真っ黒な年賀状
ある街にはこんな噂がある。
新年になると、真っ黒な年賀状が届く。
差出人は誰かわからない、切手や消印もない。だがその年賀状を受け取った人間は――正確には、宛名によって指名されたその人間は、ハガキの真っ黒な裏面に憎い相手の名前を書かなければならないという。
塗りつぶしたように真っ黒で、何を書いたかもわからなくなるようなハガキに黒いペンで名前を書く。書き終えたら、それを自宅のポストに戻して丸一日置いておく。そうするとその後の一年の内に、名前を書いた相手の元へ災いが降りかかるのだそうだ。
この真っ黒な年賀状を受け取った際、注意しなければならないのは必ず「一人」の名前を書かなければいけないこと。誰の名前も書かなければ欺瞞で、複数の相手の名前を書けば傲慢でハガキを受け取った者に不幸が起こると言われている。
――そんな真っ黒な年賀状を、実際受け取った人間はいるのか?
それは誰も知らないが――ある年、その町のビルで火災が起きたという。
住人はすぐに避難し、火事そのものもすぐに消し止められたため被害はほとんど出なかった。だが避難の最中、不幸にも足を踏み外し階段から転落して亡くなった者が一人だけいたそうだ。
「同じ階段を使って、しかも前後で別の人も避難していたのにその人だけが階段から転げ落ちたんです」
まるで、誰かに引っ張られたみたいに。
その不自然な死と、不気味な証言により街の人々は「これは真っ黒な年賀状の仕業でないか」と囁くようになった。
――今年は誰の元に真っ黒な年賀状が届くだろう?
それは誰も知らない。




