序章-旅立ち- (FFの世界にて)
ごめんなさい。
PCが壊れてヤバいことになってました…。
この話が長いのは…なんでだろうね。
あの後、千穂の料理に賞賛の言葉を浴びせ続けたアイツ等の顔は、どことなく無理な笑顔を作っているようだった。
夜に声をかけてくれた千丈以外は、朝方になってすっかり忘れてたようだが…。
「というわけで、やってきました昇龍島!!さぁ皆さん、この昇龍島は約1000―――――ブホッ!!」
添乗員の如く説明をしだした大地に、今度はレスラーの如く容赦ないドロップキックを入れる闘上。
まぁ、仲がいいこと…。
しかし、かれこれ3時間、船に弱い佐藤が甲板でゲロゲロやってなかったらそこそこ美しい景色を堪能できたであろう船旅を終え、俺たち
はようやく昇龍島にたどり着いた。
しかしまぁ何度来ても薄気味悪い所で、佐藤でなくともゲロゲロしそうな空気だ。
「全員無事?についたし、さっそく魔王城へ…。」
闘上に担がれっぱなしの大地の安否が気になったが、最悪の場合は悪魔に襲われたということに…。
「皆、見えたぞ、あれが門だ。」
歩き始めて数十秒、いや数秒?
とにかく、門まで来れた。
皆、この空気に気圧されてか、一言もしゃべらなかった。
フェリスとラウスに関しては帰っちゃったし…。
「久しぶり、ウスラハゲ。」
(プッ。)
後ろの千穂、唯以外が噴いた。
まぁ仕方ないか。
「おぉ、お久しぶりです勇者様。妹さんに天使さんまで…。今日はどういったご用件で?」
このゴリマッチョ悪魔、ウスラハゲ―――もといウスラー・ハルゲトランは、ここの魔王城の門番だ。
略称に引っかかるところはあるが、慣れたら笑いはしない。最初は笑ったけど…。
「嗚呼、今日はあのニート野郎の息子の世話に…。」
すると、さぞ困っていたんだろうな。ハゲ(めんどくさいから)の表情が明るくなった。
「そうでしたか、それは有難い。何分まだ子供です故、面倒を見るのにも困っておりました。魔王様もあんなですし…。」
うんうん、分かるよその気持ち…。
あのニートさんは、どうせ日本のアニメがどうとかって、一日中PCいじくってんだから…。
あ~、佐藤を近づけるのは危険かも…。
「ま、安心しな。今日は、強力な助っ人もつれてきたしな。」
まだにやけ顔の面々は、ハゲに一瞥してからまた後ろでクスクス言い出す。
「それは助かりますな。では、お気をつけて…。」
丁重な見送りを尻目に、俺たちは城の階段をあがていった。
途中で佐藤が、白、縞々、黒っ!?、などと呟いて、第二の犠牲者になったが、あえて気に留めない。
謁見の間まで来ると、中からは騒がしい声が聞こえてきた。
多分、世話役の悪魔と、ヤツの息子の声だろう。
「なぁタカ、あたしここはいりたくないんだけど…。」
いきなりそんなことを言い出した唯を引きずって、俺たちは謁見の間に入る。
ノックは不要だ。
「おーい、サタン!!」
あいつ絶対ヘッドホンしてるから、ちょっと大きめの声で呼ぶ。
「!?」
サタンの野郎ではないが、世話役らしき悪魔がこちらに目を向ける。
すぐに俺のことを認識できたらしく、速足で寄ってきた。
「お待ちしておりました、ホーク様。オファニム様。セラフィム様。それから…。」
「嗚呼、残りは俺の仲間だから。」
「然様でしたか。では、あちらにいらっしゃるのがサタン様のご子息、ティラニー・ノン・クリスチャン様です。」
まぁ立派なガキだこと。
ふむ…かなり生意気そうな年頃で…。
「そうか。あ、そういえばサタンは?」
さっきから姿が見えないから、気になって訊いてみる。
「サタン様でしたら、先ほど冥界に用があるとかで、帰りは明日になるかと…。」
「そうか。じゃ、お前も疲れてるだろ?あとは俺たちに任せな。」
「有難うございます。では、お言葉に甘えさせてもらうとしましょう。」
