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人殺したちのコンクルージョン  作者: 赤柴紫織子
終わりの一歩前
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八日目・来宮明日香の逡巡 参

 ブルータスが突然立ち上がり鼻を動かした。

僕たちの間に緊張が走るが当の彼女はすぐに座り込んでしまった。

 そういうドッキリやめてほしい。


「なんだ今の」


「さぁ…? 人が近づいていると思ったんですけど、リアクションもないですし…」


そんなにブルータスも万能鳴子じゃないと思うんだけどな。

でも明日香ちゃんに助けられたからなのか、ほんのわずかな日数の間でもパートナーとしての自覚は芽生えているらしい。明日香ちゃんに関する危険ならブルータスは放っておかないだろう。


僕と前原さんはどうだか知らないけど。

ふぅ、と明日香ちゃんは深く息を吐いた。


「ホームルームが始まったころを見計らって、防火扉を閉めて――古い学校なので手動なんです――階段に近い教室から襲撃していきました」


 何事もなく話が戻った。

 防火扉ってあの階段の横についている大きい扉のことか。

 確かに最近できたような学校じゃなければ手動のところとか多そうだ。


「この方が逃げられにくいかなと思ってのことだったんですが…結局意味があったのかどうか。恐慌状態でみんなすぐに動けない様子でしたし、やらなくてもよかったのかな」


 コメントしづらい。

 いつも通りの朝だと思ってたらいきなり凶器振り回して同級生殺して回ってたらまず誰だって茫然とするよ。

 勇気ある誰かが行動を始めたところで、少女と言えども武器を持つ人間に立ち向かえる人はごくわずかだろう。

 だって普段は僕たち武器とは無縁で生きているわけだし。

 包丁だって現実では魚をさばいたり肉を切ったりする程度で、まさか人体をさばいたり切ったりとは思うまい。


「でも、その…殺したかった、人は、殺した、んでしょ?」


「はい。漏れはあるかと思いますが、絶対に死んでもらいたい人間はすべてやったかと」


 なんという。

 穴はところどころあるが、計画的犯行なのは間違いがなかった。

 そりゃあ死刑も免れないよな…。


「――けっこうあっさり、でした。それはそうですよね、急所狙いましたから」


「……」


「……」


「京香がうけた痛みも、私がうけた苦しみも、連中は理解できないまま死んだ――殺してしまった」


 後悔を噛みしめているようだった。

 慈愛とか優しさとかで即死攻撃したわけじゃなかったのか…。一瞬「いい子じゃないか」と思いかけてしまった。

 時間的制約——というよりはまだ殺さなきゃいけない人たちがいたから、さっさと終わらせないといけなかった感じか。

 敵に回したくないな…。


「私もあんまり覚えてないんですけど、一通り殺して、そろそろ校長殺すぞーってなった時に桃香に呼び止められたんです」


 ノリが軽い。

 そんなハンバーグについてきたニンジン程度の扱いで殺されかけた校長可哀想。


「…なんて?」


「死にたいって。でも死ねないって」


「……」


「勝手に死んでいればいいのにな」


 前原さんがすっぱりと言った。

 僕はヒヤリとしたけど明日香ちゃんは苦笑いしただけだった。


「死のうとしてたんですよ。でも『もう少し』に届かなかった」


「もう、少し」


「彼女の名誉のためにも補足しますと、すでに自分で自分の胸を刺していました」


行動には移していたのか。


「でも刺さりどころが悪かったのか、躊躇って深く刺さらなかったのか、彼女はまだ生きていました」


 ああ。これは嫌な展開だ。

 テレビならばすぐチャンネルを変えてしまうぐらいには嫌な展開だ。僕はそういうものが嫌いだ。


「桃香自身も混乱しているみたいでした。抜けばいいのか押し込めばいいのかも分からなくなっていたんじゃないかな」


 顛末はもう知っているけど、それでも改めて語られてしまうと、こう、クるものがある。

 無表情で明日香ちゃんは口を開いた。


「だから殺してくれって。とどめを刺してくれと」


 本当に君は、他人のエゴに振り回されやすい。


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