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第2話

和人とメールの交換をし始めて、何度目になる頃だっただろうか…

その日のメールの最後には「一度、優理子に会ってみたい」と書かれていた。

メールを交換し始めて約3ヶ月…

ほぼ毎日のように交換してきたメールから優理子は和人の人の良さも

わかっていたつもりだった。

困っている人がいると放っておけないほどに優しいという事も

面倒見がいいという事も知り得ていた。

そして、だからこそ優理子は徐々に和人に好感を持ち始めていた。

と同時に、少なからずとも和人も自分に好感を持ってくれていると思っていた。

そう感じていた。

だから、和人からのそのメールに優理子は嬉しく感じた。

自分も和人に会ってみたいと心から思った。

けれども同時に、会って幻滅されたら…という思いを強く持った。

パソコンのディスプレイを通しての会話。文字だけの会話。

それは相手の心の声でもあり、気持ちでもあり、相手の事を深く思っての

本当の会話に違いない。

しかし、その背景には相手に対するイメージがついている。

互いに思い描いたイメージがついているのだ。

実際、優理子も和人に対してのイメージを持っていた。

優しく思いやりがあるという思いから、そのような柔らかい印象のある人物を

イメージしていた。

間違っても、体格が異様に大きくて、目が釣りあがっていて、

髪型もパンチパーマ風の人などはイメージできなかった。

そして、優理子がそうイメージするように、和人も和人なりに優理子の事を

イメージしていると思うと、そのイメージと違うかもしれないという事が

この上なく怖かった。

会うと嫌われてしまうのではないか? 今までのメールの関係がなくなってしまうのでは

ないか?と不安に思わずにはいられなかった。

「どうしても会わないとダメかな?」

和人からのメールの返事に、優理子はそう書いた。

そうして優理子のそのメールの返事に和人は「優理子がどうしても嫌だと拒むのなら

無理強いはしない。でも、俺は今ものすごく優理子に会ってみたい。

優理子は俺とは会ってみたくない?」と書かれていた。

そして、その強い思いの込められた文字に優理子はOKを出すしか仕方なかった。

というよりも、優理子自身もものすごく和人に会ってみたくて仕方なかった。


初めて会った和人はメールでの想像通り優しい雰囲気を持った人だった。

少し高めの身長に、程よい肉づきのある体格。顔も落ち着いていて、

芸能人に例えると、中井喜一に似ていると思った。

そして、何よりも優理子は和人の手に安心感を覚えた。

会ってからしばらくはぎこちなく少し離れて歩いていた二人だったけれども、

点滅する信号を渡る時に咄嗟に優理子の手を取った和人の手のぬくもりが、

感触がその後の優理子の心を捉えて離さなかった。

ずっと繋いでいたいと思うほどに、もうずっと昔から探し求めていた

手のような気さえした。

だから、優理子は信号を渡り終えた時も和人の手を離さなかった。

和人が強く握り締めたまま離してくれなかったというのもあるが、

それよりも優理子自身、その手を離して欲しくないと願っていた。

優しく、けれどもしっかりと握り締められた手を通して、優理子は和人は

自分の事を好きでいてくれるに違いないと思った。

そして、優理子自身も和人を好きだと確信していた。

もしも今、和人が付き合って欲しいと言ってきたら、

すぐにOKしてしまうかもしれないと思うほどに和人を愛おしく思っていた。

けれども和人はその言葉を口にする事なく、別れ際も優理子に一度背を向けたら

振りむく事もなく帰っていった。

優理子は雑踏の中に紛れていく和人の背中を見送りながら、

もうこの次はないかもしれないと、ほぼ1日中ずっと手は繋いでいたけれども、

和人にとってはそこには好きという気持ちはなかったのだとそう思った。

いや、そう思おうとした。

その後、和人からメールが来るまでは…。


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