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私、女装して、モンゴルのカン様の息子と婚姻同盟を結ぶの件。~La Storia:三川光の「春秋Annales」  作者: 三川光
文治十六年、金帳汗国の役

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(前条の続き)光は、逃げ帰り。

 星と月と霜の空、草と木が道を塞ぐ。まさに駿馬が力を発揮する時だ。惣菜はできるだけ滑らかに走ってくれたが、いかんせん私の騎術が心許なく、ティルーンが前にいるのも邪魔で、何度か落馬しかけた。少し距離を稼いだところで、ティルーンを前に乗せていては具合が悪いし、胸が苦しくなってきたので、急いで下馬して後ろに回した。ティルーンが私の腰に腕を回し、背中に体を寄せた。鼻息がわずかに首筋にかかる。


「三川閣下……馬に乗れるようになりましたね。」暗闇の草原を縫って走る私を見て、ティルーンがぽつりと呟いた。答えようとした瞬間、気が逸れて道端の溝に落ちそうになった。


「うわっ!」私とティルーンが同時に悲鳴を上げた。「……役立たず。」ティルーンが心底呆れた声を出した。私には弁解する力も気力もなく、ただ頭の中の混乱を振り払いたかった。


 考えてみれば、この乾いた草原を走り抜けてみて初めてわかったが、惣菜というのは実に温順な馬で、まるで乗馬のできないティルーンと下手な私でさえ楽に乗れてしまう。おそらくこの穏やかな気性ゆえに、こんな愛らしい名前がつけられたのだろう。


 もしそうでないなら、外見だけで判断する無粋な連中が、この馬を駄馬と見くびっていたということだ。道端の野草が風に鳴り、木の葉が揺れ、風は笛のよう、月は燭台のよう。天地は広いが、四方すべてが敵国だ。恐怖を紛らわすために考え事をするしかないが、惣菜の耐久力と速さにも驚くばかりだった。


 クリミアの地峡を抜けた頃にはもう五里は走っていた。幸い私たちは体が軽く、甲冑も帯びていないので、モンゴルの斥候たちは急ぎの伝令と見て阻まなかった。大天幕での血腥い光景が六十年も昔のことのように遠く感じられるのに、目を閉じるとジョチ様の遺体が浮かび、バトゥの絶望の声が蘇り、ウグデイの凶暴な顔がちらつく。


「閣下……」背中のティルーンが顔を横にして私の背に頬を寄せた。「……いいえ、何でもありません。お話しになりたくなければ、結構です。」


 ティルーンがカン様のことを聞いているのかと思い、話し始めた。ティルーンがため息をつき、私の鈍さに呆れているようだった。


 何が気に障ったのかわからないが、この星月の夏の夜、ティルーンと話すことだけが恐怖を和らげてくれた。


 やがて前方に国境の川が見えた。しかし――


 流れの絶えない川面に白い光が広がり、橋がない。


 冷や汗が噴き出し、体が震え始めた。ティルーンが何かに気づいたようで、私の首に頬をつけたまま顔を上げ、しばらく探して、指で示した。よく見ると、ほっと安堵した。さっきティルーンと話しているうちに小道に入ってしまっていたのだ。木橋の入口は左手わずか二百歩先にある。橋を渡りさえすれば深い森に入れる。スブタイの言によれば、ケシク――カンの最精鋭の親衛騎兵――でさえ追撃は困難だ。


 私は軽くうなずき、馬首を巡らせた。惣菜がいくらか不服そうに故意に一揺れさせ、ティルーンが落馬した。急いで汗に濡れた愛馬の鬣を撫でて低く囁いた。「ごめん、惣菜。お前のことを忘れていた。もしよければ、この千里の馬にもう一踏ん張りしてほしい。帰ったら新鮮なウマゴヤシをたっぷり食べさせてやるから。」


 惣菜が横目で私を見た。目が笑っているようだった。私はため息をつき、ティルーンを引き起こした。惣菜がまた温順に戻った。


 その時だった。大路から炎の光が一斉に現れ、惣菜よりも速い勢いで橋頭を覆い尽くした。


「まずい!」私とティルーンがほぼ同時に叫んだ。松明の下の騎兵たちは渦巻く兜を被り、甲冑の鱗が金色にきらめき、馬は鉄の鎧の下でまだ汗を噴いていた。速い。私とティルーンを合わせた重さがこの連中一人分にも満たないのに、甲冑を帯び太刀を佩いたまま、一瞬で追いついてきた。


