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転移初日、都市が燃えていたので《決済者サーチ》使ってみた件

白銀の門をくぐった瞬間、目の前の世界は一変した。


――熱風。焦げた空気。怒号と金属のぶつかる音。

一歩足を踏み出すと、そこは中世ヨーロッパ風の城塞都市の中、しかも“戦場”の真っ只中だった。


「……なんだこれ。いきなり戦争中か?」


石守真誠は、瓦礫の散らばる路地に立っていた。

煉瓦の建物はあちこちが崩れ、城壁の上では兵士たちが剣を交え、火矢が夜空を舞っている。

都市の外周を、大規模な軍勢が包囲し、突入を試みているのが遠目にもわかる。


「なるほどな。これは、“なろう系”のテンプレってやつか」


だが石守は驚きすぎることもなかった。

現代日本で政治活動の傍ら、ライトノベルや異世界系の作品にも触れてきた彼にとって、この構図は“既視感”のあるものだった。


そして、ある種の確信を持って呟く。


「ってことは……俺にも“ステータス”がある、ってことだよな?」


言葉と同時に、視界の前に透明なウィンドウが浮かび上がった。


《ステータス表示》

【名前】石守 真誠いしもり・しんせい

【職業】政治改革者/対話型戦略師/言論操作士

【レベル】1

【称号】異界の来訪者/討論の覇者


【HP】120

【MP】260

【知力】85

【魅力】92

【統率力】77

【政治力】100(上限突破)

【交渉力】88

【精神抵抗】93


【スキル一覧】

・〈論破:Ex〉─ 言論で相手の主張を80%以上の確率で崩せる

・〈読心術:Lv2〉─ 相手の思考の輪郭を読み取る

・〈政策構築:Lv3〉─ 複数要素から即座に最適解を提示し政策化

・〈決済者サーチ:Lv1〉─ 混乱の中でも「意思決定権を持つ者」を特定

・〈討論誘導〉─ 会話を有利に運ぶ流れを構築

・〈沈黙耐性〉─ 5秒以上の間にも焦らない精神的安定

・〈諜報解析〉─ 相手の立場・利害・所属を3つまで推定可能


「……これ、面白いな」


戦闘スキルは皆無。それどころか完全に“言葉”と“情報戦”に特化した構成だ。

剣と魔法の世界に投げ込まれたにしては珍しいスキル構成だが、彼にはむしろ馴染み深かった。


「俺に求められてるのは、戦いじゃない。統治と改革だな。よし、まずは情勢把握だ」


異世界でも、やるべきことは変わらない。

「敵」と「味方」を決めつける前に、まずは“誰が決定権を持っているか”を突き止める。


真誠は胸元に手をかざし、意識を集中させた。


「《決済者サーチ》──この都市と包囲軍、それぞれの“意思決定者”の居場所を明示せよ」


淡い光が彼の周囲を包み込み、風のような情報が頭に流れ込む。


【都市側決済者】:ローダン伯爵(都市東部・城館)

【包囲軍決済者】:戦略参謀ユラリア(西の丘・野営地)


「……二人か。なるほどな」


都市防衛を指揮する領主ローダン伯と、攻撃側の戦略参謀ユラリア。

まず話を聞くなら、どちらが“民の側”に近いかを見極める必要がある。


「日本で政治やってたときもそうだった。“印象”に流されるな。“言葉”を聞いて判断しろ、だ」


真誠はまず、包囲軍のユラリアに接触することに決めた。

一方的に都市側に与しても、相手の主張を知らなければ、改革の足場もできない。


戦火を避けるように裏道を抜け、城外へのルートを探す。

途中、負傷兵や避難する市民の姿も目にしたが、誰一人として真誠に視線を向けようとはしなかった。


「……“異界の来訪者”ってステータスが、周囲の認識を鈍らせてるな。合理的だが……ちょっと寂しいな」


この世界は“異分子”に対する干渉を最小限に抑えるよう調整されているらしい。

そのおかげで、真誠は騒ぎを起こすことなく市外へと抜け出すことができた。


30分ほど歩き、戦火の音が遠ざかる頃。

小高い丘に、仮設の野営地が見えてきた。


旗印には『民会連合軍』──“民の声による新政体”を掲げる革命勢力らしい。

その名を略してMLF(Min-Kai Liberation Force)。


「なるほど……反貴族の民衆派か。名前は正義っぽいが、実際には派閥と利権の塊かもしれない。だが――決めつけるには早い」


テントの列を抜け、中央の本営らしき大テントへと向かう。


すぐに槍を構えた衛兵たちが立ちはだかった。


「止まれ! 貴様、何者だ!」


「私は異界から来た旅人、石守真誠。

あなた方の戦略参謀、ユラリア殿と話がしたい」


衛兵たちが顔を見合わせる。

嘘を吐いている様子はないが、明らかに怪しい。だが、真誠は一歩も引かず続けた。


「敵か味方かではなく、まずは“理解者”になりたい。

この争いが“誰のための戦い”なのか。それを見極めたいだけです」


その瞬間、テントの奥から鋭い声が響いた。


「通して。話は、私が直接聞こう」


衛兵たちが道を開ける。


真誠はゆっくりと歩き出した。

その足取りは、揺るがない。


言葉と意志でこの世界を変えると決めた男。

彼の“初外交”は、まさにここから始まる。


──そして、この出会いこそが後に異世界全土を巻き込む改革の端緒となるとは、まだ誰も知らなかった。

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