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人殺したちのコンクルージョン  作者: 赤柴紫織子
終わりの一歩前
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閑話・失踪

『もしもし!? 兄さん知らない!?』 


 早朝、突然の電話に出ることが出来たのはひとえに差し迫った締め切りのために徹夜をしていたためだろう。

 声の主は年の離れた幼馴染の年の離れた妹さんだった。彼とは八歳差だったか。

 自分と年の近いほうを『幼馴染の妹さん』というのも違和感しかないが事情が色々あるのだ。

 ほんとどうでもいい。


名草なぐさちゃん? 原ちゃんならしばらく連絡とってないけど……」


『最後に連絡を取ったのはいつ!?』


「え、え?」


 なんかやらかしてしまったのだろうかあの人。

 別に口止めもされていなかったのでわたしは正直に話す。


「一週間前――ぐらいかな? そっちは?」


 他愛もない話だった。

 あの時は人恋しいのだろうな、というぐらいにしか思っていなかった。

 彼とは元カノという微妙な立場ではあるが別れた後もそこまで関係は変わっていない。いいのか悪いのか。


『こっちも一週間前なの……』


 わたしはますます首を捻る。

 そんな、十代の学生でもあるまいし一週間連絡が取れないぐらいでこんなに騒ぐものなのか。

 確かに原ちゃんは言動が粗暴で誤解を招いてケンカに発展するなんてことは若い時はたびたびあったが……今更そんなばからしいことするとも思えないし。そしたらまず警察から連絡が来そうなもんだけど。


「騒ぎすぎよ、名草ちゃん。彼だって男なんだからどっかぶらっと出かけて――」


『兄さんからおととい手紙があったの。指定日郵便ってやつ?』


「うん…?」


 そんな手の込んだことをなぜ?


『自室のベッドの下を見てくれって内容だった。もちろん見たよ。……大金があった』


「え? どういうこと?」


 理解が追いつかなくなる。

 銀行強盗でもした?


「それにね、前原籠原にいさんの保険も、口座も、なにもかも…解約されているの。お金をおろして、部屋にしまっていたの!」


「原ちゃんのが…? どうして。誰の手によって?」


『兄さんしかいないよ…。一緒に住んでいたのに、気付かなかった。本も全部売り払われてた』


 原ちゃんが一人暮らししていたアパートを引き払い、実家に戻ったのがそれこそつい最近だったはず。なにかしら考えて実家に帰った、ということだろうか。

 彼は昔からなにかを隠れてやるのは得意だったが…。

 いや、今はそういうことじゃない。

 ちがう。思考を乱すな。かんがえろ。どうすればいい。


『手紙にはね、金は大事に使ってくれって。いなくなってすまないって――それだけ。何が理由なのか分かんない…』


「連絡は?」


『取れない…。携帯解約してるみたいなの。どうしよう、どうしよう…母さんになんていえばいいの……?』


「……」


 電話の向こう側で泣きじゃくる名草ちゃんの声を茫然と聞いていた。

 どれから手をつければいいのか。何を先にすべきか。

 眠気は消え、身体がすべて脱力し、心臓は氷のように冷たくなっていた。ふわふわと現実感のないめまいに襲われる。


「…失踪届、出した?」


『まだ…』


「じゃあ出しにいきましょう。名草ちゃん、とにかく会いましょ? ね?」


『うん』


 冷静を保つふりだけでも精いっぱいだった。




 それから二日ほど、わたしは原ちゃんについて調べ回ったが――もはや、彼がどこにいるのかさえ掴むことは出来なかった。

 何かの間違いであれと何度祈ったことだろう。

 しかし、その祈りを嘲笑うように、原ちゃんは――前原籠原は私たちの元から去っていた。


 それと同じくして、何人かが不審な失踪を遂げたという小さなニュースが上がった。

 すぐに忘れ去られてしまったがなにせ原ちゃんが消えた時期と大体同じだ。そこを糸口に調べてみたが、あまり収穫はなかった。

 ただひとつ、気になるものはあった。

 オカルトを専門に扱う掲示板で見かけた単語。

 『興味があり行ってみたら想像以上にヤバく恐れおののいて帰ってきた』といった内容で、短く説明がなされていた。

 感想としては、文章もひどいしエイプリルフールは終わったんだと言いたくなるような胡散臭い内容ではあった。(後日再び覗きに行ったらレスが消えていた。何があったのだろうか)

 しかしそれが本当だったとしたら、ぼんやりとしつつも線を結べた、のかもしれない。


 『コレクト』。

 最後の1人になるまで殺し合うデスゲーム。



 ——原ちゃんはそこに行ってしまったのだろう。

 なんとなく、そんな感じがした。




嫌な予感ほどよく当たる

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