間章・取材とシュークリーム
わたしこと遠藤かおりはジャーナリストだ。
とはいっても、あまり有名ではないが。
「嫌になっちゃうわ、もう」
空を仰ぐ。
本日は晴天なり。
とある少女の元へ面会にいったら既に面会者が来たとのことで返された。
面会は一日一人。
どんなにただを捏ねても入れてくれない。
土産のシュークリームを渡すチャンスも逃し、こうしてぶらぶらと歩いている。
「テンションあがらないし、会わなくて良かったかもね」
元気なのはわたしの専売特許だ。
兄や知り合いにはすごくうざがられるが。
そんなわたしの機嫌が良くない原因は先ほど立ち読みした女性週刊誌だった。
「何が、『1990年代が生んだ殺人鬼』よ」
なんでもかんでも若い世代をコケにするのは大人の悪い癖だ。
それに、同じ文章を書く人間としては呆れるほどに一人よがりな感想文だった。
少女の過去すらもでっちあげていて笑いが込み上げてくる。
幼少期は小動物を虐待?
むしろ、虐待をされていたのはあの子たちなのに。
――まあ、記事を疑う人なんかめったにいないんだろうけど。
ああいう雑誌を読むひとのだいたいは暇つぶしにという理由だろう。
いちいち疑うなんてめんどくさいことをする人は流石に一握りだろうし――
そもそも誰も少女を援護してやろうとは思わないに違いない。
少女は、明日香ちゃんは殺人犯だ。
異常者。
悪者。
犯罪者。
それが世間の反応だ。
わたしも殺人犯云々は庇いはしまい。事実なのだから。
だけど、明日香ちゃんは純粋な悪者ではない。
かわいそうなことに彼女自身も悪者になりきろうとして――でもなれなかった。
半端な悪者としか、なれなかった。
優しかったゆえに。人間の心をもっていたゆえに。
『全てを捨ててしまえば楽だったんでしょうね』
苦笑いしつつそんなことを言う明日香ちゃんが脳裏をかすめた。
それに――
それに、みんな忘れてしまったのか?
三華宮高校で以前、同じぐらいひどい事件があったことを。
むしろあれを忘れられるものなのか?
明日香ちゃんが殺人を決心してしまう、直接の原因となった事件を。
ううん、違う。
あれを忘れさせるために誰かが躍起になっているんだ。
元々、極秘にも近い。
何人死んだかすらまるで報道されなかったのだから。
だからこそ、過去を覆うために哀れな少女を生け贄に飾り立て石をぶつけるのだ。
センセーショナルに。残酷に。
これからも、これまでも。
明日香ちゃんは悪者として存在していくんだろう。
それこそ、憎悪の目を浴びながら。
「あの子が見えない過去を背負ってることも知らないでね」
みんな幸せだ。
そう。
事実は知らなければ幸せなのだ。
大抵の人はあの日、なにが起きたか知らない。
よもや犠牲になった十人がいるなんて知らない。
当たり前だ。
十人は事件直後に生きていた証を全て削除されたんだから。
“最初からいなかったものが死んでも死んだことにはならない”。
明日香ちゃんが行ったのはその十人への弔い。
彼ら彼女らを見捨てた人間への復讐だ。