二日目・私と彼と一日の終わり ○
おじさんの活躍により、私はサバイバルナイフを手に入れた。
てってれー。
特別軽快な音楽は鳴らない。猫型ロボットのあの声もない。脳内で補完するしかない。
そう考えると現実って過酷で退屈だ。
だからこそアニメや漫画や小説があるんだろう。
持ち主には一応お礼を言っておいた。すでに死んでいるけど。
最初からもっていたナイフは刃こぼれがひどい状態だったが、捨てるに捨てられずまだ持っている。
貧乏性なのだ。私は。
まだ明るい中、しばらく歩いた後、おじさんはふと立ち止まる。
危うくおじさんの背負うリュックに突撃するところだった。
「今日はここで寝る」
木と木の間が狭いところで宣言した。
ちなみに血の飛び散ったファンシーな服装のままだ。そういえば赤から黒く変色もしている。
水浴びしたばかりなのに。運が悪いと言うかなんというか。
「いいですが、早すぎやしませんか?」
「サバイバルの基本だ。本当はあたりが真っ暗になってからの行動は命取りなんだよ」
「へぇ」
確かにそんな気もする。
暗いと転びやすそうだし。
「見張り係は昨日といっしょでいいな?」
「はい」
私が先に睡眠をとると。
おじさんが辺りに簡単な草トラップを仕掛けはじめる。
やらないよりはマシだろう。私も手伝う。
「……あのさぁ、明日香」
「なんですか?」
「自分の命のために他人を殺した人間をどう思う?」
いきなりの質問にちょっと面食らう。
なんと答えれば良いんだろう。
私に人生相談とか、無謀だぞ。
「逆に聞きますが、自分の復讐のために他人を殺した人間をどう思います?」
「……」
「……」
「最低だよな、お互いに」
「最低ですね、お互いに」
最低じゃなかったらここまで生きてこれなかった。
命を食い潰し、食い散らかしながら私たちは生きているのだ。
それは生命ある限り仕方ないことだと割りきらなければいけない。
誰かの犠牲なしには存在できない。
それが嫌なら、食われるしかないのだ。「さて…また明日といきたいところですね」
「そうだな。朝日を平和に拝みたいもんだ」
嘘偽りなく、本当に。
寝込み襲撃は嫌だ。
というか、そもそも寝ている途中で起こされたことに良い思い出がない。
起こされた理由のだいたいが“オトウサン”のストレス発散か―――性欲の――
頬をぱしりと叩いた。
これは思い出してはいけないことだ。
「…そういえばタバコ、もう吸わないんですか?」
「ん? あー、あれが最後。禁煙中」
たいして吸うタイプじゃなかったのかもしれない。
煙いのはあまり好きじゃないのでこちらとしては好都合だが。
じく、と背中の古傷が傷んだ。
「……」
忘れろ。
過ぎた痛みに引きずられるな。
「飯食おう」
「そうですね」
腕時計を見るとかなり人数が減っていた。
あと二日もすれば半分切るかもしれない。
違うか。
弱いものが振るい落とされただけ。
これから先は、生半可な相手じゃなくなるかもしれない。
それでもいい。
このくだらない企画の終わりを私は見たいんだ。
それまでは生きる。
見届けて、死ぬんだ。
私は生き残れないのは分かっているから。
【二日目終了】
【残り 65】