そのまま世話役は、一瞥した後で謁見の間を去った。
「じゃあ、皆。もう肩の力抜いたほうがいいと思うよ。しんどいぞ、これから…。」
俺の一言で、全員一気に金縛りが解けたように肩を落とし嘆息する。
それぞれ「はぁ~」やら「ふぅ~」やら言った後、気を取り直して前を向いた。
しかしまぁガキんちょがなんか言いたげな顔をしている。
そう思った矢先、
「なぁ、おぬし等は余と遊んでくれるのだろ?」
まぁ、サタンの息子にしてみれば、全く可愛いもんだ。
その問いかけに対して、母性本能を掻き立てられたのか闘上が、
「そう、クリスチャン君は何がしたいのかな?」
いつもの闘上からして考えられない優しい声音で答える。
「余のことはクリスでいい。それより余は“ディメンション・ダイブ”がしたいのだ!!」
「ディメンション…ダイブ?」
訳が分からない、というように闘上が聞き返す。
まぁ、俺が説明してやろう。
「ディメンション・ダイブってのは、サタンが開発したもので、通称ダイブゲーム。これを使って、次元の扉を開き、異世界へ行くことができるんだが、まぁ普通はRPG的な世界に行って、世界を救ったしたりして遊ぶんだ。」
説明をする俺に対して、クリスは目を輝かせる。
「おぉ!!おぬしはよく知ってるな。最近はここでの生活にも飽きてきた。よって、今から異世界へ行くのだ!!!!」
元気はつらつ、と言ったところだろうか。
こうなったら止められる気がしない。
「まぁ、いいんじゃないか?遊ぶ方法考えたりするより楽だし。皆、いいよな?」
渋々了解が2名、訳が分からずなんとなく了解が5名。
いいかな…。
「じゃあクリス、起動よろしく。」
「了解っ!!」
なんとも元気なやつだ…。
佐藤やサタンの周りに立体映像の二次元美少女を出現させたらもっと凄いんだろうけど…。
(ウィィィィィイイイイン!!)
と、奇怪な音を立てながらキューブ状の機械が高速回転しだす。
間もなく、その回転を中心にしてなんというか幻想的な色をした穴(?)のようなものが現れる。
「「おぉ!!」」
唯とクリスが、ガソリンスタンドで人造人間に出会ったぐらいの反応を示す。
唯はこのゲームの面倒なところを知ってるのにこの様子かよ…。
「じゃ、いっきまーす!」
唯がダイブ。
それに続いてクリスも。
「じゃあ、皆も早く行きなよ。俺は念のため最後に行くから。」
「なぁ、大丈夫なのか?コレ…。」
水上がさぞ心配そうに言う。
「ひゃっほぅ!!」
一方、大地の華麗なダイブ。
「よっと。」
闘上、佐藤も続く。
「嗚呼、もういいやっ!」
水上と千丈も、割り切って跳ぶ。
「じゃ、俺も行くか…。」
よっとな。
(スタッ。)
あ、これは唯とクリスの着地。
まぁ見事なことで…。
(スッ、ズリッ、グシャ!!)
嗚呼、佐藤のやつ着地したはいいが、足場が悪く転倒。
その上に闘上の踵が…。見てらんねぇ…。
(スッ。)
千丈、水上も最初同様見事な着地。
が、問題はコイツだよね…。
3番目に乗り出した筈の大地は、なぜか俺の真横に…。
あぁ…そういえば空中で闘上にハイキック喰らわされて回転してたなぁ…。
ようやく回転は止まったぽい。けど…。逆さまだ…。
(ズシャッ、メリッ。)
あ~あ、埋まった。
よっと。
俺も着地っと、やっと着いたか…。
「ふぅ…。」
俺が嘆息していると、隣で何やらわめき散らす阿呆がいる。
「うわぁ、キレイ…。ここ、すっごくきれいなとこじゃん!!」
唯が大仰に言うので、俺も周りを360°見渡した。
なるほど、かなりの絶景だ…。
「ここ、山岳地みたいですね…。その中でも、ここは高い場所にある。」
千丈の簡潔な解説を聞き納得する。
そう、納得して頷いた…。
う~ん。
これまた大事なことを忘れてたなぁ、しかしまぁ…
「恥ずっ!!」
思わずそんな声を上げてしまった。
いやぁ、もう何?
