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第8話

失恋するとその気持ちを解消する為に人が取る行動は様々だと思う。

連日のようにお酒を飲む人もいれば、お金は大丈夫?というぐらい買い物をする人もいる、吐くぐらい食べて過食症になる人もいれば、家中を見違えるほどにきれいにするという人もいるらしい…。

そして、優理子の場合はネットに依存する事だった。

それで、本当に気持ちが解消されているのかと聞かれれば疑問だった。

けれども、ネットで知り合った人との恋に破れて、気持ちを落ち着かせるにはやっぱりネットしかないような気がした。

とはいえ、優理子自身はそれには気づいていなかった。

和人と別れた翌日から、優理子はネットに依存するかのように、連日ネットに繋いでいた。

知人のHP訪問、ショップ検索、チャット、そして出会い系サイトと呼ばれる類のメル友募集の掲示板に書き込みもしたりした。

顔も知らないけれども、男の人からたくさんのメールが来るのは気もち良かった。

皆、何を期待してこんな事をしているのだろうと思うと、呆れたりもしたけれども、顔も知らない相手に気に入られようとして一生懸命に言葉を探して、それを伝えてくる相手を想像するのは悪い気分はしなかった。

けれども、ふと我に返った時、それらは、優理子にとって滑稽に思えた。

優理子はそんなメールをどこか冷めた気もちで読み、差し障りのない文章で返事を書いた。

バカバカしい…

時にそう思いながら…

けれども、数ヶ月前までは優理子も和人とのメールを心底楽しんでいた。

たくさんの言葉でこちらの気もちを和ませてくれた和人、その時は本当に気もちを込めてメールを書いたし、楽しくて仕方なかった。

でも、メールではその人の事を全部知るのは難しい。

どんなにその人が心を込めてメールを書いていたとしても、内面を知ることは出来ても、本当のその人の人物像が見えるわけではなかった。

なぜなら、言葉を選んで書いているから…

例えば年齢…これは黙っていれば、相手にはわからない。例え、会ったとしても、年齢よりも若く見える人、老けて見える人がいても何ら不思議はない。

そして彼氏彼女の有無、既婚未婚…

こんな事は黙っていれば、まず絶対にわかりはしない。

和人がずっと黙っていたように…



優理子がメールをやり取りする相手の中に、1人だけ、やけに長いメールを送ってくる人がいた。

いつも優理子が差し障りのない文章を適当に打ったものに対しても、すごく丁寧に、こちらが読んで楽しくなるような引き込まれてしまうようなメールを送ってくる人がいた。

そして、最初は、どこか冷めた気もちで読んでいたそのメールに、優理子は次第に引き込まれていった。

やがて、気がつけば、優理子は他の人のメールには返事をせずに、その人にだけ返事をするようになっていた。

他の人のメールに返事をする時間がないぐらいに、その相手は長いメールを送ってきたし、優理子も長い返事を返すようになっていた。

そして、メールの交換を始めてから、3ヶ月ぐらいたった頃、その相手から「そろそろ会わない?」というメールが届いた。

メールをやり取りしていれば、そういう時が来るのは珍しい話ではない。

和人との時だって、互いに楽しいと思い、相手に会ってみたいと思い、そうなったのだ。

けれども、一度それで失敗している優理子にとっては、その誘いは気を滅入らせるもの以外のなんでもなかった。

優理子はメールのその部分の事には触れずに返事を書いた。

けれども、彼はその後も何度かメールの所々にその手の誘いを書いてきた。

もう誤魔化してはおけないと思った優理子は、ある日「何でそんなに会いたいって思うのかな?」と返事を書いた。

彼は、メールの中だけでなく、本当の優理ちゃんが知りたいと言った。

そして、メールの中の僕だけではなく、本当の自分も知ってほしいと…。

優理子は彼のその言葉に和人にはない誠実さ、相手を思いやる気もちを感じた。

確かに和人も誠実だった。相手を思いやれるような人だった。

でも、一番大切な部分では、相手を思いやることの出来ない人だった。

本当の優理ちゃんが知りたいと言ってくれたその気もちに、本当の自分を知ってほしいと言った彼の言葉を、優理子はもう一度信じてみようと思った。

きっといい人に違いないと…


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