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人殺したちのコンクルージョン  作者: 赤柴紫織子
終わりに踏み込んだ後
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九日目・開眼 ■

「おはよ」


 目を開けた明日香へ、岡崎がどこか呑気に挨拶をした。

 ぼんやりと周囲を見回した後に体を起こし、また後ろに倒れかけたのを岡崎が支える。


「…肩が死ぬほど痛いんですけど……」


 顔をしかめながら左肩を視線だけで見る。

 明日香は変な痛み耐性あるから言葉通り死ぬほど痛いのかもしれない。

 気絶していない状態だったら暴れでもしただろう。


「一回包帯巻き直したからな」


 …膿が酷くなかったのは良かったが、発赤と炎症はどうにもならない。

 仮に今から医療機関で治療したとして、元通り動くかどうか。


「脱がせたんですか…えっち」


「その点については岡崎も同罪だから」


「え、いや、ふかこうりょく、です!!」


 連帯責任を負わされた岡崎が慌てて言い訳を始める。

 不可抗力と言うか手伝ってもらわないとできなかったので(片腕骨折中)仕方のないことだったがフォローはめんどくさいからしないでおく。


「そうですか」


 当の本人は他人事のように話を流した。

 正直に言って明日香は劣情を湧き立たせるような身体ではない。

 改めて見るとわき腹には手のひらぐらいの――個人差はあるが子供の手のひらぐらいの百合の刺青。ところどころに傷痕。

 背中には無数の煙草を押し付けた痕。

 いつごろつけられたものなのか不明だが俺だったら抱くのは御免こうむる。かわいそうすぎて。

 あと胸がな。


「どの位寝ていました?」


「二、三時間ってとこだな。気分はどうだ」


「ままならないですね」


 そんなに駄目か。

 でも逆に「絶好調です!」だとドン引きものだな。


「足手まといにならないようには気をつけますが…あまり期待はしないでください」


 眩暈を押さえるように額を押さえつつ、立ち上がろうとする。

 よろめいたので咄嗟に右の脇に手を差し入れ介助をした。


「すいません」


「いや」


「水、飲める?」


 岡崎が開封していない小さいペットボトルを差し出す。


「今は」


 明日香は小さく首を振った。


「これが終わってからだ」


 不思議そうな顔をする岡崎にあごで方向を示す。

 遠くから明らかに風の音ではない草のこすり合う音が響いていた。

 会話していたから気付かれたのだろう。

 積極的には隠れているわけでもないし、いつまでもすれ違い続けるよりはいいだろう。


「……時に岡崎、さっきのは忘れてくれ。冷静さを欠いていた」


「分かって、ますよ。背中、刺さないから、だいじょぶ、です」


 俺は肩をすくめる。

 さっきのというのはもちろん明日香を殺すか否かということだ。

 『こいつ危ないし先に殺っとこ』とか思われたら大変にまずいことになるためあえて言ったのだが、どうやらお見通しだったらしい。


 でもまあ、半分本気ではあったんだよ。


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