これからのこと
最終話です。
——冬の足音が近づいていた。
木枯らしが吹く放課後、俺——湊 光は、昇降口でコートのボタンをかけながら、校舎をふと見上げた。
季節は巡っていく。
けれど、その中で俺の中にだけ、ずっと変わらない想いがあった。
それは、あのとき——中学二年の春。
俺は、ひとつの恋をしていた。
そして、ひとつの恋に、裏切られた。
「……湊、マジであいつに告白したの?」「うわ、信じてたの?」
「え、やば。あの子、罰ゲームって言ってたじゃん」
笑い声。
スマホを向けられる。
うつむいた俺の足元に、誰かの影が差した。
「大丈夫……?」
震える俺の肩を、そっと支えてくれたのは——
「優菜……?」
「光は、何も悪くないよ。信じたこと、恥じなくていい。だって、
それだけ優しいってことだから」
あの言葉が、俺の心を救った。
優菜——俺の幼馴染。
明るくて、人懐っこくて、昔から俺の隣にいてくれた女の子。
でも、そのときの俺は、彼女の本当の気持ちなんて、なにも知らなかった。
……それから、俺は変わった。
中学の終わり、高校進学とともに、外見も、内面も、とにかく「変わろう」と
努力した。
——優しいだけじゃ、守れないものがある。
——信じるだけじゃ、報われない想いもある。
だったら俺は、誰よりも魅力的な男になってやる。
そうすれば、あのとき笑ったやつらにも、いつか“後悔”させてやれる。
その思いだけが、俺を突き動かしてきた。
ヒロインを“落とす”ゲーム。
それは、復讐でもなければ、ただの遊びでもなかった。
俺は、自分を試していた。
どこまで行けるか。どれだけ強くなれたか。
けれど——
(もう、十分かもしれないな)
気づけば、俺の中にあった“憎しみ”は、少しずつ、霞んでいた。
それよりも、思い出すのは優菜の笑顔。
いつだって俺の味方でいてくれた、あたたかい手のぬくもり。
「……優菜」
俺は、小さくその名前をつぶやいた。
まるで、何かを取り戻すように。
* * *
その日の夜。
自室のベッドに寝転びながら、スマホをいじっていた俺は、ふと思い立って
メッセージを送った。
「明日、放課後。話したいことがある」
既読はすぐに付いた。
そして、たった一言の返信。
「うん、いいよ。屋上で待ってるね」
それだけのやり取りなのに、心臓がドクンと跳ねた。
この気持ちは、なんだろう。
不安? 緊張? それとも——期待?
分からないけど、ひとつだけ確かなことがあった。
(俺は、ようやく向き合うんだ)
あのときの自分。
それから、今の自分。
そして——優菜の気持ちに。
冬の夜空は、高く澄んでいた。
* * *
放課後。
冬の夕陽が、校舎の窓を赤く染めていた。
俺は階段を上り、屋上の扉の前で足を止める。
風の音。遠くのチャイム。
全身を包むような緊張感。
(なんでこんなに……ドキドキしてんだ)
深呼吸一つ。扉に手をかける。
ギィ……という鈍い音とともに、冷たい風が頬をなでた。
そこに——彼女はいた。
「よっ、光」
優菜は、フェンスにもたれて空を見上げていた。
肩までの髪が風になびいて、夕陽を受けてきらきらと光っていた。
「……来たんだな」
「当たり前でしょ。あんたが“話がある”なんて言うなんて、ちょっと珍しいからさ」
そう言って、優菜はいつもの調子で笑った。
だけど——その笑顔の奥に、どこか張り詰めた空気を感じた。
「急に呼び出して、悪かった」
「ううん。私も、そろそろこうなるかなって思ってたし」
「え?」
「だってさ。光って、“終わらせ方”を探してたでしょ?」
その言葉に、心臓がドクンと跳ねた。
「……気づいてたんだな」
