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人殺したちのコンクルージョン  作者: 赤柴紫織子
終わりの一歩前
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八日目・来宮明日香の逡巡 壱

 話を聞いていくうちに、このゲームの最後まで見てみたいと思っていたがさらに上乗せして勝者がどうなるのかも知りたくなったりする。

 でもどうだろう。見届けられるかしらん。

 出血量も次けがしたらアウトな気がするし、身体も精神も疲労している。逃げ切れるだけの体力すらあるかも分からない。

 行き詰まりだ。どうしようもないなぁ。

 でもまだ手詰まりではない、か。


 手持無沙汰だったのでブルータスの耳を伏せさせる遊びをする。

 こうするととても情けない顔になるのだ。

 それにしても触るたびにケモノ臭さが出るなこの子。当たり前か。


「そういえば」


 おじさんはいまだ進展のない話に飽きたのか、話題を変えて来た。


「今の話で思い出したけど明日香、高校襲撃の顛末ってどうだったんだ?」


 私が痛みを負う話題だった。

 確かにさっきまでの流れで言えばお兄さん、おじさんときて私の番なんだろう。

ーー本当に不服しか残らない終わりだったからあんまり思い出したくもないというか。


「…しでかしたことに比べればあっけない幕閉じでした」


 私にとっては。

 派手に終わらすつもりは毛頭なかったけど、そんなつまらない終わり方をするつもりもなかった。


「そうなのか?」


「校長も襲撃事件隠ぺいに噛んでいると聞いていたので、あらかた殺し終わった後に探しにいきました。そしたらちょうど逃げるところでして」


「…それだけ、でも、すさまじい、なぁ」


 自分のことながら、さぞすさまじい姿だっただろう。

 ブラウスもリボンもカチューシャも何もかも血に染まり、ひどく重くて不快だった。

 その状態で迫ったんだから校長もビビっただろう。


「『妻と娘がいる、助けてくれ。私がいなくなったら二人とも死ぬしかない』———でしたっけ。そんなありふれたべったべたなセリフに一瞬動きをとめたのが運のつきでした」


「お前にしては人間味あふれるエピソードだな」


「私だって人間です」


「灰皿で親を殺した奴が良く言う」


「それとこれとは別物ですし、便宜上家に転がり込む男どもを親と呼んでいるだけで別に肉親だとは思っていませんよ」


 お兄さんがハラハラとした顔で私たちの顔を交互に見るので口を閉ざした。

 会った時から軽口を叩き合っているのであんまり気にしなかったけど傍から見ると導火線に火がつく一歩前みたいな会話なんだろうな。


「……その隙に校長は逃げてしまいまして。さらに悪いことにその間にほかの先生方が追いつきました」


 確か三人掛かりだったような。

 気づいた時には床とおでこがごっつんこしていた。


「か弱い乙女な私はあっさり組み伏せられて終わりです。ね、なんともマヌケな終わりでしょう?」


「一か所ダウト。誰がか弱いだ――しっかし、やるもんだな。取り調べの時は周りの目が痛かったんじゃないか?」


「それなりには。当然というか、理由を聞かれたので、三華宮襲撃事件のことを持ち出してみましたが反応はいまいちでした」


「その……死んだ、人質の、子、たちの、こと?」


「はい。でも、結局は妄言扱いでした」


 狂っている、と何度言われたか。

 これが狂わずにいられるか。

 知らないのは幸せだ。羨ましくさえ思う。


「事件のこと知っているやつは一人でもいなかったのか」


「多分いたんでしょう。今となっては分かりません」


 知っていたとしてもごく一部だろうし。

 そういえば京香たちを撃ち殺した人たちは今頃何をやっているんだろう。せいぜいむごたらしく死んでくれれば言うことないのだけど。


「かつ丼は食ったか?」


「まさか。代わりに説教は食らいました」


「説教。なんて?」


「『どのくらいの人間の未来と幸福を潰したと思っているんだ、残された人に責任を取れるのか』と」


「で、お前の返答は?」


「『知るか』って、言ってやりました」


 ほう、とおじさんは悪い笑みを。

 お兄さんは呆れたような顔をした。


 だって、本当に、他人の未来なんて他人事なのだから。

 責任なんて知らない。

 京香の死に誰も責任を取らなかったのだから、私も別に取らなくていいだろう。


 ーー誰かの幸福を奪っても私は幸福になれなかった。


「で?」


「怒鳴られて、引っ叩かれました」


「そりゃな」


「そりゃ、ね」


 それもそうか。


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