第5話
クリスマスの話として書いてきましたが、気づけばクリスマスが終わってしまいました。
でも、それでも最後までお付き合いいただけると嬉しいです。
『想われて…』 ≪第5回≫
思い返せば、和人からは付き合って欲しいというような言葉は一度もなかった。
そして、優理子も付き合っているのよね?と確認した事もなかったし、
大の大人が中学生や高校生のようにそんな事を確認しあう必要もないと思っていた。
実際、和人とは頻繁に会うようになっていたし、好きという言葉は
互いに口にしていた。
けれども、今考えればどこかおかしかった事は明らかにわかる。
和人は、優理子からの電話を極端に嫌った。
「俺からかけるから、おまえはかけて来なくていいから」と、
優理子は何度も何度もそう言われていた。
電話で話したくなったら、まずメールで連絡を欲しいと、俺がすぐにかけ直すからと、
そう言われていた。
和人のプライベートに何の疑いも持たなかった優理子は、それは優理子の電話代を
気にするあまりの和人の思いやりなのだと勘違いしていた。
けれども、本当は違っていたのだ。
妻が傍にいる時に電話などかかってきたら怪しまれるのも当然で、
たいていの既婚者なら、まず間違いなく避けたがるのも当たり前なのだから…
そして、和人は絶対に外泊はしなかった。
優理子も親と一緒に住んでいたので、そう軽々しく外泊をする事は無理だった。
けれども、優理子がそうなっても構わないと思っている時でさえ、和人は
「お母さんが心配するから…」と言って、優理子を必ず家に帰した。
けれども、これも今思えば、自分が家に帰らないといけないからだったのだ。
もっと早くに気づくべきだった。
もっときちんと相手の事を聞いておくべきだった。
和人に妻がいる事を知ったあの日、優理子は心の底からそう思った。
そして、別れようと思った。
今ならまだ戻れると思った。
今ならまだ全てをなかった事に出来ると思った。
けれども、優理子からは和人に連絡をする事が出来なかった。
電話はもちろん、メールを送ることすら躊躇われた。
もしも、もしもメール送って、返事が来なかったら…
そう考えると、優理子はメールを送るのが怖かった。
どうせ終わりになるのはもうわかっている。
それならば、このまま連絡をせずに、たぶん和人からも連絡など来ないだろうから、
そのまま自然に終わりになればいい…と、そう思ったりもしていた。
けれども、その反面、言い訳をしてきて欲しいと思う自分もいた。
今、和人にどんな言葉を並べられても、それは単なる言い訳にしかならない。
嘘をついて、優理子と付き合っていた事には違いない。
けれども、言い訳をする価値があるほどの相手なのだと思いたかった。
何の連絡もないと、そんな価値すらない相手だと思われていたようで、
優理子はとても苦しくなった。
あの日から、鳴らない携帯を見つめながら、優理子は今和人は
何を考えているのだろうと何十回、何百回と考えた。
本当にもうこのまま連絡してこないつもりなの…?と。