何の嫌がらせ?
頭を掻こうと手をやると、そこにはモサっとした感触が…。
「…。」
恐る恐る引っ張る。
(ズリッ…。)
あ、動いた…。
ヅラ…ですかねぇ…。
「あぁもう!!どんなRPGの世界だよ!!」
吠えた。
まぁ仕方ないよ…。だってほら、いきなり頭の上にヅラが乗ってるんだ。
しかも…原始人みたいな格好…。
「なぁ…皆はどんな格……」
見渡しながら言ったが、変なところは一つもない。
俺だけか?俺だけなのか?
「なにそのカッコー、タカはついにユーモアさでのしょうぶにでたのか?」
訳の分からんことをほざいてるちっこいのは、白いローブのようなものを羽織っている。
まぁ、モデルは天使。
あ、ちなみに千穂も同じような格好になっている
水上が魔法使い。大地が…え、何?鍛冶屋?あと、闘上は忍者か。
大地以外はイメージと同じだな。
佐藤に関しては来た時と変わらないというミラクルを起こしてるわけなんだが…。
「いやいや、俺だけじゃないし。唯だって服変わってるぞ?」
「あ、そうだった。」
思い出したようだ。
「そ、このゲームが始まると最初に衣装の交換がある。皆も、自分の本性を見抜かれてその衣装になってるんだから。」
「そーだったね。あ、ていうかホンショーみぬかれてそのすがたって…。プッ。」
「おいおい鼻で笑うなよ…。でも、確かにそうだな。何で俺はこんな姿なんだろ?」
皆も不思議に思ってか、俺の周りに集まってきた。
色々観察してると、今度はアクセサリー類の顕現が始まった。
てか、カツラはアクセサリーに入らねぇの?
「そこのフナムシ。貴方がそのような姿なのは、単に未開人レベルの莫迦だったってことでしょ。」
え?
他の皆も絶対同じ気持ちだ…。
「唯、なんでお前…Sモードに…。」
「気安く名前を呼ばないでいただけますか、このフナムシ。気持ち悪いですから。」
あぁ…。
「ドンマイ、天野。」
大地…。
それは俺へのあてつけか?笑顔で言われても…。
「お兄ちゃん、コレ。」
萎れている俺を、千穂が小声で呼ぶ。
千穂の指の延長線上に目をやると、そこには髪留めが…。
「っておい、何で天使がツインテールなんだよっ!!」
あ、思わず突っ込んでしまった…。
「?」という顔をした千穂が、今度は自分の頭を指差す。
肩口まであるベージュの髪は二つに結われていた。
「って千穂ちゃんも!?」
あ、水上…。
耐えれなかったのか、しゃーなしだ。俺の役どころなんだけどな、ホントは…。
「天使のツインテも可愛いと思うが…。それより、外せばいいんじゃ?」
闘上は気に入ったらしい。
確かに可愛いけどもっ。
「そりゃ無理だな」
「なんで?」
「この世界で装備を脱げるのは、1日のうちで20時から22時までの間だけ。それ以外は、たとえ小物でも外すことはできない。」
「へぇ。」
へぇ…って。
納得しないでよ!!
どうにかしてもらわなきゃ俺困るんだけど…。
あと10時間も耐えろって?
無理でしょ…、冗談じゃない。
「なぁ…どうにかなんねぇか?」
誰に訊くというわけでなく、ただ呟いてみる。
「おぉ!!ここは、ま、ま、まさか…FFの世界では!?」
FF…?
