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二日目・俺と猟銃と無意識 ■

 銃の音が響いた。

 と同時に犬が血を撒き散らしながら倒れた。

 もう一匹は轟音と仲間の死に恐れをなしたのか、情けない鳴き声をあげながら森の奥へと消える。


 犬の倒れかたと血の飛びかたで弾が飛んできた方向の大体の予想をつける。

 そして、ゆっくりとソレが飛んできた方向を見やった。


 ジャスト。青年がいた。

 猟銃を持って。


 その銃口からは微かに煙があがり、たった今撃ったばかりだということを証明していた。

 しばらく犬を眺めていたが、俺が見ているのに気づいて彼は銃を下ろす。


「…大丈夫ですか?」


 どこか悲しそうな笑みを浮かべ、青年は声をかけてきた。


「……ああ」


「それは良かったです。では」


 くるりと背を向け、早足で去ろうとする。


「おい」


 都合が良いはずなのに何故か呼び止めてしまった。


「はい」


 律義に振り向いて返事を返してきた。

 この場合その方がいいんだが、いいんだがお前よくそれでここまで生き残れたな。

 明日香もこいつも、妙なところで抜けている。

 ――いや、明日香は初っぱな、つーか昨日俺が殺しかけたんだよな。

 一日が濃い。

 じゃなく。


「何もしないのか」


「何もされなければ」


 そうきたか。

 ふむ、と頷いて話を終了させる。

 ぶっちゃけ勝てる確率が低い。弾を装填させるまでに近寄れればいいが、そこまでにどんな障害があるか分からないからだ。


「頑張ってください。そちらの子にも」


「……」


 明日香は何故かむくれて黙ったままだ。

 後がめんどくさそうだな。


「似てる」


 青年はそんな明日香を見てぽつりと洩らし、そのまま森に消えた。


「……」


「……」


「…なに怒ってんだよ」


「そりゃ怒りますよ」


 だから何でだよ。


 無表情を少し崩し、口をヘの字にして俺を見上げる。

 瞳の奥で仄かに怒りが見え隠れしていた。


「なんで私を見捨てなかったんですか」


「は?」


「あの時近寄ってきたじゃないですか。私を助けるつもりだったんですか?」


 ……。ああ、なるほど。

 ほぼ無意識だった。 無意識に、彼女に近寄っていた。


 でもそれだけの理由じゃ駄目なんだろうな。

 どうやら明日香ちゃんは思春期の真っ只中にいるらしい。

 面倒なお年頃だ。


「まあ、助けるつもりではあったが。駄目だったのか」


「……私を助けたら死んでましたよ」


「それが?」


見殺しにするよりかはよっぽどいいじゃないか。

 たとえそれが自己満足としてもだ。


 なにもしなかった、できなかったという事実のほうがよっぽど辛い。

悪夢みたいに毎夜毎夜上映されるあの光景にまた新たにフィルムが追加されるのは勘弁願いたい。


 今度こそ気が狂う。


「分かりません…おじさんは自分を犠牲にしてまで他人を守るのですか?」


 おや?

 だいぶ混乱しているみたいだ。

 まるでこんなことが今までなかったみたいに。


「親とかやるだろ。転んだとき自分がクッションになるとか、危ない道は道路側歩くとか」


 あれも無意識だろう。

 あんまり思い出に残っていないならそこまでだが。


「あるだろ?反射的に抱き締められたり、庇われたり」


「え?」


 明日香は、本当に驚いたように目を見開く。

 初めて聞いたとばかりに。


「親が……なんで子供を庇うんですか?」


 おいおい。


 おい、まさか。

 新聞とかテレビでよく見るような放置された家庭に育ったってわけじゃないよな?


「そんなこと、両親にはされませんでしたけど」


「……抱っこは?」



「少なくとも、物心ついてからはされませんでした。抱きしめられたことも」


「…じゃあ、何をしてもらってたんだ?」


「……」


 ふと表情が曇った。

 そして、無意識なのか軽く脇腹に手を当てる。



 今更思い出した。

 こいつ、親を殺していたんだ。


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