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人殺したちのコンクルージョン  作者: 赤柴紫織子
終わりに踏み込んだ後
146/178

九日目・危機 ⚪︎

 戦利品のナイフをベルトに挟み込んで(人のこと言えないが仮に転んだら大怪我しそうだ)、何事もなかったようにおじさんは立ち上がった。

 その眼には感情の欠片も映っていない。


 これはいよいよ感情が麻痺してきたか。

 最初はお兄さんからだと思ったんだけど。

 ――考えてみれば、お兄さんと違いおじさんには明確に生きたいという理由がないのだ。それどころか自殺願望持ちだったんじゃなかったっけ。

 別に他人事だから私はうるさく言うつもりはないけど……自棄起こさないか心配なところはある。


 癒し係のブルータスは、死んでしまったし。


「残り十三人か。俺たち除けば十人?」


「そう、ですね」


 もう少しで一桁かぁ。

 長かったな。


「うわ!」


「気をつけろ。危ない」


「すい、ません…」


 落ち葉と生える草で見えづらくなった急斜面にお兄さんが吸い込まれかけた。

 それをとっさに捕まえながらおじさんは注意する。ガラガラと石が転がる音がした。

 滑っている最中に大きな石や木に当たったら痛そう。最悪死にそう。


「これを下るとどこに繋がるんですかね」


「そんなに複雑な地形していないし、海じゃないか。命がけで海にはいきたくないがな…」


 確かにそうだ。

 隙を許さぬ二段構えで崖だってありそう。


「さっきの続きなんだが、そういえば俺たちは何人殺したっけ」


「いちいち覚えていませんよ」


 そんな問い、愚問もいいところだろう。人を殺せばそれだけ偉いってわけでもない。

 もしそうなら私めちゃくちゃ偉くなっている。


 ああ、でも名前を聞いた人は覚えているかな。

 今でこそうろ覚えだが、二年前なら殺した人間の名前を空で案じられた。

 私なりの罪の覚え方だ。いやまあ覚えていないあたりでかっこはつかないが。


「そうだな」


 彼自身もそこまで関心はなかったようだ。

 ――おじさんはどれだけ殺せば早川さんのことを忘れることが出来るのだろう。

 血で血を洗い流していけばいつしか忘れることが出来るのか。

 無理だろうな。

 あの手に残っているものは血じゃない。刺青のようにたちの悪い、後の残る傷だ。

 ただの血ならどんなに良かったことだろう。


「ひぇっ」


 お兄さんが小さく叫んだ。


「…おいでなすった。ゾンビ野郎が」


 忌々しげにおじさんが唸る。

 そちらを見ればゆらゆらと迫ってくる影があった。さっきのと同じかな。どうやって嗅ぎつけたのやら。

 あの状態になるとシックスセンスでも開花するのかもしれない。


 気をぬけばぶっ倒れそうだったので足を強く踏みしめて影を睨みつける。

 不意打ちのように腕時計が鳴った。

 さすがに驚いて肩を跳ねあがらせる。傷に障った。痛い。


「えっ、まさか、あの人、生きて…」


「違う……、ほかに生きた奴・・・・が来ている!」


 ささやき声で返しながらおじさんはゾンビっぽい人とは別の方向を小さく指さした。

 じりじりとゾンビっぽいひとと私たちを警戒しながら進んでくる。


 ああ、そういう……。

 あなたも相打ち狙っているクチですか。


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