「そりゃ、幼馴染だもん。中学の頃から、ずっと見てきたんだから」
優菜はそう言って、校庭を見下ろした。
「光さ、変わったよね。すっごくかっこよくなったし、人気者にもなったし。
昔のあんたを知ってる人が見たら、驚くと思うよ」
「……そうかもな」
「でも、私は知ってるから」
「何を?」
「光が、無理してたこと」
その一言が、胸に突き刺さる。
「……無理なんてしてない」
「嘘。ずっと、自分に“言い聞かせて”たじゃん。“強くなれ”“魅力的になれ”
“絶対に見返してやる”って」
「……」
「確かにあのとき、光は傷ついた。信じてた相手に裏切られて、笑われて——
それが、どれだけ辛かったか、私は分かるよ」
優菜の声は、優しくて、でもどこか泣きそうだった。
「だから、私は何も言わなかった。あんたが頑張ってるの、全部分かってたけど、
あえて止めなかった」
「……なんでだよ」
「だって、あんたが前に進もうとしてたから」
彼女の手が、フェンスをぎゅっと掴む。
「でもね……たまに思ったんだ。
“光は、誰のために変わろうとしてるんだろう”って」
「……俺は、俺のために——」
「ほんとに?」
優菜は、まっすぐ俺を見た。
「“見返してやりたい”って思いは、本当にあんたのためだった? それとも、
“あの子たち”の言葉をずっと引きずってただけ?」
「……」
言い返せなかった。
俺が強くなろうとしたのは、誰のためだった?
自分のため? 優菜のため?
それとも、あのとき笑った“誰か”のため?
分からない。けど——
「ひとつだけ、分かることがある」
「……なに?」
「優菜、お前が……あのとき、俺を助けてくれたから。今の俺がいる」
「……光」
「お前が隣にいてくれなかったら、きっと、俺は壊れてた。
誰も信じられなくなってた。——だから、ありがとう」
優菜は、唇をきゅっと結んだまま、視線を逸らす。
「……ずるいな」
「え?」
「そういうの、急に言われると、泣きそうになるじゃん」
そう言って、彼女は涙をこぼしながら、笑った。
「ほんとはさ、あのとき——私、光に告白しようと思ってたの」
「……えっ?」
「でも、あんな事件があったから……言えなくなっちゃった。“今、告白しても、
逃げ場になっちゃうだけだ”って」
「優菜……」
「でもね、ずっと好きだったよ。中学のときから。バカで、まっすぐで、
不器用で、でも優しかった光が」
風の音だけが、ふたりの間を通り過ぎていく。
俺は、言葉が出てこなかった。
彼女の想いを、ずっと気づけなかった自分が、悔しかった。
でも、それでも——
「……ありがとう。俺も、ようやく気づけたよ」
優菜が、小さく笑った。
「ねえ、光。もう、ゲームは終わりでいいんじゃない?」
「……ああ」
俺は、はっきりとうなずいた。
「もう、十分だ。俺はもう、“試す”必要なんてない。だって……」
——“俺が本当に欲しかったもの”は、目の前にあったのだから。
屋上での告白めいた会話のあと、俺たちは校舎を出て、並んで歩いていた。
冬の夕暮れは早く、校門を出る頃にはもう街灯が灯り始めている。
「……寒いね」
優菜がぽつりとつぶやいた。
「だな」
「でも、なんかすっきりした」
「俺も」
会話は少なくて、でも不思議と気まずさはなかった。
むしろ——静かで、心地よかった。
商店街を抜けて、いつもの帰り道。
この道を、優菜とふたりで歩くのは、いつぶりだろう。
「覚えてる? 中学のとき、私が風邪引いて、ノート貸してもらった日」
「え、いつの話だよ」
「二年の一学期。あのときさ、光、すっごい几帳面にノートとってくれてて、
感動したんだよ」
「ああ……なんか思い出してきた。あれ、家庭科の授業だったよな?」
