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八日目・待機波乱

「ぐおおお落ち着け、ブルータス!」


 抱き留めている腕の中の犬は明日香ちゃんのところへ行こうと必死だ。

 その気持ちは分かるけど、ブルータスがここにいるというのは明日香ちゃんが心配してのことからだった。

 守るために。

 そのために、明日香ちゃんは僕に預けたのだ。

 今ブルータスが飛び出せば彼女の中で片付いた一つの事柄がまた負担となりかねる。


 彼女は人目を引き付ける係――陽動を選んだ。

 もちろん彼女も攻撃のチャンスさえあればしていく。大体の人たちはこちらで対処するつもりだけど。

 落ち着いて撃てば標的なんてすぐ当たる。と、いうのはまあ口で言うのはすごく簡単だが。

 移動しながら撃つよりこうやって静かに狙うのであれば、自慢じゃないが僕の射撃率はそう悪くない。

 弾があるか確認して、依然として暴れるブルータスを押さえる。頬に爪たてられて痛い。


「…分かってあげて」


 ブルータスには難しい人語など理解できないだろう。

 それでも僕は囁く。

 もしかしたら明日香ちゃんだけを行かせた後ろめたさをこうやってごまかしているのかもしれないけど。


「彼女は、一人で戦いたいんだ」


 前原さんのために。

 そして、父親(トラウマ)とけじめをつけるために。


「一人で…」


 前原さんの件は僕は全力で行うが、明日香ちゃん個人のことは今のところ静観で行こうと思っている。

 彼女もそう言っていた。

 『殴られていても叩かれていても、あの男との勝負だけには手を出さないで下さい』と。

 後ろめたいものはあったけど、僕は了承した。

 明日香ちゃんがそうしたいなら、そうさせるべきだ。


「すぐに君の出番は来るから。それまでこの作戦に付き合っていてくれ」


 しばらくの間はまだバタバタともがいていたけれど、諦めたのか願いが通じたのかブルータスは落ち着いた。

 一安心して猟銃を構える。

 まだここからでは何も見えない。もう少し近づかないといけないだろう。

 明日香ちゃんからの合図が来るまでは遠くで待機ということになっている。

 見つかって僕まで捕まるとかややこしい展開だけは避けたいし。ヘタレのほかにマヌケという称号を与えられるのは嫌だ。


「あ」


 男性の叫び声。やっぱり事前に言っていた通り、容赦なく殺したらしい。

 声の大きさなどから察するにもう少し前に進んでも問題はなさそうだ。

 慎重にこれ以上ないってぐらい緊張しながら歩を進める。


 どうか、君が過去に勝てますように。

 

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