婚約破棄ですか?大金貨100枚でお買い求めできますよ
私の運営するメリー商会にはたくさんのお客様が訪れる。そしてその中には変わったものをお求めになるお客様がいる。
「なるほど。つまり、婚約破棄を売ってほしいと?」
私の目の前でソファにゆったりと座っているロイド伯爵令息もその一人だと言えるだろう。
「そうなんです。今の婚約者であるルイスはとても良い子なんですけど……」
「ですけど?」
「私は真実の愛を見つけてしまったんです!」
なるほど。つまり、今の婚約者がいると浮気になっちゃうから手っ取り早く別れたいと。
……お客様にこんなこと言うのはあれだけれど、こいつ屑ね。
「でしたら、ロイド様から婚約破棄を申し出れば良いのではないですか?」
「……そ、そうなんですけど、それだと私が悪くなってしまうじゃないですか!今回メリーさんにお願いしたいのは、私の婚約者が悪い事をしてしまったから私が仕方がなく婚約破棄したという構図を作っていただきたいのです!」
「つまり、罪を改竄しろと?」
「そ、そこまでは言ってませんけど……」
さて、どうしたものか。こんな屑野郎の依頼など受けたくもないが……
「そうですね。でしたら今回の婚約破棄の件、大金貨100枚でお売りいたしますよ」
「だ、大金貨100枚!?」
「ええ、今回のお話しの難易度を考えると妥当な額であると思いますよ?」
「で、ですが急に100枚など用意できませんよ……」
予想通りの反応に、私は思わず上がりそうになる口角を必死になだめる。
「そうですね……でしたら一つ考えがございます」
「考え……ですか?」
「はい。まず前金としてロイド様には大金貨50枚をお支払いいただきます。そして婚約破棄が無事終わった後、我々の働きに一切の不満点が無かった場合のみ、残りの大金貨50枚をお支払いいただくというのはいかがでしょうか」
「……そ、それはどんな不満でもいいのか?」
「はい、かまいません。もちろん婚約破棄ができなかった場合はもちろん前金は全てお支払いいたしますし、違約金としてこちらから追加で大金貨100枚お支払いいたしましょう」
「ほ、ほう!」
屑野郎は自分の顎をさわさわ触りながら何やらニマニマしている。どうせ、「終わった後に適当な文句でもつければ、実質大金貨50枚じゃないか!」なんて考えているのでしょう。
屑な上にバカなのね。救いようがないわ。
「よ、よしその考えに乗ろうではないか!」
「かしこまりました。でしたらこちらの契約魔法が施された契約書にサインを。詳細はまた後から……」
そうして私は大金貨100枚の大きな契約を結び、ロイド伯爵令息はホクホクした顔で商会を後にした。
ああはなりたくないものね。
……まあいいわ!私は自分のやるべき事をしなくてわね!
「ルイス・リスドン!お前との婚約を破棄する!!」
ロイド伯爵令息は様々な貴族の訪れているパーティー会場で、婚約者であるルイス男爵令嬢にそう宣言した。
「な、なぜですか!私が一体何をしたと言うのですか!?」
「そ、それについては、そこにいるメリー商会の創設者であるメリーさんから話してもらおう」
パーティー会場にいる貴族達が私の名前を聞いて少しざわつく。メリー商会は幅広い層と商売をしているが、特に貴族絡みの案件が多い。つまり良くも悪くも貴族の間では有名人なのだ。
「では、説明いたします」
私はわざとらしく大きな呼吸を入れた後、会場の全ての人に聞こえるように言った。
「ロイド様は他の女性の事が好きになってしまったのです。そのため邪魔になったルイス様との婚約を破棄されようとしているのです!」
「そうだ。メリーさんの言うとお……ってええ!?な、何を言っているのですか!?」
「ありのままをお伝えしただけですが?」
私はそう言って屑野郎に向き直る。屑野郎は私の言ったことが理解出来ていないのか、はたまた自身の今置かれている状況を理解したのか、口をポカンと開けたまま固まっている。
「それは本当ですの!でしたらその婚約破棄、承諾いたしますわ!!」
ルイス様がこれまた会場中に聞こえるような大きな声で言った。
もしかしたら会場にいる貴族数名は気が付いているかもしれないが、私はルイス様と事前に交渉している。
屑野郎から婚約破棄の依頼を受けた私は、その後すぐにリスドン男爵家に訪れた。そしてルイス様とお話をして、彼女が屑野郎と婚約破棄をしたい意思があるかを確認した。まあ結果はご覧の通り、ルイス様は婚約破棄にノリノリだった。そこで私はルイス様と婚約破棄の内容について商売したのだ。
……もちろん、あの屑野郎とは違って良心的な値段で交渉したわよ?
「ど、どうなっているんだメリー!私の婚約破棄は成功させる約束だっただろう!」
「いえロイド様。私は失敗した場合についてもお話しいたしましたが」
「そ、そうだ。違約金!前金と合わせて大金貨150枚払ってもらおうか!」
「いえロイド様。そちらについてもお話ししたはずです。婚約破棄が出来なかったら違約金をお支払いすると。婚約破棄は出来たようですので今回は該当いたしません。念願の婚約破棄、おめでとうございます」
「じゃ、じゃあ前金の大金貨50枚は……」
「メリー商会をご利用なさってくださりありがとうございます。契約魔法は絶対ですので私としてもお返しすることは出来ないのです。ごめんなさいね」
私はそう言うと、絶望に打ちひしがれているロイド伯爵令息を無視してパーティー会場を後にした。
これで多分ロイド伯爵家は私の商会を利用することは無くなるでしょうけど、リスドン男爵家と今回の騒動に好意的な令嬢達との取引があると考えると、今後も我が商会は安泰ね。……それに大金貨50枚なんていうお小遣いももらっちゃったしね!
ああ、明日はどんなお客様が来るのかしら!面白い相談事があったら嬉しいわ!
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