつ。


「……とにかく、駄目」


「えー面倒はちゃんと見ますよー」


「面倒云々じゃないと思うんだがなぁ……そいつの飯はどうするんだ?食料をやる気はないぞ」


 缶詰を犬が食べても良いのかという疑問もあるっちゃある。


「大丈夫です。あちこちに死んでる人間がいるじゃないですか」


「怖いわお前!」


 人間が餌か!



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