 黄毛の大馬に跨ったウグデイが道に迷った私たちを見て大笑いし、二名の千人隊長率いるケシクを従えて進み出た。太刀が松明と月光の下で光り、国境の川の波もまた、同じ蒼白い光を返している。


 自ら水から見つめられたのなら、自ら水へ体を沈むべきだ。なぜか頭の中から意味不明の一句が浮かんでいる。


 ウグデイが私の狼狽ぶりを見ながら、太い笑い声を上げ、長刀を抜いてケシクにゆっくりと包囲させた。


「まさかな。大モンゴル国のカンに密書を送り、命がけで乗り込んできたストーリアの公女が、鞍もない馬に跨って、数十歩先の川を渡れず家に帰れないとは。」


「そんな……」半円形の包囲に押し込まれた河岸で、私の胸に残ったのは絶望だけだった。


 じりじり迫るウグデイを前に、全身甲冑のモンゴル精鋭を前に、残された最後の手段はマルコの書状だけだった。しかしその前に、この歴史(ラ・ストーリア)を記録しなければならない。


「どうせ()はもうすぐ死ぬのなら、本当のことを聞かせてくれ。馬を放ったことから、偽の手紙で我々を呼び寄せたこと、兄弟殺しまで。すべてお前の計略か。」


「そうは言い切れんな、お嬢さん、」ウグデイの細い目の皺は深く、松明の光のせいか、かえって影を帯びていっそう凶悪に見える。「俺と兄貴に恨みはない。殺す理由がない。――そもそもあいつは毎日痛い痛いと喚いて酒で紛らわしていた。放っておいても死ぬ男をなぜ俺が手にかける。――全部あの馬鹿なバイクが勝手にやったことだ。」


 ウグデイが左右のケシクを見回し、満足げに半円陣の前を行き来した。「馬の話だが、お前らの手紙がなぜか俺の大天幕に届いた時に初めて知ったんだ。はは、人違いか宛先違いか知らんが。ともかく、」


 ウグデイが値踏みするように私を眺め、下品にウインクして唇を舐めた。「お前の母親に跡継ぎがいないと聞いて、ちょっと難題を吹っかけてやっただけだ。まさか本当に来るとは思わんかったし、こんないい女が来るとは。ガキに先を越されなくてよかった。」


 それからウグデイが薄く冷笑し、もともと小さい目をさらに細めた。


「おい、お嬢さん。いいことを思いついた。お前の母親の城を落としたら、お前と母親で贖罪してもらおう。」


「俺の大天幕はもう建ててある。美女が足りないだけだ。城が落ちたら、お前ら二人で俺の妾になれ。」


「――そうだな、ストーリアの跡地のあたりに天幕を建てて、お前らの子に墓守でもさせるか。」


 古来、英雄は色を好む。マルコが酒場で聞かせてくれた歌のように、野馬のように、獅子のように。


 言い終えたウグデイと背後のケシクが一斉に大笑いした。欠けた歯が並ぶ口が、私を呑み込もうとしているようだった。


「雑――」ティルーンが口を開きかけたのを、私は背中を軽く叩いて制した。ティルーンにウグデイを怒らせてはならない。


 たとえここで死んでも、死よりもひどい目に遭っても、せめてティルーンだけは生かしたい。


 ウグデイが得意満面で、あの細い眉が逆V字に跳ね上がっている。


 Vの字は暴力(Violens)を意味することもあるが、私は復讐(Vendetta)を意味すると考える。


「計略がどうだろうと、もはやどうでもよいことだ。俺の大天幕に入れば、いくらでも聞かせてやる。」


「通信を遮断してトゥルイとジョチの連絡を断ったのも、お前の仕業だな。」ウグデイが得意げに髭を撫でてすべてを認めるのを見届け、私はマルコの書信の中からウグデイ宛の一通を投げ渡した。「ならば、トゥルイがお前に宛てた文を読むがいい。」


 何らかの反応を期待していたが、ウグデイは大笑いし、手紙をクナンとケテに見せた。


「手紙にはこう書いてある。大モンゴル国の兄弟は和を保ち、争い殺し合ってはならぬ、と。お嬢さん、アンダ(義兄妹)を名乗ったところで無駄だ。俺の天幕に入らぬ限りな。どのみち、バトゥにも証明の手立てはない。」


