古明地さとりの告白を断ったら攻略宣言された件
地霊殿にて使用人として働いている私はある日の夜中、地霊殿の主である古明地さとりに呼び出された。
(こんな遅くに何の用だろう?)
「来てくれてありがとうございます。夜遅く呼び出してごめんなさい」
さとり様はすごくかしこまったような感じで話し始めた。
「実はあなたに伝えたいことがあるんです」
「伝えたいこと......ですか?」
私は何のことだか想像できなかった。仕事は真面目にやってるつもりだが至らないところでもあったのだろうか?
さとり様は少し黙り込んだ後口を開いた。
「私、あなたのことが好きです!!私と付き合ってくれませんか?」
「えっ!?」
突然の告白だった。地霊殿の主であるさとり様が私の恋人に!?
はたから見れば幸せの絶頂に見える瞬間。しかしながら私は内心乗り気ではなかった。
付き合う気になれなかったのである。
勿論さとり様のことは好きだし尊敬もしている。
しかしそれはあくまで敬愛というべき感情であり、恋愛感情のそれとは遠い存在である。
私はさとり様を恋愛相手としてみることが出来なかった。
少し気は引けたが、私はさとり様の誘いを断ることにした。
「ごめんなさい。私、さとり様のことは好きですけど、恋愛とか、そういう風には見れません」
「だから、さとり様の期待には応えられません」
さとり様は少し残念そうな表情をしながら
「そう、分かったわ、わざわざ付き合わせて悪かったわね。もう遅いから......おやすみなさい」
おやすみなさい、と言いかけたその時、ある疑問が浮かんだ。
(待てよ......さとり様は人の心が読めるんだよな......つまり私がさとり様の誘いを断るって分かっていたってことか?)
(それなのになぜ告白してきたんだ?単なるからかい?それとも別の何かだろうか。)
「待ってください!さとり様」
どうしても気になった私はさとり様に問いただすことにした。どうせ心を読まれるんだ、包み隠さず聞いてやる!!
「さとり様はなぜ私に告白してきたのですか?さとり様は心が読めるんですよね?」
「それならば私がさとり様に対して恋愛感情を持っていないことも知っているから、断られることは分かっていたはず」
「それなのに告白してきたのはなぜです?この際だから言いますけど私のことをからかっているのでは?」
さとり様は少し笑みを浮かべた後いった。
「からかいですか......正直それもあります。人間をからかうのは楽しいですから。でも私が告白した最大の理由は」
「自分の心に嘘をつきたくなかったからです」
「どういうことですか?」
「私はこれまで人間がなぜ”告白”という行為をするのか分かりませんでした」
「自然な形で仲を深め、パートナー関係になることだってできるはず」
「遠い記憶だけど私の先祖もそうしてきたはずです......」
「それなのに、なぜ一歩間違えば嫌われるようなリスクの高い行為に及ぶのか......正直非効率で愚かとさえ思っていました......」
「でも、今なら告白する人の気持ちがはっきりと分かります」
「好きという気持ちを抑えられないから告白するんです」
「自然な形で仲を深めようとすれば、その分好きという気持ちを押し殺すことになる」
「自分の気持ちにふたをすることになるんです」
「それはつまり、自分の心に嘘をついていることになります」
「それはしたくないし、何よりそんなの耐えられない......」
「だから私は断られるのが分かっていても貴方に”好き”といいました」
さとり様の赤裸々な告白に私は驚いていた。しかしさとり様にそこまで好かれることを特別したことはない。
何故さとり様は私のことをそんなにも好きになったのだろう。
さとり様に疑問を投げかける前にさとり様が口を開いた。
「簡単な話です、あなたはいつもそばにいてくれた。忙しいときも、つらい時も、いつも隣でお茶くみや、掃除、その他の雑務をこなしてくれた」
「あなたは気づいていないかもしれないけれどそれが大きな支えになったんです」
「それにあなたは心から真面目に仕事をしてくれましたよね」
「日々の真摯な態度に私は惚れたんです。好きになっていたんです......」
「心からの言動は大きな力を持ちます。それが私にははっきりわかるんです」
さとり様は顔を赤らめていた。今までの発言が本心であることは覚ではない私でも分かった。
(さとり様がこんなにも私のことを想っていたなんて知らなかった)
(そんな気持ちに気付くこともなく私はさとり様の告白を断ったのか......)
さとり様の想いを知った私は申し訳ない気持ちになった。
「なんか、すみません。私、さとり様の気持ちに応えてあげられなくて」
「大丈夫、貴方が正直だっただけの話です」
「それに私、諦めません」
「好きになってくれないのなら、好きにさせるまでです」
好きにさせる?
好きにさせるとはどういう意味なのだろう。その言葉に少し恐怖感を覚えた。
さとり様は妖怪である。どんな手段を用いてもおかしくない。
(食事に薬でも混ぜる気か!?それとも催眠術でも掛けるのだろうか)
そう思った矢先、さとり様が口を開いた。
「そんなことはしません。媚薬や催眠術は一時的な効果でしかありませんから」
「それに、心の中では嫌がってることくらい私にはわかりますし......」
「そんなものを使わなくても私を心から好きにさせてあげます......」
「これは”攻略宣言”です。覚悟しておくことですね」
「今日は付き合わせて悪かったわね、おやすみなさい」
「おやすみなさい」
さとり様は寝室へと消えていった......
攻略宣言をされた私は何とも言えない気持ちとなった。
これから何をされるのだろうという恐怖感、何かが起こると期待している高揚感
恐怖と喜びが混ざった複雑な感情が渦巻いていた。
その夜、私は眠りにつくまでさとり様を意識せずにはいられなかった。
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