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人殺したちのコンクルージョン  作者: 赤柴紫織子
終わりの一歩前
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八日目・後片付け

 そこらにいた残りの連中を潰していたら足首くじいた。

 幸いにも全く歩けないというわけではないが。

駄目だな、ダメージの蓄積が思ったよりも馬鹿にできない。どうにも体の重心がぐらついていてまっすぐ歩けない。荷物は減らさないといけなさそうだ。


 兎にも角にも、義理の父親を惨殺ころし終えて、それまでの緊張の糸が切れたのが大泣きし始めた明日香をどうにかしないといけない。

 ブルータスは死体食べに行っているし、岡崎はおろおろしているばかりで役に立たなかった。おまえのほうが年が近いだろうが。

 幼馴染をどうあやしていたか思い返しつつ、ぐすぐすと泣きじゃくる明日香の背中を擦る。


「ほら、こんなとこでいつまでも泣いていたら一人二人聞きつけてまた面倒なことになるぞ。ちょっと場所を移そう、な?」


「だって…」


「何がだってだよ」


「おじさん死んじゃったじゃないですかぁ……」


 情けない鼻声で明日香は言う。

 岡崎もそれを聞いて顔を真っ青にしてこちらを見た。

 何のことかわからなかった。なんか殺されたんだけど俺。

 少し考えて、そういえば生存の証となる腕時計を取られていたことを思い出す。


「ああ…それなら大丈夫だ」


「なにがですか…もうこいつらの腕時計だって機能してませんよ…?」


「取られたのダミーだから」


「は?」


 明日香と岡崎の声がだぶった。

 ちゃんと、というか一切話していないので無理もないか。

 これで得意げに説明しておきながら失敗したら憤死ものだったし、ゲームルール的に残念俺の人生もここで終わりだ状態になるので岡崎に尋ねられた時もはぐらかしていた記憶が。


「足首に、ほら」


 裾をまくりあげて無理無理に巻き付けた腕時計を晒す。

 いくら成人用だとはいえやっぱり足首に見合うサイズではないのでベルトを通す穴を追加してある。


「……」


「生きているんだから足首だって脈はあるはずだろ? 腕よりは脈が弱そうな気もしたがとりあえず機能はしていたから――どうした?」


「……」


 二人は口を引き結んで、黙ったまま俺の話を聞いていた。

 黙っているにしてもなんだか様子がおかしい。不機嫌だ。

 空気が変わったのを察してか、口の周りを真っ赤にしたブルータスが帰ってきた。人の味覚えてしまったんだなぁ…。


 明日香と岡崎は目を合わせて頷き合う。

 そして、示し合わせたかのように俺の脛を足を蹴り始めた。


「いて! やめろお前らやめろマジやめろ!」


 あと座っている明日香のほうが痛い。


「なんですか、そのオチは! 流石の僕で怒りますよ!」


「恥ずかしい! すごく恥ずかしい! なんか真剣にいろいろ考えてしまったじゃないですか! 恥ずかしい!」


「ああ!? んだよおめーら騙されて逆切れかよ!」


 頬を押さえながら蹴る岡崎、痛みをこらえる顔をしながら蹴る明日香。

 こいつら自分の体に痛みを与えてまでも俺の弁慶の泣き所を狙うのか。


「ええそうですよ! 逆切れ以外にありますか!」


「どうして、僕たちに、そういう重要なこと、言ってくれなかったんですか!」


「だー、実験的なノリだったんだよ! というか怪我しているのに元気だな二人とも!?」


 ブルータスは遊んでいると勘違いしているらしく尻尾を振りつつ周りをまわっている。

 どう対処すりゃあいいんだ。



 ひとしきり騒いだ後、全員でため息をつく。

 そこに込められた思いは本人にしかあずかり知らぬことだろう。


「脛いってぇ…とりあえず移動するか…」


「はい」


 泣いていた時と打って変わってけろりと返事をしやがって。少し明日香を恨めしく思う。

 岡崎も小さく頷いた。血は一応止まったとはいえ、また刺激を与えれば再び出血してしまうだろう。話すのも億劫そうなのに何でさっきは叫んでたんだ。アドレナリン大サービスか。


 ここにある死体だれかの小さめのバッグが見つかったのでそれを使うことにする。

 俺の元々使っていたリュックはほとんど荒らされた形跡がない。それもそうか、短時間で事が運ばれていたわけだし。暇はなかっただろう。

 中身を取捨選択しながらバッグに突っ込んでいく。片手しか使えないので苦労した。


「うわ」


「どうした」


 声を上げた岡崎のほうを見る。彼は漁っていたバッグをひっくり返して見せた。

 メダルがたくさん出て来た。

 明日香の義父が巻き上げたものだろうか。


「重そうです」


率直な感想だった。

確かに重そうだけど。


「記念に二三枚貰っといたらどうだ」


「なんの記念ですか…いりませんよ」


 岡崎は小さく出来たメダルの山をつつきながらぼやく。


「いざとなったら投げるぐらいには使えるんじゃね」


 もはや当初の存在理由など完全無視である。積極的に集めているわけでもないし。

 それに今は武器と食料が欲しい。

メダル考えた人泣くでしょうね、と明日香が横で呟いた。


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