3人目の俺
すみません、投稿遅れました
PCがぶっ壊れてて書けなかったんで…
暖かな朝日が差し込むここは、とある港町にある宿の一角。
見渡す限り丘だったあの場所から、どうやってここまで来たのかってのは聞かないでほしい。疲れが蘇る。
俺たち男子は畳での雑魚寝となったため、節々が痛むのだが…昨日に比べればどうってことない。
「あぁ~。」
いかん、つい欠伸が。
俺の隣では、大地と佐藤がグースカと鼾をかいてだな………悲惨なのでここまでだ。
(ガチャ)
と、ここで部屋のドアが開く。
どうやら洗面所に行っていた千丈が戻ってきたらし。
少し寝不足でやつれてはいるものの、いつも通りのイケメンフェイス。
タオルを首にかけて寝間着姿のそれは、男の俺が変な気を起こしてしま―――――。
「あ、おはようございます。天野クン。」
そんな声で我に返る。
「あ、お、おはよ、千丈。」
何故か若干緊張気味の俺に疑問の目を向ける千丈だったが、ふと何かを思い出したように口を開く。
「そういえば、昨日佐藤先輩が学校に行くとか言ってませんでした?」
「ん、嗚呼、確かにな…。でも、ここの学校は昼からだから大丈夫だとかなんとか言ってたからな…。」
確かそんなことを言ってから突っ伏して、そのままの佐藤を見ながら言う。
しかし、千丈が言いたいのはどうもそこじゃないらしい。
「いえ、そうではなくて。ただ準備はしなくていいのかなって…。入学するのならそれなりの手続きが必要になるのでは?」
うぅん。確かにそうだろう。現実ならば…。
なんせゲームの世界なわけで、そんな世間一般常識を持ち出しても、逆に困るんじゃなかろうか。
「多分、大丈夫なんじゃないか?いくら佐藤でも、そんなへまはしないと思うけど。」
そういったことも踏まえて、俺は千丈に告げた。
まぁ納得。といった感じに頷いて。荷物の整理を始める千丈。
荷物っても、RPGの最初に持たされるような、簡易バッグの中に入る量の薬草やらなんやら。
学校なんか言われても…。
それに佐藤の話じゃ、その学校の生徒の約半分はエルフらしい。
そんなとこにいきなり入って、修業期間の設定やら無駄に凝ってるし…。
エルフの大半は美人なのと、エルフは特有の戦闘方法などを持っており戦闘は得意だということ。
基本は恋愛シュミレーション、そして学校は修行の場。
こういうゲームの基本設定も少しは役に立っているようだった。
と、
「ヴゥゥゥゥゥ…。」
隣から錆びた機械音のような音がして、あわてて振り返ると大地が…。
「ぁ・・・?なんだ、ここ。ってあぁ、そういや昨日宿に泊まったんだっけ・・・?」
まだ半分寝ぼけている目をこすりながら、大地の起床だ。
そういや水上の姿も見えなかったが、あの機械音のようなのは隣からじゃなくてドアが開く音だったらしい。
千丈の時はもっと普通だった気がするんだが…。
「あれ、部長はまだ起きてないのか?」
水上の問いに、起きたばっかの大地が応答する。
「まだみたいだな。そういや、学校がどうとかって言ってたっけ…?」
そうなんだよな、と言いたげな顔をして水上が頷く。
しかし、学校って言われてもな。
エルフが大半の学校って言ってたから、女子高だったりして…。
あり得るというのが、佐藤の困ったところだ。
「そういや、クリスもそろそろ起こしたほうがいいんじゃねぇか?」
起き上った時に目に入ったのだろう。自分の頭上、壁から壁へ渡したハンモックで静かな寝息を立てているクリスを見ながら大地が言う。
そんなことを言っている時だった。
いきなり宿が揺れだして、衝撃でクリスの寝ていたハンモックがひっくり返った。
俺たちはいきなりのことでそのまま見送ってしまう。
「「っ!?」」
全員が息をのむ。
しかし、
(ドスッ!!)
