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人殺したちのコンクルージョン  作者: 赤柴紫織子
人殺したちのコンクルージョン
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九日目・俺とやり返し(ほとんど明日香が) ■

 涙がひたすら流れていく。

 悲しいから泣いてるわけじゃない。生理的に止まらないのだ。

 多分異物がはいったとか、修復活動が行われているんだとは思うが。小学校の時にケンカして白目部分に同級生の指がクリティカルヒットした時より痛い。

 痛いけどここでもんどりうったら永遠に起きれなさそうだ。


 とりあえず武器はゲットした。

 手作りの槍。

 すまんな、お前の作ったやつを横取りするような形になってしまった。死んでるけど。というか、殺したの俺なんだけど。

 足元で転がっているやつに一応謝罪してから前をむく。

 やっぱり視界狭まってんなぁ。


 どの程度見えるか確かめようと首をめぐらす。

 やっべえこんなに見えなくなるのか。右側の後ろとかほとんど見えない。

 きょろきょろしていると遠くの方、木々と砂浜の境目に女が立っていた。

 幽霊だと思ってぎょっとするが質感的に生きているらしかった。


 隠れ切れていないが隠れているつもりらしい。

 おどおどと周りを見て、それから目があった。


「なんだあいつ」


「え?」


 明日香も俺の視線と同じところを見る。

と、女は背中を向けて森の中へと走り出した。猛ダッシュだった。


「…あいつだ! お兄さんを殺した奴です!」


「マジか!」


 明日香は俺を見て頷いた。

 岡崎の仇を討つことしか頭にないといった感じだった。

 こういう時、誰だって一つのものに熱中すると周りのことが見えなくなり非常に危なくなる。明日香が今周りに気を配っているかなど怪しいものだ。

 だが砂浜ここから一時的には離脱できる。とりあえず一度姿を隠しておこうと思ったのだ。


「行くぞ」


 視界が悪いために全速力で走れない。

 明日香は足元をふらつかせながら走っていた。すぐに転びそうでひやひやする。

『絶対に逃がさない』という気概が感じられる。

でも、心に体が追いつけていない。


 女のほうもどこか負傷しているのかあまり早くはなかった。

 背中を押さえつつ、がむしゃらに逃げていく。なんとか撒こうとしているらしかったが、その一考一考でわずかに立ち止まっているため時間ロスが貯まっていくばかりだ。

それでも何か策を考えているのか。わざとこちらへ呼び寄せ罠でも張ったのか。

どんなもんが来たって、なんとしても乗り越えるしかない。


「……」


 明日香がスピードを上げた。距離自体は縮んでいる。

一人で行くなと止めかけて、言う間もなくすでに追いついた明日香が女の襟首をギリギリで掴んだ。ほとんど気力で捕まえたといっていいだろう。

 そのままもんどりうって倒れこんだ。


 引っ張り合い殴り合いながら明日香が馬乗りになり、その喉元にピタリと切っ先を当てる。

 ぜいぜいと息をしながら両者は睨みあう。

 明日香のナイフを押し戻そうとするが明日香も明日香で全体重を注ぎ込んでいるみたいなので容易ではなさそうだった。

 なぜ殺さない。反撃のチャンスなど与えている場合か。


「囮役のくせに囮にすらなれなかったんですか?」


 珍しくすぐに殺さない理由が分かった。

 言いたいことをまずぶちまけようと思っているらしい。

 明日香はせせら笑いながら続ける。

 その横顔が黒川に一瞬似ていて思わず顔をそむける。


「結果的に相方さん殺されましたけど。陽動作戦、うまくいっていなかったのでは?」


「うるさい! あれはあいつが殺したから! あんただって同じでしょ!」


「はぁ。まあ、あなたの相方さんよりはうまく立ち回って死にましたからね」


 ニッと唇を吊り上げる。嘲るように。

 もしかして、明日香本気で怒っているのか。


「というか、」


 明日香は冷たく言い放つ。


「あなただって、あの人を殺したようなものでは?」


 女はもがくのをやめ、息をのむ。

 まったく当時の状況が分からないので俺はとりあえず流れを見守ってるだけだ。

 とりあえず、明日香が煽る煽る。

 やっぱり黒川の血を引いているというのは本当なんかじゃないかと思えてしまう。そんなこと言ったらどうなるかは予想できているためおくびにも出さないが。


「あたしは! 殺してない! あんたたちグっ!」


 最後まで言わせずに明日香はナイフを押し込む。

 ゴリゴリ重い音がする。

 骨はあきらめたのか頸動脈を切りにかかった。血が噴き出す。

 手を震わせ、身体を痙攣させ、白目をむいて、終わった。


 復讐を果たしたというのに、やり返してやったというのに、明日香は特に反応を見せない。

 ゆっくりと前のめりになっていた身体を戻す彼女にとりあえず問う。


「…明日香。今の問答は必要あったか」


「ありません。…相方を殺されてどう思っているか聞きたかったんですけど、がっがりです」


 聞き方が悪かったんじゃないのか。


 明日香が立ち上がろうとする。

 手をかすと「ありがとうございます」と小声でつぶやいた。


「さて、これからどうしましょう」


「そうだなあ」


 女の腕をみる。腕時計が嵌められていた。

 まだ動いているが、脈と血圧が急激に下がっているのは数字ではっきりと分かる。

 となると、生存者のうちの1人か。


 直に残り七人になる。俺と明日香を引けば五人。

 ひとつ、懸念していることがあった。



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