 手綱がなぜか剣の刃のように硬く感じられた。


「バトゥをどうした。」


 ウグデイが薄笑いした。「こんな時にあのガキの心配か。安心しろ、ヨーロッパを片付けて帝位に就いたら、あいつとお前を引き合わせてやる。」


 もちろん生きて再会させるという意味ではないが、兄弟がまだ生きていると聞いて、呼吸がいくらか整った。


 ウグデイは私の反応を見て、もう言葉がないとわかったようだった。


 私は惣菜を見下ろし、しばし黙り、それから覚悟を決めて顔を上げた。


「ならば、最後の願いを一つ。」


 ウグデイが勝者の傲慢をもってうなずいた。私は頭を下げて言った。


「私は死んでもいい。ティルーンと城の民には生きる道を与えてくれ。」


 ティルーンが私をきつく抱きしめた。


 ウグデイが私をじっと見つめ、何か意図があるのかと測ろうとして、やがてため息をついた。「逃がしたところで城を落とせば同じことだ。ただし、」


 梟雄(きょうゆう)が草地に唾を吐き、にやりと笑った。「お前が俺の女になるなら、()()させるぞ。」意味ありげに、かつ恥知らずにウインクした。


 私は唇をきつく結び、蛮人の残酷さを直視する苦痛と、辱められた恨みの、どちらが深いのかわからなかった。


 しかしマルコの書状が全く役に立たなかったとは。ウグデイへの幻想は、ボローニャ大学の法学生が判事になる夢を見ているようなもので、笑うべきか泣くべきかわからない。


 「きっとうまくいく」とは何だ。私かウグデイが白痴だとでも思ったのか。いや、そういう意味ではなくて、ただ思うのだ。


 もし書状で争いが収まるなら、この世に兄弟の殺し合いなど存在しないだろう。そう思うと、なぜか目頭が熱くなった。


 もう手がない。これが唯一の答えなら――私は体を傾け、馬を下りようとした。ティルーンが抱きしめたまま、蚊の鳴くような声で呟いた。


「閣下……」


 その瞬間、股下の惣菜が猛然と頭を跳ね上げ、私を振り落としかけた。ウグデイが笑いながら見ていたが、やがてケシクたちに向かって言った。


「古来女は駑馬(ドバ)の如し。しかるに今や駑馬すらこれを恥ず。」


「ほう…そういうことか。」私は俯いて低く笑った。その声にティルーンがまた強く抱きつき、ウグデイが凍りついた。


「そう。たとえ駑馬であっても、自分や主人が辱められるのを座視はしない。」


「まして、凡人に見くびられた千里の馬であればなおさらだ。」


「――お前はそう言いたかったのだろう。」


「私は殿下の騎士でありながら、か弱い女子に身を(やつ)し、お前のような男の侮辱を甘んじて受けている。同行の人はさておき、馬にさえ見ていられないほどに。」


「その意味では、確かに私は駑馬にも劣る。」


 私は猛然と顔を上げ、ウグデイの細い目を見据え、歯を食いしばって声を絞り出した。


「ましてや百里の国を救い、二人の仇を討ち、君恩に報い、兄の窮地を解かねばならぬ身。益良雄(ますらお)たる者が千里の才を棄て、大盗(こくぞく)に首を差し出し、奸凶(かんきょう)を座視できようか!」


 惣菜が私の言葉を理解したかのように、その場で身を翻し、川に向き直った。


「ウグデイ!」私は声を張り上げ、背後のモンゴル兵にも聞こえるように叫んだ。「弑逆(しいぎゃく)まで行う下衆め、覚えておけ。いずれお前の首を取りに来る!」


 馬腹を強く締めた。惣菜が一歩後退し、猛然と前に突き出た。背後からモンゴル兵とティルーンの悲鳴が響いた。


 私は全力で馬に跨り、声を張り上げた。「汝は千里なるも、天下これを知る能わず。知らずんば何ぞ病まん。知らずして後に真髄(本質)を見る!」


 轟音一つ。天佑神助を得たかのように、惣菜の前蹄が宙に舞った。私は仰向けに空を見上げかけ、ティルーンに引っ張られてかろうじて落馬を免れた。ティルーンが悲鳴を上げ、着水の蹄が百葉窓のような水鏡を砕き、両側に三人分の高さの水柱が噴き上がって、黒い長裳についた血の汚れを洗い流した。蹄が川底に着くと、惣菜は軽く一蹴り、飛雁の如く平地から天に昇るように、音もなく対岸の玉砂利の上に降り立った。


 時は川の水のように無情に流れ、肝心な時にだけ緩やかになる。――私はまるで漢の昭烈帝のような気分だった。


 背後からウグデイの怒号が聞こえた。もともときつく抱きしめていたティルーンが、さらに強く私を抱いた。


 私は月夜に振り返らず、馬に鞭打ちて、軽騎にて林の中に駆け入った。

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