と、鈍い音がしたと思ったら、クリスの体は踵の部分で見事に鳩尾を突いて佐藤の上へ乗っかっていた。
いきなり不意打ちを喰らった佐藤は、
「おぅっ!!」
と、短い悲鳴を上げた後、再び眠ってしまった。
と言っても失神しただけで、とんだ2度寝になってしまったのだ。
クリスのほうはというと、佐藤の腹の感触が気持ち良かったのかその場で2、3回はねた後、ようやく佐藤から降りて一言。
「おやすみ。」
そのまま佐藤の横に倒れたのであった。
(ガチャ)
と、そんなことをしているうちにさっきの揺れが気になった闘上がドアを勢いよく開けて入ってきた。
そして今は、円卓(?)のような物体(よくわからないが歪な形をしている)を囲み会議中だ。
そう、あの揺れ。
おさまったはいいが、あの揺れの後この宿は急に騒がしくなった。そりゃあ地震か?と思うのは当然だろう。しかし、これはそんな騒ぎ方
じゃない。
ドアを開ければ、慌ただしく行き交う美女多数。途中混じる男子は無視だ。
大地と二人で見惚れていると、闘上に脳天を小突かれたので渋々会議に復帰する。
「しかし、揺れを気にしないというのも変ですが、それを合図にするように人が動き出したって言うのも気になるところですね。」
千丈の言うとおりだ。
普通は地震じゃないかと思って騒ぐだろう。
しかし、そういったことは一切ないっぽい。
「でも、揺れに関しては気になるしな…。ここでは日常茶飯事なんだろうか…?」
水上も千丈に次いで真剣な表情を見せる。
しかしその中で、佐藤(寝起きのやつれ顔)だけは陰でクスクス笑っている。
俺はそれを見逃さなかった。てか怪しすぎる。
「だよな。んで、佐藤。どういうことなんだ?」
俺の一言に、全員が一斉に佐藤のほうを向く。
またもや不意を突かれた佐藤は、ちょっとたじろいだが気にしてない風に油ギッシュな髪をかき分けると
「この宿は寮で、さっきのは瞬間移動の時の反動だ。この時間になると寮生は学校の準備を始める。」
いつになく要点だけをまとめたしゃべり方だ。
寝起きだからだろうが、正直こっちのほうが面倒じゃなくていい。
「ってあれ? 驚かないのかよ。」
俺たちの反応が薄かったことに少し驚いたようだ。
ま、そりゃそうだ。佐藤が起きるまでの間、俺たちの会議は大方それと似たような結論にまで達していたからだ。
正解を聞かされては、むしろ自分たちの推理力に少しガッツポーズをとってしまうんじゃないだろうか?
大地が見本1号だ。
「で、結局どうなんだ? 学校、行くんだろ?」
佐藤に問うが、寝ぼけているようなので闘上に一発入れてもらって、覚醒した佐藤に再度問う。
「学校行くんだろ? 他の寮生が準備始めたんだから俺らも準備が必要じゃないのか?」
俺らの部屋の窓からでも見える学校らしき建造物は、雷西の中等部と高等部を合わせたのよりもさらにデカい。
ていうか、面積がハンパない。
「行くぞ。それに、準備なんてするような物を持ってたっけ?」
「尤もな意見だな…。」
寝ている人間は、普段より重い。
今まさに痛感しているところだ…。
「もう少しで着く。」
この科白も何度目だろう。
この広い学園内を歩き回って1時間、職員室はまだなのか…。
「ったく。手続きいらねぇのはいいが、職員室遠すぎだろ。クリス重いし…。」
そろそろ誰か交代してくれてもいいんだが…。
生憎そんな物好きはいない。
時々移動中の生徒に奇異の目を向けられるのが痛いんだが、少々我慢だ。
「あ、見えた。」
闘上が前方を指差す。
・・・。
しかし、そこには何もない。
「どこだ?」
大地が訊くと、次はもっと強く前方を指差して
「ほら、あそこ。」
しかし、やっぱり見えない。
「對馬、沙鬼の目は尋常じゃないぐらい良いんだから、張り合っても仕方がないぞ。」
なるほど、目がいいのか。
「俺は見えるけど?」
って、佐藤に見えるはずが…
「あぁ、それは判ってるって。」
大地は2人に上をいかれたのが悔しいのか、若干皮肉気に言う。
「それより、佐藤も目がいいのか?」
俺は気になっていたことを訊いた。
すると佐藤は、当然というように鼻を鳴らし、勢いよく力説し始めた。
