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人殺したちのコンクルージョン  作者: 赤柴紫織子
終わりの一歩前
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八日目・前原籠原の告解 前

 あたりは群青色に満たされている。夕方と夜の境目。

 今夜は川のそばに陣どることにした。というかもう、動けなかった。

 この長い長い一日は、僕たち三人…と一匹を疲労させるのに十分すぎるほどだったのだ。


 たき火はいいものだ。

 雨のせいで湿った枝が多く、薪のために乾いたものを探すのはそれなりに骨が折れたがやはり火を見ると安堵感を覚える。

 ついでにどこから見つけて来たのか、明日香ちゃんが山登りで使うような小さな鍋とレトルト食品を持ってきていた。


「枝探してたら途中で見つけました」


 などあまりにもシンプルな回答だった。

 まさか地面から生えているわけあるまい。

 詳しい説明を求めたところ、


「枝探していたら死体があって、荷物漁ったら見つけました」


 とのことらしい。豪胆である。僕なら絶対やらない。

 今はそれを水で満たし、レトルト食品を入れ、たき火に突っ込んでいる。お湯が冷めれば飲むこともできるだろう。

 不純物とかレトルト袋からなにか溶け出していないかなどきになることはあったけどもう皿を食らわば毒までである。


「白米と五目飯とわかめご飯か。なかなか豪華なラインナップで」


 前原さんがぼやく。ちょうど三つあるので味で揉めなければみんなに行きわたる。

 ブルータス? お肉を食べて今にも寝そうな顔してるよ、ははは。

 その肉は人肉だけどね。ははははは。


「そろそろか」


 ぼこぼこと沸騰するお湯の中で踊るレトルトを前原さんは箸で外に放り出していく。

 熱くないのだろうか。

 明日香ちゃんがちょんとそれに触れて手をひっこめる。熱かったらしい。


「じゃあ、どうします? 誰が、何、食べるか」


「ぶっちゃけなんでもいい」


「それは、僕も、ですが」


 僕だっておなかはあまり空いていないし、そもそも頬が痛くて食べる気にもならないが明日も動くためには食べなくてはいけないだろう。

 明日香ちゃんが「めんどうくさいですね…」と適当にひとつずつ投げて来た。僕はわかめ。

 バックからプラスチックのフォークを取り出す。コンビニで渡されるようなあれだ。ここに来て始めて殺した人から奪ったものだ。

 もはや礼儀もマナーもへったくれもないこの島だから、人目をはばからず手で食べてもいいとは思うのだけど僕の人間のプライドが許してくれなかった。

 だから簡易個別されて開封されていないこともあり、これ幸いと持ち去ったのだ。


「いただきます」「…いただき、ます」「……」


 それぞれ三人三様に食事に取り掛かる。

 おなかが空いていないといったが、あれは嘘だ。一口食べたら身体が空腹を訴えて来た。

 舌を火傷しながら食べていく。


 しばしの無言。

 鍋を火からおろした。パチパチと爆ぜる木の音に耳を傾ける。


「……俺もさ」


 ごみを火に放り投げるという本土では絶対にやってはいけないことをしながら前原さんは切り出した。


「話していいか。すっごくつまんねえと思うけど」


「話すって、何をですか」


 まだ半分も食べ終わっていないらしき明日香ちゃんは顔も上げずに応じる。

 僕はジェスチャーで先を促した。

 が、前原さんは難しい顔をして悩み始める。


「あーっとな……いいんだろうか。これって逃げってことにならないか」


 なぜだかは知らないが、今彼は何かを口にすることに足踏みをしている。


「よく、分かりません、けど。なにか、やらかした、って、話、ですか?」


「そうだ」


 アウトローな事やらかしていそうな怖い顔していますもんね。

 などと言ったら命が危ないので黙っておこう。

 実は前原さんがヤーさんだったとしても驚かな…そういえば特殊部隊の人だったっけ、この人。


「何を悩んでいるか分かりませんが、話すことで告解になるんじゃないですかね」


 明日香ちゃんが上手くフォローにはいった。というよりよくそんな言葉を知っていたものだ。

 いや、彼女を馬鹿にしているわけではなく。日本ではあまり聞かないから。


 それにしても告解、なあ。

 罪の告白だろうか。聞きたいような聞きたくないような。

 前原さんも真っ当に生きてきたわけじゃないのだろうか。

 

「……」


 短い時間逡巡して。


「俺自身のことなんにも喋ってないのは不公平だからな」


 ふう、と前原さんは空を見上げる。

 見えているものはきっと、今この景色じゃない。

 どこか遠くの今から語られる時間。


「じゃ、始めるか。俺が相方を殺した話を」


 

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