「そうそう。“ミートソースの作り方”とか、すっごい丁寧に書いてて笑った」
「いや、俺、あのとき料理にハマってたからさ……」
「でも、あれ見て、“この人、ちゃんとしてるんだな”って思った」
「……ちゃんとしてる、か」
「うん。私ね、あのときからなんとなく光のこと、気になってた」
「……そっか」
優菜は俺の横顔をちらりと見て、ふわっと笑った。
「でも、まさかここまでこじれるとは思ってなかったけどね」
「……それは俺のせいだな」
「うん」
即答だった。
「でもね、許してるよ。光のこと、ずっと見てたから。いろんな子に好かれて、
かっこよくなって、でもどこか寂しそうで……」
「……寂しそう、か」
「うん。光って、誰かに“必要とされたい”って気持ちがすごく強いんだと思う」
「……」
「だから、恋のゲームで“落とす”ことにこだわってたんじゃないかな」
「……かもな」
自分でも、理由が分からなかったことが、今になって少しずつ解けていく。
あのとき裏切られた自分。
笑われた自分。
それを“消し去る”ために、誰かに好かれたかった。
でも——
「優菜」
「なに?」
「お前は、最初からずっと、俺を必要としてくれてたんだな」
「……うん。私だけが知ってる、光のことがいっぱいあるもん」
その言葉に、心がじんわりと温かくなった。
「……なあ」
「ん?」
「ちょっと寄り道しないか?」
「どこに?」
「公園。あそこ、今は誰もいないと思うし……少し、話したい」
「……うん」
* * *
その公園は、俺たちが昔よく遊んでいた場所だった。
滑り台やブランコ。少し色あせた遊具たち。
でも、それらは変わらないまま、俺たちを迎えてくれた。
ベンチに並んで座る。
優菜が、自分の手を膝に置いて、もじもじと指を絡めている。
「ねえ、光」
「ん?」
「この前、文化祭のとき。私、あなたのクラスの出し物、
こっそり見に行ったんだよ」
「え、マジ?」
「うん。喫茶店のウェイター姿、ちょっとだけかっこよかった」
「“ちょっとだけ”かよ」
「ふふ。悔しかったんだ。あんなにモテてるあんたを見て、
“ああ、もう私の知ってる光じゃなくなっちゃったんだな”って思って」
「……ごめん」
「違うの。嬉しかったの。光がちゃんと前に進めてるんだなって。
でも——同時に、寂しかった」
「……」
「光が誰かと付き合ってしまうかもしれない、って考えるたびに、
胸がぎゅってなって」
「……それって」
「うん。“恋”だったんだと思う」
優菜が、そっと俺の手に自分の手を重ねてくる。
小さくて、あったかい。
「ねえ、光。今の私は——あんたの隣にいても、いいかな?」
その問いに、俺は迷わなかった。
「……ずっと、いてくれよ」
「……うん」
優菜が目を細めて笑う。
それは、俺が知っている中でいちばん綺麗な笑顔だった。
——このとき、ようやく気づいたんだ。
“恋”っていうのは、落とすものじゃない。
育てるものなんだと。
そして、俺の心がずっと求めていたのは——“最初から、俺を見ていてくれた”
優菜だったんだと。
冬の星が瞬く頃。
俺たちは手をつないだまま、公園のベンチを後にした。
寒いはずなのに、指先はほんのりとあたたかい。
優菜のぬくもりが、俺の中にじんわりと広がっていた。
「ねえ、光。手、冷たくない?」
「いや……ちょうどいい」
「そっか。じゃあ、ずっとつないでよ?」
「……ああ、離さない」
それは、ただの返事じゃなかった。
約束だった。これからの“ふたり”にとっての。
住宅街を抜ける帰り道。
見慣れた景色が、なぜか少し違って見えた。
「なんか……あったかいね、今日」
「気温は低いけどな」
