第6話
和人から連絡が来たのは、あの日、街中で偶然会ってから、2週間が経った頃だった。
「どうしてる? 元気?」
さも何もなかったかのようなメールに、優理子は苛立ちを感じながら、けれども責めても仕方がないと、平静を装って返事をした。
「元気だと思う?」
「うーん、どうかな、わからないけれども…」
そうね、あなたには絶対に私の気持ちなんてわかりっこない…
優理子はそう思いながら「元気よ」と短く返事を打った。
あの日からずっと放置されていて、元気なわけがない。
和人が結婚していたという事を知ったショックはものすごく大きかった。
2,3日は食事も喉を通らなかったし、寝ても覚めても和人の事ばかりを考えて過ごした。
全く音沙汰がなく、本当にこのまま連絡が途切れてしまうのかと思うと、何度も涙を流した。
それが流しても無駄な涙だとわかっていても流さずにはいられなかった。
「ずっと連絡をしなくて怒ってるか?」
和人は悪びれる様子もなく、聞いてきた。
怒っていると言って欲しいのだろうか、それとも怒っていないと言って欲しいのだろうか…?
優理子はとりえあず「怒ってないよ」と返事をした。
確かに、怒ってはいなかった。
怒りという感情は、優理子の心にはほとんどなかった。
けれども悲しかった。つらかった。そして何故?という想いばかりが胸をいっぱいにしていた。
何故、私と会ったの?
何故、私にキスしたの?
何故、私を抱いたの?
奥さんがいるのに…
「一度会おうか? 会ってきちんと話そう」
和人はそう言って、優理子に時間を作ってくれるように頼んだ。
そして、優理子もまたそうしたいと思っていた。
本当は会えば会うほど、切なく、別れづらくなるというのに…
自分を裏切っていた相手など、会う必要もなく、電話やメール1本で別れてしまえばいいというのに…
でも、優理子にはそれができなかった。
そうする事が出来るぐらいなら、この2週間、何も悩む事はなかったと思う。
迷って、悩んで、それでも嫌いになれなかったのは、それ以上に和人を好きになっていたから…
和人に心を許していたからだった。