九日目・私と、 ○
おじさんの駄々っ子には参った。
予想できなかったわけではないけれど。
私への罪悪感が生まれてしまったのだろう。
だったらいっそ自分の手で殺してしまおうと。そういう意味での提案だったんだと思う。
いいんだけどね、このままおじさんがクリアしても。
私が本土に帰ったところで身体は使い物にならないだろうし、自由の身になれる気もしないし、なれたとしても遺族にばれないように生きなくてはいけない。
かくも生きるのは面倒くさい。
だけどまあ、殺し合おうというならそれもいい。
積極的には殺したくないと、あらかじめ言っておくけど。
殺そうと思うと途端に身体に力が入るのはなんでだろうね。不思議だね。
「俺のために死んでくれ、とでも言ったほうがいいか」
「何を言っているんですか」
「俺のせいで死んだっていうのは、夢見が悪い」
「え? …ああ。さっきのですか。言い方不味かったですね」
「俺のせいで」。たとえば、おじさんの同僚の早川さんのことかな。
それをいうならお兄さんだって私のせいで死んでしまったし、京香だって私と入れ替わってしまったから――。
ああ。
失った人たちのことを考えると何かが零れていく感覚がする。
「早川は――死んだんだ。俺が手を離して、死んだ。殺したわけじゃない。でも、確かに俺のせいで死んだ」
何かを整理するようだった。
折り目をつけるかのように。
そうだ。今はそうやって自分を責めていてもいつかは整理できる日が来る。かもしれない。
失敗した例が私だ。
「でもおじさんは生きている。ここまでずっと」
「そうだよ。死のう死のう思っても死ねなかった。死ぬ死ぬ詐欺だな、こりゃ」
「どうして死ななかったんですか?」
「初日はまあいつでも死んでもいいって感じだった……でもお前とか、岡崎がいたから無責任には死ねないなって」
ああ。無責任に私が死んでしまってはそりゃ怒るわけだ。
悪いことをした。
それだけしか言えないけど。
「なるほど。じゃあ、お兄さんはずっと気づいていたんですね」
「何に?」
「私が死ねば、あなたが崩壊する。あなたが死ねば、私もクリアしようと思わなくなる。そういうことだったんじゃないですか」
かつての私と京香みたいに。
依存先が変わっているのかな、私。
「……そこまで分かっときながらアレかよ」
「私も今気づきました。ほんとですよ」
もう、お兄さんも意地悪しないでちゃんと言っておいてくれれば良かったのに。
もやもやした感覚だったからはっきりとまでは分からなかったのかもしれない。
だけど、そう――依存だ。
私たちが依存しあっているのをお兄さんは朧ながらにも分かっていたんだと思う。
「…遅かったな」
「ええ。もはや手遅れなところで気付くのも、私たちらしい」
「だよなあ」
ナイフを構える。
おじさんは手ぶらだ。何も持たない。
お兄さんの猟銃は背中にあるけれど、出す雰囲気ではなかった。
「…わざと負けるつもりですか」
「ばーか。ハンデだ。そんな死にそうなやつに負ける気はしない」
「慢心ですよ」
「油断はしない」
そうですか。