「そうじゃなくて……気持ちが、だよ」
優菜が笑う。
その笑顔を見て、俺もつられて笑った。
* * *
翌朝。
俺は久しぶりに、少しだけ早起きした。
いつもより念入りに髪を整え、制服の襟元をチェックする。
スマホには、優菜からの「今日も一緒に行こうね」のメッセージ。
たったそれだけで、心が躍るのが分かる。
家を出て、角を曲がると——そこには、待ち合わせ通りの場所で、
優菜が立っていた。
いつもの制服姿。でも、マフラーが少しだけ新しい。
たぶん、この間お母さんと買いに行ったって言ってたやつ。
「おはよ、光」
「おはよ。……似合ってるな、そのマフラー」
「えっ、あ、ありがと……っ」
顔を赤らめながら、口元をマフラーで隠す。
その仕草が、いちいちかわいくて、ちょっとズルい。
「……そんなじっと見ないでよ」
「いや、なんかさ。改めて“彼女になったんだな”って思って」
「……ばか」
照れくさそうに笑いながら、優菜は俺の腕にそっと自分の腕を絡めてきた。
「ほら、学校行こ。遅刻しちゃう」
「おう」
並んで歩く道。
昨日と同じ道なのに、景色がまるで違って見える。
もう“孤独を埋めるゲーム”なんかじゃない。
これは、ちゃんとした恋だ。
俺自身が、ようやく本当のスタート地点に立てた気がした。
* * *
その日の昼休み。
いつものように購買へ行こうとすると、教室の前で、
何人かの女子たちがひそひそと話していた。
「え、湊くんが彼女できたってマジ?」
「しかも相手、幼馴染の子でしょ?」
「いや〜、あれは盲点だったよね……!」
俺は肩をすくめて笑いながら、教室を抜けた。
そんな噂、すぐに広まるのは分かってた。
でも、それでもいい。
優菜の隣に立つことを、もう恥ずかしいなんて思わない。
「光〜! パン買ってきたよ!」
中庭のベンチでは、すでに優菜がパンを両手に掲げて待っていた。
「はい、チョコ蒸しパンは光の分! 私はカレーパン!」
「……その組み合わせでいいのか?」
「いいの。だって“甘いのと辛いの”って、なんかバランスいいでしょ?」
「……なるほど」
「私と光も、そんな感じだよね?」
「俺が辛口ってことか?」
「ううん、ツンデレ?」
「やめろ、それは恥ずかしい」
ふたりで笑い合いながらパンを分け合う。
こんな何気ない時間が、きっと一番大事なんだ。
* * *
放課後。
校舎裏のベンチで、優菜と並んで夕陽を眺めていた。
「なあ、優菜」
「ん?」
「俺さ……これまでのこと、全部“遊び”だって思ってたんだ」
「うん」
「でも、今は違う。こうしてお前といると、心から思うんだ。
俺、ちゃんと恋してるって」
「……うん。私もだよ」
「ありがとうな。ずっとそばにいてくれて」
「こっちこそ。勝手に好きになって、勝手に落ち込んで、
それでも諦められなくて……でも、信じてよかった」
「これからはさ、ちゃんと向き合っていきたい。お前と、“恋人”として」
「……うん。私も。ずっと隣にいたい」
夕陽が、ふたりを優しく包んでいた。
誰かを“落とす”ために始めたこのゲーム。
でも、最後に“落ちた”のは——俺の方だった。
* * *
夜、ひとりベッドに寝転がって、スマホを見つめる。
優菜とのやりとりが表示されたままの画面。
《明日も一緒に行こうね♡》
思わず頬が緩んだ。
“恋”ってこんなにも温かくて、心を満たしてくれるものだったんだな。
俺のゲームは、もう終わった。
だけど——ここからが、本当の恋のはじまり。
「おやすみ、優菜」
画面に向かって、小さくつぶやいた。
そして俺は、ようやく穏やかな眠りについた。
—
放課後の教室を抜けて、校内をゆっくり歩く。
