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人殺したちのコンクルージョン  作者: 赤柴紫織子
終わりの一歩前
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八日め・来宮明日香の逡巡 弍

「えーと、確か、私が寝落ちしてあんまり細かくは話してないんですよね」


「してないな」


 そう言えば、あの妙な建物での話だったか。

 結局あそこ何だったのだろう。

 こんなところでこそこそ生体実験していたからヤバいものだとは予想しているが。


「何から話します? 私もとっかかりがないと話しづらいというか」


 やばい。ざっくりと『妹と入れ替わって妹が死んで親殺しました』ぐらいしか覚えていない。

 その後の、明日香の父親と邂逅したインパクトが大きすぎて。

 困り果てて岡崎に視線を移す。

 俺の意図に気付いたのか彼は一つ頷いた。


「明日香ちゃん、の、お友達と、後輩の子、は? どうなったん、だっけ」


 さすが。

 俺に出来ないことをしてのける。痺れも憧れもしないがまあ誉めてやろう。

 しかしこいつもトークスキルはそこそこ高いとは思うのだがどうして25歳になるまで男女関係がなかったのだろう。

 ヘタレな性格がすべてを駄目にしていたのだろうか。


「…前原さん、なんか、失礼な、こと、思ってません?」


「思ってない」


「絶対、今のは」


「思ってない」


 ニュータイプかこいつ。

 「なんか失礼なこと考えている顔でしたよ」とか不名誉なことを喚く岡崎を横に、明日香に話の主役を譲る。

 黙ってやり取りを見ていた明日香は呆れた顔をする。


「まあ、いいです。…桃香、それと萩野君のことですね」


「ああ一年生のか。そいつは事件には結局関わらなかったんだっけ?」


 ちょっと思い出した

 実際にはモモカという同級生も加担していたことと、最終的にその同級生も明日香が殺したということ。けっこう含みのある言い方だったからいらなくなって殺したとかじゃなさそうだが。

 それに、一年生の男子。先輩が殺されたとかで加わって、でも抜けた――とは言っていたが。


「逃げましたからね」


 さらりと。明日の天気を予想するような気軽さで言いきった。

 そこに含まれている感情は、ない。


「逃げ…たの?」


「敵前逃亡というんでしたっけ」


「と、いうと?」


 珍しく(短い期間の付き合いだから珍しいというのもなんだが)明日香は笑いを含んだ声音で説明を始める。


「覚悟が足りていなかったんですよ。相手に対する憎しみや怒りは、まだ理性で抑えられる程度だったのかもしれません」


 揺らぎがあった、ということか。その少年には。

 そりゃあ人を殺すなんて決心していてもいざその場面になると腰が抜けるだろう。

 『だろう』って憶測で語って気付いたけど俺も人を殺していた。早川が死んだことでいろいろ吹っ切れてしまったから、実を言えばこの島での殺人行為にはそんなに悩んでいない。

 俺はそんな感じだったが、一介の学生には当然ショックなことだっただろう。


 なんせ、人が病死でも衰弱死でもない交通事故でもない――意図的な、殺意によって死んだのだから。


「私が一人目と二人目殺した時点で腰が抜けたんでしょう。あんまりにも震えているので声を掛けたら――走って逃げてしまいました」


 くすくすと、明日香が笑う。

 殺人現場から逃げたというより、こいつから逃げたんだろうな。

 少し想像してみた。怖い。


「おまえは追いかけなかったのか?」


「桃香は殺そうって言ってましたけど、私は特に何も。時間の無駄ですし」


「そのモモカもけっこう頭がアレなやつだな……」


 話を聞く限り、もう少し大人しい少女だと思っていたが。

 明日香が『壊してしまったかもしれない』と嘆いていた通り本当に壊れたからこそのセリフという場合もあり得そうだが。


「友達が殺されてしまいましたから、ね」


 そこには憐憫がにじんでいた。

 親を殺した一件については雑草抜きましたみたいな気軽さだったのに。

 妹――キョウカへ向ける(いささか歪な)愛情ほどではないが、それなりに友達思いだったのだろう。

 級友に囲まれてきゃっきゃしてる明日香なんてまったく想像できないぞ俺。


「それで、」


 俺が妄想に沈んでいるのを横目に明日香は続ける。


「死体はひとまずロッカーに隠して朝礼時狙ったほうが良いかなってことになりました」


「おい、じゃあなんでフライングしているんだよ」


「萩野君がどうしても殺したいといっていた二人組だったので。早く来るのは知っていたので待ち伏せしてサクッと。肝心の彼が使えなかったから私の手でやりましたが」


 軽かった。

 殺人行為だと知っていなければただのいたずらかもしれないと勘違いできるほどに一切罪を感じていない話し方だった。

 命の尊厳とか、価値とか、そういうものを考えもしないのだろう。

 下手するとこういうこと取り調べでも素で言ってたんじゃなかろうか。どっからどう見ても異常殺人鬼じゃん。


「待って。その、はぎのくん? が、誰かに、助け、求めたり、して…」


 たどたどしく質問する岡崎。

 言わんとしたことは分かったようだ。


「彼は密告も何もせず、沈黙を保ったままだったようですね。じゃなかったらあんなに殺せていませんよ」


計画の邪魔だけはしなかったってことか…。

今頃そいつはどうしているんだろうな。

殺したい奴も殺してもらって、犯罪者とならずに、今もどこかで生きているのだろうか。



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