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人殺したちのコンクルージョン  作者: 赤柴紫織子
終わりに踏み込んだ後
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九日目・策略 △

 ビービーと腕時計型の生態確認装置が喧しい音を立てた。

 しかも三人一斉になるもんだから非じゃなくうるさい。

 耳を塞ごうとすると腕時計がすぐ近くになるから意味がない。

 あまりにもうるさもんだから一瞬ぶん投げそうになったけどそうすると僕ゲームオーバーになるからグッと我慢だ。


「ちょっと! 待って!」


 向こう側から叫ぶ人の影あり。

 アラーム音に若干かき消されて聞き取りにくい。


「殺しとこうか」


「ですね」


 血も涙もない意見だった。

 おもわず前原さんと明日香ちゃんの顔を見るが二人とも真顔だった。

 もしかして僕と初対面の時もこんな会話していたのだろうか。


「…それで、いいと、思います」


 僕も遅れながら同意をした。

 だってここまで生き残っている人ってただの人じゃない可能性が高いし。

 やられる前にやれって一番言われていることじゃん。


「岡崎」


 前原さんが僕の両手にそっと拳銃を置いた。


「はい?」


「引き金引くだけだから。暴発には注意してくれ」


 そういうことではなく。


「猟銃、あるんです、けど」


「威嚇だ威嚇。片腕吊ってる男より両腕仕えている男のほうが威圧できるだろ」


「そういう、もの、ですか…?」


「何事も第一印象だろ。それにお前が真っ先に狙われそうだから」


 …明日香ちゃんも狙われそうなんだけどな。

 そんなに頼りなく見えているのだろうか。見えているわな。


「動くな。ゆっくり手を上げろ」


 あ、それは言ってくれるんだ。

 そろそろと手を上げてきたのは射撃場でも見るようなチョッキを着た推定初老の人だった。身体は結構がっしりしているな。


「危害は与えるつもりは――」


 初老の人の言葉を前原さんはさえぎる。

 低く唸るような声で。


「信じられる要素がどこにもない」


「厳しいな」


 初老の人は口角を上げて皮肉気に笑う。

 明日香ちゃんが前原さんの背中からひょっこりと出た。


「あなたのお名前は? 私の名前は、明日香」


「おや…お嬢さんまで」


 やっぱり女の子がいるとみんな驚くんだな。

 普通ここにいるとは思わないもんね。


 初老の人は明日香ちゃんの問いには答えず、僕、前原さん、明日香ちゃんをそれぞれ見た。

 名前を教えないのは相手のペースに飲み込まれないためだろうか。


「チームで活動しているんだな」


「こっちは、まあ、わけありで集まったってやつだな。あんたはずっと一人でここまで?」


「いや、もう一人途中で会ったのと協力していたんだが…急な襲撃で死んでしまって」


「そいつは残念だったな」


 前原さんはあくまで冷静だ。

 心の底から信じていないって感じがする。

 と、思うと思わぬことを言い出した。


「来るか、こっちに」


「……」


 明日香ちゃんが非難をたっぷり込めた視線をやるが、前原さんはどこ吹く風だ。

 多分何か考えがあるんだろう。考えがあってくれ。


「俺たちも見ての通りボロボロだ。一人でも戦力が欲しい」


 ボロボロっていうよりボコボコだけどね。

 そうではなく、コレ本気で言っているのだろうか。


「それはいい。賞金は山分けかい?」


「じゃないと背中からさすだろう?」


 はっはっは、と笑いあう男二人。

 明日香ちゃんが助けを求めるように僕を見て来たが僕だって助けてほしい。


 前原さんは一歩二歩と踏み出して骨折していないほうの手を差し出した。

 初老の人も僕たちを警戒しながら近寄り、その手を握って――


「甘ぇよ」


 前原さんは思いっきり引っ張った。

 初老の人が驚愕で目を見開く。前原さんはきつく手を結んだまま片足を振り上げて腹にキックをぶち込んだ。

 同時に手も離れ、コンマ数秒ぐらいは宙を浮いたのではなかろうか。


 前原さんが倒れたその人にやったことは、左腕を踏むことだった。

 明日香ちゃんが小走りで二人のところへ行き、取り出したナイフを強く握った。

 

「な、なぜ…」


「勘。明日香」


 明日香ちゃんは何も言わずに初老の人の首へナイフを刺しこんだ。

 ごぼごぼと声にならない声が上がる。


 腕を震わせながらなんとか奥へ切り込もうとしているようだが、骨に当たったのか動かない。

 前原さんが明日香ちゃんの手の上に自分の手を置いて加勢をした。

 刃が押し込まれた。


「うわっ…」


 首が半分切れてる。吐きそう。

 どうみても事切れた初老の人から足を離し、長袖の裾をめくる。


「黒田官兵衛の策略かよ」


 刃物が仕込まれていた。

 取り出してみると傷だらけで血もこびりついており、これが初犯ではないことを物語っていた。


「ああ、長政に、『家康を空いてる手で刺せよ』って、怒った…」


「それだな」


「それよりなんであんなこと言ったんですか。びっくりしましたよ」


 明日香ちゃんは小さく唇を尖らせる。


「どうせこいつも俺たちとお近づきになって殺そうとしてたんだ。ステージ作ってやっただけだよ」


「どこから、気付いて、たんですか」


「ここまで生き残っておいて策略無しであんな豪胆に話せるわけねーだろ。どちらにしろ殺すつもりだった」


 えげつねぇ。


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