九日目・俺と燃え尽きる寸前の、 ◾︎
明日香は俺のことが見えているか不安になる。別に俺である必要もないんだが。
ぼんやりとした瞳はまだかろうじて生きていることを示しているが、しかしいつ濁るか気が気じゃない。
もともと死んだ目はしているが、本当に死んだ目になってしまう。
意識を、繋げなければ。
「…どうする?」
「なにがですか」
あっ、やっべ、これ言っていいのかな。
ちょっとデリカシーなさすぎるかもしれない。
だが会話を転換させようにもほかの内容が思いつかないし、黙っていたら明日香が不審げな目をし始めた。
ええいままよ。
「お前の指なんだけど…」
恐る恐る言うと明日香は苦笑いをした。
脱水をおこして乾いた唇が割れ、血がにじむ。
見せるのはやめておいた。ショックがでかすぎるだろう。
一応集めておいたんだが。
少女の切断された指を集めるなんて変態を超越しすぎている気がする。
「あげますよ」
「いらねえよ」
どうしろってんだよ。
元持ち主に拒絶され所在がなくなった中身が入った布をとりあえず後ろに置いた。
明日香がふらふらと左手をさまよわせるので何事かと思ったら起き上がりたいらしい。
まだ立とうとするのか、こいつは。
どこにそんな執念があるんだ。それとも、動かないと居ても立っても居られないのか。
来宮明日香というものすべてを燃やしてまで。
最終的に俺の肩を掴んだ。弱弱しく握られる。
「行かないと」
うわごとのように彼女は言う。
「どこへ」
「ゲームのエンディングまで」
「いかしたこというじゃねえか」
明日香の背に手を差し入れて起き上がらせた。
眩暈にでも襲われたか顔をしかめて目を閉じる。
それから目を開けて足を動かしなんとか立ち上がる準備をする。
何度も何度も休憩をはさみながらようやく彼女は自分の足で立ち上がった。
それでも小鹿のほうがまだ安定感がある。
「服の裾にでも掴まれ。バランスとりにくいんだろ」
「でも、そしたら戦えなくなります」
発想が戦闘狂のそれ。
確かに片手は使えないから、もう片方も塞ぐと何もできなくなるが。
遠慮をしているのか本当に戦えないことを危惧しているのかどっちだろう。
それでも転んだらどうするつもりなんだ。
…そんな細かいことを考えられなくなっている可能性がある。
「行かないと」
もう一度明日香はつぶやいた。
「……」
どこへ。
お前は、本当にどこに行くっていうんだ。
来宮明日香が燃え尽きたら、あとは何が残る?




