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人殺したちのコンクルージョン  作者: 赤柴紫織子
終わりの一歩前
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八日目・追加ルール

「ああもううまくいかない。岡崎ちょっとこれやってくれないか」


 苛ただしげに前原さんが僕を呼ぶ。

 どうやら足首から手首に腕時計を移動させたいようだが左手を折られているために手間取ってしまっているらしい。

 特に断ることもない。生体反応がなくなったと誤認されたら大変なので素早く移す。

 けっこう手が大きい人なんだな。僕の手と比べると一回りでかい。


「さんきゅ」


「いえ」


 なんとかなったようで安堵の息を吐く。


「しかしまあ…ずいぶんやられたようで」


 後ろから明日香ちゃんが声を掛けてきた。

 泣き腫らした目を軽く伏せながら、ところどころ殴られたせいかぎこちなく体を動いている。

 先ほど義父をぶっ叩いたことで限界が来たらしく、見ている限り右手を動かしているところを見ていない。神経とか大丈夫だろうか。

 顔も傷だらけだし痛々しい意外にない。


「ほんとだよ。俺はサンドバックじゃねーってんのに」


 木の棒と布で即席の骨折応急措置をした左手を支えるようにしながら前原さんが毒つく。

 あちこち叩かれたり殴られたりしたようで明日香ちゃん同様身体が痛むらしい。歯も折れているというから散々だ。

 しかもさっき残党処理でアシクビクジキマシターしていたから。

 その散々な前原さんをさっき僕たちは蹴っていたわけだが。まあ仕方ないね。


「前原さん、あとから、追いかける、とかいっていたのに、サンドバックに、されてたんですね…」


「うるせえ。すげー恥ずかしいからとりあえず黙れ」


僕がそういうと、露骨にそっぽを向いた前原さん。

 小さく笑うと、頬と耳がひどく傷んだ。痛み止めが恋しい。

 顔が腫れているので細切れに区切りつつ離さないとうまく発音ができなくなった。

 こうなると健康体がいかにありがたいか分かるというものだ。


「…あれ」


 明日香ちゃんは驚いたような声を上げる。

 左手に巻いた腕時計を見ながら。


「どうしたの?」


「もう残り人数が二十一人って…」


 僕もつられて見る。確かに残りは二十一と表示されている。

 最後に確認したのは何時だっただろうか。一日二日前か。しばらく確認していなかったように思う。

 あの時はまだ三十人で、確かなんか新ルールをいれるとかそういう感じの文が流れていたような…。どうだったっけ。


「どんどん殺されていくな…さっきのを含めると九人中半分以上は俺らか?」


「そう、考えると、僕たちかなり、危ないやつら、ですね」


「事実そうだし」


 断言されてしまった。

 ちょっと凹んだ。

 とくに面白味のないデジタル画面を見ていると突然『一』が『十』に変わった。


「えっ」


 画面はただ冷淡に状況を吐き出す。


【残り 二十】 


「なんだ」


「たった今表示が変わったんですけど――」


 誰か死んだのだろう、今。

 僕には全く関係のない人で、会えばきっと敵同士になっていたんだろうけど…なんだか悲しい気分になる。


 そんな気分をぶち壊すように腕時計が突然けたたましく鳴りだした。こんな機能あったのか!

 僕だけではなく前原さんと明日香ちゃんのも一緒だ。

 とてつもなくうるさい。


「なんだ!? 爆発するか!? ———あれ」


 慌てている間に音は鳴りやむ。

 なんだったのかと放心する時間もなかった。


「おじさん、お兄さん! なんか説明が流れています!」


 見れば確かに画面の右から左へなにやら文章が流れている。これは三十人切った時と同じだ。

 小さい文字で見にくいので顔を近づける。


【おめでとうございます。残り二十人となりました。ここからは追加ルールを提示させていただきます】


「……」


【あなたを中心とした半径十メートル内に別の生体反応確認装置が近づいた場合、】


 つまり腕時計をした人がそばにいたら、


「……」


【十秒間、アラームを鳴らすように設定されました】


 お互いの居場所を教えてくれると。

 なんてありがたい機能が入っていたんだ。


「……」


【それでは、ご健勝をお祈りいたします。十人を切った場合再び新ルールを提示させていただきます】


 文字が完全に流れ、それぞれ情報を飲み込む。

 さっきのあれは、僕たちが半径十メートル以内に入っていたからアラームが鳴ったのか。

 一度鳴らせて入り、半径十メートル以内から出てもう一度入り直さなおすということをしなければむやみにはならないらしい。


 それにしても、だ。

 これって仮に隠れていても範囲内に入られたら音でばれるじゃん。やみくもに歩き回っていたら下手すると偶然たまたま気づかずにいられた相手に気付かざるを得ないじゃん。

 戦えというのか。もちろん即刻逃げるのもいいだろうが。

 確かにこの島は広いから、この減少した人数ではそうでもしないと邂逅は難しくなるだろう。

 でも、だからといって。こんな仕組みを作るなんて。

 どうせあちらも所在が判明したら殺しにかかってくるだろう。そうしたら、死ぬか殺すしかない。

 なんて性格の悪いルールだ。


 僕たちは暗くなりつつある空に向かって叫んだ。


「「「迷惑!!」」」


もうすぐ終わると言ったな?あれは嘘だ

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