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*プロローグ
「俺は瑠衣のナイトだからね」
近所の公園のブランコを漕ぎながら、彼がそう言う。僕が、なんで? と、訊ねても、彼は――ニジくんは絶対に教えてくれない。
みんなに氷の王子様みたいと言われている、ニジくんのきれいな顔立ちに似合わない、じっとりとした眼差しを向け、こうも言う。
「どこの誰にも渡さないよ、瑠衣」
そう言いながら、ずっとずっと、ニジくんは僕の傍に張り付いている。まるで、とぐろを巻くヘビのみたいに。
周りより小さくて、目が大きくてリスみたいって言われることが多かった幼い頃から、ニジくんはそうして僕の傍にいる。ナイトだから、と言って、他の誰とも遊ぼうともしない。それどころか、僕が誰かと遊ぼうとするのもいやがる。
「ナイトってなに? 王子様? ニジくんの目が、虹みたいだから?」
いくら理由を訊いても、ニジくんはヘビのように涼し気な目許を虹のように細めて、嬉しそうに頷き、こうも言う。
「ナイトの俺は、瑠衣を守るのが俺の役目だからだよ」
なんで? どうして? その本当の答えは、10年以上経った今も、教えてもらえないままだ。