(……俺の“恋のゲーム”は終わった)
そう決めた以上、やっておきたいことがある。
——これまで出会ったヒロインたちと、ちゃんと“今”の気持ちで向き合うことだ。
【綾瀬瑠璃】
昇降口を通りかかると、見慣れた長い黒髪が目に入った。
「あら、湊くん。奇遇ね」
「綾瀬先輩……帰りですか?」
「ええ。風紀委員の後輩が、提出物を忘れてて。届けた帰りよ」
凛とした立ち姿。だけどその目は、以前よりもずっと柔らかい。
「そういえば、最近は問題児扱いされてないのね」
「……先輩が鍛えてくれたおかげです」
「ふふっ、調子のいい子」
どこか嬉しそうに笑って、彼女は言った。
「またね、湊くん。“風紀”を乱さないようにね」
「善処します」
別れ際、先輩はふと振り返って、小さく手を振った。
それは——彼女が“素顔”で笑ってくれた、あの日と同じ仕草だった。
【白河ほのか】
生徒会室の前を通りかかると、ちょうど扉が開いた。
「……あら、湊くん?」
「あっ……白河先輩。お疲れさまです」
「今日も資料の整理、手伝ってくれたんですね? 助かりました」
変わらぬ清楚な笑顔——でも今は、それが“仮面”じゃないことを、俺は知っている。
「……ねえ、湊くん。私、あなたと出会えてよかったと思ってるのよ」
「……ありがとうございます。俺も、です」
少しだけ空気が止まる。
けれど、それはもう切なさではなく、あたたかな感情としてそこにあった。
「また、図書室でばったり会ったりするかしら?」
「そのときは、ぜひ“本音のほのか先輩”でお願いします」
「ふふ、気が向いたらね」
その微笑みに、もう“仮面”はなかった。
【如月蘭】
体育館の外、夕暮れのオレンジが差し込む廊下。
「よっ、光」
「蘭……練習終わり?」
「うん、今日は後輩たちの指導だけだったけどね。あいつら、
だいぶ育ってきたんだよ?」
誇らしげに笑う彼女は、以前よりずっと“自然体”だった。
「それって……お前が背中を見せてきたからだよな」
「ふふ、そう言われると照れるなぁ。……でもさ、あんとき光に言われたこと、
今も覚えてる」
「俺、何か言ったっけ?」
「“ちゃんと自分を大事にしろ”って。……あれ、ずるいよ?」
少しだけ赤くなった頬で、彼女は続ける。
「でも、あの言葉がなかったら、今の僕はいなかったと思うから」
蘭はポンと俺の胸を軽く叩いて、笑った。
「ありがとう。王子様の恩返し、いつかするからね」
その笑顔は、誰よりもまぶしかった。
【天音凛】
最後に、屋上へ足を運ぶと——
「にゃー。せんぱい、やっぱ来たー!」
先回りされていた。
「読まれてた……?」
「そりゃそっか。だって、せんぱいの顔に“感傷モード”って書いてあったもん」
「俺の顔はホワイトボードかよ」
「うん、書きやすそう〜♪」
からかうように笑う凛。でも、その目は真剣だった。
「……ねえ、あれからちょっとだけ、変わったんだよ。私」
「どう変わった?」
「せんぱいを思い出すとね、胸が“きゅ”ってなるの。……それだけ」
静かにそう言って、彼女は風に揺れる髪を押さえた。
「でも、やっぱせんぱいのこと好きでよかったな〜って思うよ」
「……俺も、お前に会えてよかった」
ふっと、彼女は微笑んだ。
それは、あの時と同じ——けど、少しだけ大人びた、小悪魔の微笑みだった。
彼女たちは、俺の“ゲーム”の一部だった。
でも——今はもう、そのどれもが、ただの“遊び”ではない。
たしかに心を通わせた日々が、ここにある。
そして俺は、ようやく——
“本気の恋”を選ぶことができたのだから。
(恋は、終わらない。そして、きっと——始まっていく)
空を見上げた先に、秋の終わりがそっと漂っていた。