参謀ユラリアと決済者探し──そして未来の武将との邂逅
「やはりこの世界も、単純な勧善懲悪では済まないようだな……」
包囲軍の高台から見下ろすと、城塞都市と包囲軍の対峙は続いていた。
数では包囲軍が勝る。だが兵站は細く、都市側も限界目前とはいえ籠城を続けている。
情報収集と戦況分析を終えた石守真誠は、隣に立つ女性──ユラリアに視線を移した。
彼女はこの包囲軍の戦略参謀。軍務・兵站・戦術設計の要だが、政治的な影響力を持たず、意思決定の枠外に置かれている。
「ユラリア。少し、君のステータスを確認してもいいか?」
「え? あなた、閲覧スキルを持っているの?」
「多少はね。目視で発動する。構わないかな?」
ユラリアは一瞬戸惑ったが、頷いた。
真誠は彼女の瞳を正面から見つめ、スキル《ステータス閲覧》を起動した。
【名前】ユラリア・セラン
【職業】戦略参謀
【レベル】12
【スキル】
・戦術構築(Lv.5)
・物資管理(Lv.4)
・分析思考(Lv.4)
・広域観測(Lv.3)
・政治介入(Lv.0/非習得)
(やはり……優秀な実務家だが、“政治の座標軸”に存在していない)
石守は確信する。この包囲軍の問題は、合理性の高い実務者が戦術を担い、利権と保身に塗れた決済者が政治を支配している構造そのものにある。
「ユラリア。この軍の意思決定者は誰だ?」
「名目上は将軍ボレル様。そして、資金源である教会枢機卿オルセリオ様が最終決済を担っています。民の苦しみなど歯牙にもかけず……」
「ならば、まずはその両者に“現実”を突きつける必要があるな」
再び石守はスキル《決済者サーチ》を起動。
視界の中に、二つの輝点──本営テントの奥と、従軍聖堂の内部が表示された。
「位置、把握。まずは将軍の方だな。直接、話を通そう」
「……あなた、一体何者なの?」
「少しだけ、交渉と討論が得意な元市長だよ」
◆
将軍ボレルの本営は、柵と監視兵に囲まれていたが、ユラリアの身分証明で通過が許可された。
しかし、柵をくぐった瞬間――。
「ぐっ……!?」
真誠の肩に何かがぶつかる。
立っていたのは、痩せた十代後半の青年だった。泥まみれの服、警戒に満ちた眼差し。
「貴様、何者だ。ユラリア様の言葉があったとしても、将軍の元に行く前に、まず“名を名乗れ”。それが筋だ」
その気迫に、真誠は反射的に《ステータス閲覧》を起動した。
【名前】ラセル・グレイ
【職業】包囲軍 伍長
【レベル】4
【スキル】
・身体強化(Lv.2)※未自覚
・回避術(Lv.2)※未自覚
・指揮耐性(Lv.1)※未自覚
(これは……成長阻害状態。だが、本人の意志が芽吹けば、一気に化けるタイプだ)
「ラセルくん、なあ。私が怪しく見えるか?」
「なっ、なぜ俺の名前を……!? ステータスを……勝手に……」
「落ち着いてくれ。私はユラリア様の保証のもとにここへ来た。
君の意思を否定はしないが、“筋”を通すなら私も応えよう」
真誠は微笑み、一歩前に出る。
「君のスキルは、伸び代だらけだ。
適切な訓練法を知れば、伍長どころか部隊長クラスにすらなれる」
ラセルの目が揺れた。
その目に宿ったのは、疑念だけではなく、淡い希望の光。
「……俺が、不敬だった。詫びる。だが、あなたの言葉……少し、信じてみたい」
「その一歩が、世界を変えるんだよ。ありがとう、ラセル伍長」
◆
ラセルの護衛を受けつつ、石守は本営テントの奥へと進んでいく。
そこで待ち構えるは、包囲軍の“上層”──
将軍ボレルと、背後の枢機卿オルセリオ。
この二人に、まずは“ヒヤリング”を通じて問題構造を洗い出し、次に――
討論という名の刃で、世界の再編を始めるのだ。
石守真誠の異世界再生劇。
それが、今まさに本格始動しようとしていた。