「あ~あの、ファイナルファ―――「違う!!」」
うわっ。
いきなり怒鳴るなよ…。
「違うって?」
FFと言えばあれしか思いつかないんだが…。
「おしいが違う。これは…フェアリー・フラグの世界!!」
「「??」」
全員が、あの唯までがキョトンとなった…。
「お前ら知らないのか!?あのFFだぞ!?」
いやいやいや…、知らないでしょ普通。
てか、おしくもなんともないじゃん…。
「あ~ちなみに対象年齢は?」
大地が訊く。
「15歳だ!!」
「「俺ら中二じゃん!!」」
水上とハモる。
しかし、佐藤はそんなツッコミには動じない。
「はっ、俺は15歳だ…。俺が留年したことを忘れたか!!」
自慢げに胸を張る。
「「よくそんな自慢げに…。」」
闘上と千穂も耐えかねたか…。
まったく…、なんなんだこの人…。
「っと、待てよ。もしかして攻略済みだったりするのか!?」
いかん、つい興奮してしまった。
しかし…、クリアするまで出られないこの世界。攻略済みならさっさとおさらばできるってもんだ。
「まぁ、大体はな。」
おぉ、さすが伊達にニートやってないぜ。
「おぉ、さすが伊達にキモオタやってないな!!」
若干嫌味の度合いが酷くなってるんだが、見事に闘上が俺の心の中を復唱してくれた。
「でしたら、速やかに概要を説明してください。このキモオタが。」
あぁ、唯さん復活。
しかし、佐藤は臆することなく――――いやむしろ興奮してる!?
待ってましたと言わんばかり――――。
「待ってました!!」
あ、言っちゃった…。
「まず、ここは人間と悪魔が対立する世界。今まさに、魔王の非道な振る舞いは極限に達している。」
ふむ、ありきたりなストーリー。
「そして、その魔王を美味しく頂くために5人の勇者が――――――。」
「っておい!!美味しく頂くってなんだよ!?」
くっ、一足遅かったか。今のは水上。
「何か、問題でも?」
「は?」という顔でとぼける佐藤。これが素の反応だから困ったものだ。
てか、問題あるよ…。
「説明願おう…。」
そうだな、やっぱりちゃんとした根拠が…ってもうちゃんとした根拠は得られそうにないが…。
「イカを美味しく頂くことになにか異論があると?」
イカ……?
イカってなんだよ!?
「この世界の魔王はな、イカなんだよ、大王イカ。」
「もう、勝手にすれば…?」
「そうする。で、様々な冒険をしながら魔王を食して世界を救う――――。て内容だ」
まぁ、イカさえなけりゃありきたりなストーリだったが…。
言いたい。
早く言いたい。
ええいっ、言っちまえ!!
「フェアリーは!?妖精どうした!?あのタイトル何なんだよ!!」
はぁ、すっきり…。
「あ、それはエンディング後の特典で、完全オートプレイで進められていく。妖精たちとフラグを立てまくってキャッキャウフフする―――。」
「まてまて、恋愛シュミレーションなのになぜにオートプレイ…?」
普通選択肢とかあるじゃん!!
「嗚呼、ディスクの容量が限界に達したらしく、選択肢により展開がちがうやつにはできなかったっぽい。」
「あ、そ。」
もう何?「呆れた。」の一言に尽きるね…。
そこからまだごちゃごちゃと説明を続ける佐藤を、この先完全に無視した。
とりあえず、ストーリーに沿って進んでいこうということで話が決まり、俺たちはそれぞれの行く場所を模索していた。
天使―――唯&千穂は、ストーリー上なにやら天界(?)らしき場所に行かなければならないらしい。
唯を羽交い絞めにした千穂はそのまま、吠える唯を連れて昇ってしまった。
見送りを終え、全員が向きなおした直後、これまたトンデモ発言が…。
「――――でさぁ、このゲームって意外と学園もので~最初のほうは学園で波乱万丈のストーリーを繰り広げちゃう的な?まぁそこがマニアにはウケてるんだが、正直俺は――――。」
「学園モノなのか…?」
「嗚呼、そうだけど。――――で、俺に言わせれば――――。」
「まてまて、何故にRPGなストーリーが学園モノになったりするわけ!?」
「さぁ、製作者の話などは全くと言っていいほど、ネットですら話題にならなかったから…。―――まぁ、“英雄”の目から見れば――――。」
「責任感のないスタッフだなぁ…。別に、クリアできりゃそれでいいんだが…。」
「って、お前さっきからわざと俺の感想言わせないようにし「あー、バレたー?」」
「くだらん感想なんか言う暇があればさっさとストーリーを進める方法を教えないか。」
ナイスだ闘上。このまま精神ダメージを与え続ければいずれは大人しくなるってもんよ。
「どうせ俺なんて…。まぁいいか。じゃあまず学校いこうぜ。」
キッパリそういった佐藤であったが、この後俺たちが(厳密には俺が)巻き込まれることについて、誰も知る由もなかったのである…。