「そりゃ、爆弾使いとしては目と手先の器用さ、あと距離感なんかも強く感じないと駄目だからな。爆弾の構築や解体、配置の設定などの時には特に使うものだ。」
そういや爆弾使いだったなコイツ。
駄弁りながら歩いているうちに、俺たちも目視できるところまで職員室に近づいていた。
しかし、デカいな。
教会のような風貌に、城のような堂々とした雰囲気。
そんな職員室に、ノックなしで入った佐藤は、なにやら教員らしき人たちと軽く話をしてから戻ってきた。
手に持った紙袋の中から、衣類一式を取り出して俺たちに手渡すと、そのまま再び職員室へ。
「着替えろってことかな…?」
「そのようだ。」
俺は闘上と相槌を打って、他の皆にも伝える。
「多分これ、着替えろってことだと思うから。まぁ更衣室まで行くのにまた何時間かかるか知れたもんじゃないし、俺の換装で終わらせる。」
皆が顎を引く。これは同意の相槌だろう。
「あ…そういや換装能力は龍兒に預けたんだったか…。」
「ん…うぅ…。」
おっと、クリスがお目覚めのようだ。
「ん、ここはどこだ? 余は確かハンモックの上で…。」
まだ状況が判っていないようだ。半覚醒状態のキョトンとした瞳で、俺をまじまじと見た後、急に背中を蹴って飛び降りた。
てか、背中痛ぇ…。
「どうやらここは学園のようだな。余の探知能力には、少しひ弱な魔力が多数反応している。」
「ま、そういうことだ。それより皆、換装能力を使うのに一回だけ交代しないといけないんだが。」
クリス以外は、大体分かったらしい。
「剣斗とか?」
惜しいな大地。
「いや、前は見せなかったけど…3人目の人格、龍兒と交代する。」
「「龍兒…?」」
皆の声が重なる。
そりゃ、俺も聞いたことない人物の名前が出たらこんな反応をしてしまうだろう。
それより…。
“おーい、龍兒。起きてる?”
…。
しばらくの沈黙の後。
“ん、あぁタカ兄さんですか。どうしました?”
“ちょっと換装能力を使ってほしいんだが、今大丈夫か?”
“えぇ、基本暇ですから。それより、何人分ですか?”
“えっと…俺は中で着替えるとして、残りは…5人分だ。”
佐藤は必要ないだろう。
“判りました。では、アビリティチェンジをお願いします。”
“了解。”
““アビリティチェンジ…。””
俺らの声が重なる。
全身に包み込むような浮遊感が走って、俺は暗黒世界に墜ちていた。
ふぅ…。
外の世界は何ヶ月ぶりだろう。
それよりも…。
“タカ兄さん、ここはどこなんですか?”
説明が足りない気がする。
“ああ、言ってなかったか? そこはダイブゲームの中の学園だ。目の前にいるやつ等の服を、各々の手に持ってる服に換装してやってくれ。”
そういうことですか、あれは制服ってわけ。
“了解しました。”
「では皆さん、始め…」
「「ちっちゃ!!」」
…??
何故僕は出てきた瞬間、毎回同じ反応をされるのでしょう…?
「えっと…?」
「そしてカワイイっ!!」
あれは…闘上さんだったかな。
あんなキャラではなかったようだけど…。
「と、とりあえず初めまして。名前は天野龍兒です。」
まず自己紹介は大丈夫かな。
「皆さんの名前はもう知っているので結構ですよ。それより、早く換装しないとタカ兄さんが喚きだします。」
何故って、あんな退屈な空間にタカ兄さんが耐えられるわけがない。
ケン兄さんと変わってる間、よく耐えたものです。
「そうだな、じゃあ始めてくれ。」
あ、闘上さんがいつもの雰囲気に戻った。
「では。汝、我の呼びかけに答え偉大なる御力を我に分け与えんとす…。」
“神羅書架ヒュプノスの章、第3詠唱確認。能力使用を許可する。”
「能力解放。…換装。」
この感覚、久しぶりだ…。
この人たち、これから戦いに行くんだったな。
だったら、僕からの小さな贈り物です。
「汝、力の根源の枷を外し、大いなる力を解放せよ。」
“神羅書架ハデスの章、第8詠唱確認。冥界から帰せし力の付与を許可する。”
「潜在能力解放、龍神の型…。」
これで少しは楽に戦えるといいな…。
千穂姉さんと唯姉さんにもちゃんと届いたかなぁ。
“おい、こっちは終わったぞ。龍兒の方はどうなってる?”
