九日目・直後 △
一瞬意識を失っていたらしい。
顔も強かに打ったのか激痛で目が覚めたといってもいいだろう。最悪だ。
猟銃は背中に括り付けられているし、腕時計は――無事だ。不幸中の幸いと言ってもいいだろう。
ただ前原さんから受け取った拳銃はどこかに落としてしまったらしい。
「あいたた…だい、じょうぶ?」
なんとか身を起こして同じように倒れ伏している明日香ちゃんに声を掛ける。
「……」
「明日香ちゃん?」
「……」
返事が返ってこない。これってつまり、
「し、死んでる……」
「…生きてますよ…」
瞼を閉じたまま、弱弱しく彼女は呻いた。
何度か深呼吸を繰り返した後に胡乱気に目を開けた。
「痛くて…」
「ああ、肩が」
断片的な会話をしながら明日香ちゃんはゆっくりと起き上がる。
髪に葉っぱや土がついていた。多分僕もそうだろう。
視線に気づいたのか頭を軽く振り、それからあたりを見回した。
「波の音がする」
独りごちたあとにこちらを向いた。
「すいません、巻き込んでしまって。あんなところから斜面始まっているとは思わなくて」
「巻き、込まれて、ない。下がろうと、して、草に、足取られて、踏みとどまろう、したら、これ」
「恨みっこなしですか」
「なしなし」
たどたどしく説明すると明日香ちゃんは安心したように息を吐いた。
どうやら自分のせいで滑り落ちてしまったと思っていたようだ。
さて、互いの安否も確認し終わったことだし――。
上を仰ぎ見ると、ずいぶんな急斜面から転がってきたようだ。
よく死ななかったものだ。…もしかしてここで運使い切っていやしないか。
ここを登れるかと聞かれればかなり厳しいと答えるしかない。
体力がそこまでないうえに、血も流しているし、疲労もあるし、一言で言えばズタボロなのだ。
とはいっても前原さん一人であんな窮地を乗り越えられるのだろうか。
彼もここに滑り降りて来れば話は簡単になるのだが。
あ、でも後ろから勢いよく攻撃も食らうだろうからうかつには降りれないか。タイミングが良かっただけだろう、僕らは。
「……おじさん、どうするんでしょうか」
「なんとか、するよ。あのひと、は」
そばにあった木に寄りかかりながら立ち上がる。
明日香ちゃんに手を差し伸べると、恐る恐るといった風に手を握り、勢いで立ち上がらせた。
「合流、できるか、わかんない、けど。でも、行こう」
「そうですね」
前原さんを探すことにはメリットはない。
むしろデメリットしかない。現在地の分からない彼のもとに到達するまで体力や水分もろもろを失ってしまうだろう。
いっそ見捨てて終わりまで息をひそめたほうが効率的かもしれない。
だけど、僕はもう逃げたくはなかった。