バスタイム
バスタイム/
やわらかな湯気をちらつかせて、たっぷりとしたお湯が呼んでる。短距離走を何本も走ったような一日の終わり。呼ばれるがまま身を浸せば、じんじんと湯の熱さに痺れる足先が幸せだと泣き出す。皮膚の隙間という隙間、わたしの境目をただ温もりで埋めつくして、そのまま溶けてしまえば、ひたひたと波打つ湯船。今ひとときいなくなったわたし、ただあたたかに揺蕩うものになる。この熱が、しずかに冷めてしまうまで。
洗髪/
水を含んだこの髪一本一本の重みがもしかして苦悩。期待、現実、それとも夢。いくつもの線となり降り注ぐ湯の音に掻き消される時しか吐けない言葉がある。弱音、懺悔、ひと知れぬ愛。フローラルブーケの香りに包まれれば丸く収まると信じてる、子どものまじないのように。ひっそりと立ち、日々を洗い流すことで保つ均衡が揺らぐとき、ほんとうは泣いていたのかもしれない、それすらも儚い泡となって。
儀式/
純白を求めるなら、空気と水と、慎重さを足して。きめ細やかにきめ細やかに生み出される両手のひらいっぱいのこんもりとした泡を撫でるようにすべらせれば、どうかなにも傷つけませぬよう。なににも傷つきませぬよう。