“こちらも今完了しました。”
“了解、じゃ…”
““アビリティチェンジ””
「よっ、と」
あぁ、怠かった。
後1秒でもあそこにいたら俺はどうにかなってしまいそうだった。
「さ、着替えも終わったことだし、佐藤に続くぞ。」
と、思ったが…。
何やらそれどころではない状況らしい。
「お前ら、その魔力は…?」
何って、皆の魔力の上限が馬鹿でかくなって…ってあぁ、そういうことか。
俺の魔力はかなり減ってる。
ってことは、だ…。
“龍兒、なんかやったか?”
“すみません兄さん。魔王を倒しに行く、とのことでしたので…。”
“いや、別に怒ってはないけどな。まぁ、その…やり過ぎじゃないか…?”
“そうでしょうか…? 龍神の型程度しかできなかったんですけど…。”
“あぁ、でもあいつ等は元が強いからな。潜在もかなりのものだったんだろう…。”
“そうみたいですね。…それより、あの小さい子の魔力は…。”
“そうだな…。”
クリスの魔力…。
「なんか急に魔力が…。」
「大地、それは龍兒がかけてくれた魔法で、潜在能力を引き出す魔法だ。それより、先を急ごう。」
佐藤を見失っては、このクソ広い学園内じゃあ、いくら時間があっても探せねぇ…。
「そうだな。」
扉を開ける水上に続いて、俺たちも中へ入る。
その扉の向こうで俺たちを待っていたのは、外見からは想像がつかないようなものだった。
丸い球。
そう、それだけだ。
入った先の小さい部屋には、淡く光る球があるだけ。
その球から微量の魔力を感じた。
しかしそれは、今まで感じたことのない質だった。
そしていきなり、球が強く光ったかと思うと、目の前にドアが出現した。
「入れってことか…?」
大地が、ドアノブに手を伸ばしながら言う。
しかし、それを闘上がはたく。
俺も闘上の行動は正解だと思った。
「いきなり判らないものを開けるのは危険だ。」
ま、そうじゃないんだが。
「大地、今お前が開けてたら、間違いなく首は飛んでたな。」
この中にはおそらく、迎撃用の魔法が仕掛けてある。
殺意むき出しの魔力を感じるからな…。
「正解は後ろのドアだぞ、大地。」
そう、後ろのドアは入ってきたときのものとはすでに違うものだ。
まあ、入った時に俺たちが異空間に飛ばされたんだが…。
しかし、手の込んだ仕掛けだな…。
(ガチャ)
「ん、普通だな…。」
入った先は、ごく普通の職員室。
雷西の職員室とさほど変わりない構造だ。
しかし、そんな職員室の真ん中には、一際目立つ水晶。
教員は出払っているのか、数人しか見受けない。
すぐに佐藤の姿を確認すると、俺たちはやや急ぎ足でそっちへ向かった。
「よし、全員合格だな。」
佐藤の言いたいことは判った。
さっきのは、入学のための簡単な試験のようなものだったんだろう…。
「じゃあ、これで普通に入学できるのか?」
すると、少し沈んだ顔をした佐藤が
「ああ…クリス以外はな…。」
まぁ、どう考えても年齢だろ…?
「そりゃ、小学校低学年レベルの容姿じゃどうやっても中学校には入れねぇ…」
「そういうことだ…。」
少し残念そうにしたクリスが何か言いかけたが、それより先に校長らしき人が口を開いた。
「入学おめでとう。これから、ここの生徒としてエルフとともに生活していくことに不安もあるでしょうが、毎日を精一杯過ごしていただけたらと思います。」
マジメ…。
こうして入学することになったんだが…
この後、雷西に行った時よりも更に酷い質問攻めがくることを、俺たちはすっかり忘れていた…。