7話「朝日が昇る」
「中沢志道くん、富永海斗くん、藤野大地くん、牧原康介くんの四名が、昨日、亡くなられました」
すべて、とりわけ仲が良い友人の名であった。
「聞いた? そうそう、五組の。中沢って子、特にひどい姿で見つかったって! お腹が裂かれて、内臓が……」
「ちょっと! 不謹慎……声小さくして喋ってよ」
「声小さくって、ミカも聞きたいんじゃーん!」
「まあ、気にならなくは……ないけど……」
死んだような顔つきで、死にそうな足取りで、どこへともなく廊下を歩いた。そこかしこで、友人の死について噂されている。
「ねえ、あれって……」
ひとりの女子が、ぼくを見て、友人に耳打ちをした。
「五人で仲良かったのに、湊くんだけ残されちゃったってね。可哀想……」
「ちょっと、やめなって! ……でも確かに、私だったら一人だけ生きてるのってキツいかも……」
死ななければ、ならぬ。生きていてはいけない。とにかくぼくの存在はまったく罪なのだ。どこに行っても、駄目なのだ。ここからも離れなければならぬ。とにかく歩く。歩かねばならぬ。この場を即刻、離れなければならぬ。歩を速めた。俯いて歩いた。悔し泣きのような涙が湧いて出た。
「ばかみたい」
そう零して、座り込むと、ひとりの女子生徒が声をかけてきた。
「ね、きみ、港くん?」
「ん……」
「噂通り、女の子みたいな顔してるんだね」
「ん……そうかな」
「元気ない?」
「いや……もう全部どうでもいいんだ」
「へえ? 本当?」
「そのつもりだよ」
「そっか」
微笑み。何かと思えば、ぐい、と顎を持ち上げられ、すぐに尖ったものが眼前に迫ってきた。
「え」
呆気に取られているうちに、すべての動きが完結した。女生徒の握っていたシャーペンは、粉雪となって舞った。死神の鳴き声が、幽かに聞えた。
「あはっ」
愉快げに笑っている。ぼくの方ではちっとも面白くなかった。
「君と仲良い人、みーんな死んじゃうんだって? 噂になってるよ〜」
「……噂は噂でしょ」
「もしかして、この規則性、自分で気づいてなかったの?」
「…………」
「気付かないふりしてた?」
「ぼくは」
「薄々わかってたんでしょ」
楽しそうにぼくを見下ろしたまま、ああ、ずれちゃった、と呟いて眼鏡を直した。
「教室、どうだった? 何人かお友達が君を避けてたんじゃない? どんな居心地だった?」
そしてその女生徒は――
「ねー! そんな考え込まなくても、簡単にちゃちゃっと説明してよー!」
不意に現実へ引き戻された。会話のさなかだと云うに、記憶に閉じこもっていた。もともと、ぼんやりしやすいけれども、二年も人付き合いを避けたせいもあるまいか。顔を上げると、思いのほか近くで見つめられていた。
「……近い」
「あ! ごめん!」
唾が掛かった。わざとらしいほどに品がない。
「それでー? なんで君と仲良しさんしたら死んじゃうのー?」
許しも得ぬのに机に腰掛けて、足を振り子のようにしながらぼくに問う。
「オカルトみたいな話だけど、信じる?」
「え! わかんない! どうだろ!」
「ぼく、怖いおばけが憑いてるんだ。ぼくのことは守ってくれるけど、身近な人たちが殺されちゃうの」
「えー!」
目を見張り、大きく口を開けて、信じているのかどうか、否、そもそも、話を理解しているかも分からない。
「だから……」
「じゃ、私が初めての死なないお友達になったげる!」
「えっ」
「私が初めての」
「大丈夫、聞き取れたから」
「よかったぁ! じゃあ私たち、これから友達だね!」
にこやかに身勝手な決定を下された。ひそかに嬉しい気持ちの起こるのを感じたが、戒めなければならぬ。
「知り合いね」
「うん! 友達! それで、君の名前は?」
「うん、知り合いね」
「変な名前!」
「違うよ!?」
ぼくも不注意なほうで、時折へんな間違いをするけれども、この子は一段上のような気がする。
「湊美琴。知り合いとして、よろしくね」
「名前も可愛い……! 私、安藤楽希! 友達ね! よろしく!」
ひまわりのような、尊い笑顔だった。