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月並みな人生を歩んでいたおっさんがゲーム的な異世界に飛ばされて思慮深く生きつつやっぱり無双したりする話  作者: 次佐 駆人


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8章  騎士団長の依頼(前編)  04

その日の夜は昨日より豪華な料理がテーブルに並び、子爵家の人々に正式に俺がアメリア団長の夫となる資格ありと認められたという話が伝えられた。


重要な点については子爵は非常に微妙なニュアンスで説明していたが、あとで真実を伝えた時の予防線になるのかどうかも非常に微妙なところだ。


第一夫人だけには伝えておいた方がいいんじゃないだろうかと、涙ぐんでいる夫人を見て思ったのは確かである。


翌日、俺は思う所があって、アメリア団長を通じて子爵と話をする機会を設けてもらった。


呼ばれた場所は子爵の執務室であった。


「ご多忙の折、無理を言って申し訳ありません、ニールセン子爵閣下」


「閣下はやめてくれ。全力で剣を交えた仲ではないか。もっとも貴殿は全力ではなかったようではあるがな」


子爵は執務机を離れ、俺を来客用の椅子に座らせると、自身も対面に座った。


「いえ、そのようなことは……」


「はっはっ、気を使わなくていい。剣を合わせたオレがそこは一番よく分かっている。オレも強者とはそれなりに剣を交えてきたが、貴殿程の使い手は見たことがない」


そう笑う子爵の顔つきは、昨日までと違いかなり柔らかい。言葉遣いもこちらが素ということなのだろう。


「恐縮です。私は以前、アメリア団長とクリステラ卿、二人と手を合わせましたが、ニールセン様の剣は勝るとも劣らないと感じました。領を治める(かたわ)らそこまでの鍛錬を続けられていると思うと頭が下がる思いです」


「嬉しいことを言ってくれるな。しかしラダトーム卿……クリステラと手を合わせたのか。どちらが勝ったか聞いてもいいか?」


「そうですね、剣ではクリステラ卿……ですが私は魔法も使えるので、それを含めれば自分が勝った、というところでしょうか」


「貴殿が魔法にも堪能(かんのう)というのは真なのか。メニルが自分を超える魔導師だと言っていたが、それが本当なら恐ろしく感じるほどだぞ」


「それは多少自覚をしております。故あってあまり目立つ真似はしたくないのですが、そう言っていられない事が多うございまして」


「『厄災』か……。実は貴殿の事は先んじてコーネリアス公爵閣下から聞いているのだ。頭の方も相当切れるとな」


「やはりそうでしたか。頭の切れについてはあまり自信がありませんが」


これについては想定の内だ。いくら愛娘が認めた男だからと言って、頭から信用して策に組み入れるはずがない。


「それで、わざわざ話しに来たということは、雑談が目的ではあるまい?」


「ええ。これはニールセン様のご事情に深く踏み込むことになるかもしれませんが……ニールセン子爵家とケルネイン子爵家との関係についてお聞きしたいのです」


「ふむ……」と言って子爵は口元を厳しく引き締めた。


「コーネリアス閣下の言を信じて貴殿には話そう。と言っても、そこまで込み入った話でもないがな」


そう前置きし、子爵は事のいきさつを語り始めた。





ここニールセン子爵領は、農業と農作物の交易を主産業とする領である。


主な取引相手は北にある伯爵領。その領までは街道が整備され、今まで非常にスムーズに交易が行えていたという。


ところが3週間ほど前に、その街道の子爵領側に奇妙な集団が現れるようになり、ニールセン子爵領の隊商を襲うようになった。


無論子爵はすぐさま討伐隊を編成し解決を図ろうとしたが、その奇妙な集団は討伐隊の前には全く姿を現すことはなかったという。


仕方なく隊商に護衛をつけるなど対策をしたが、その奇妙な集団は護衛の隙を突くように荷物を燃やすなどして執拗に妨害をする。


ついにはその街道を通って交易をすると赤字になってしまうという状態になった。


そこで次善の策として迂回して交易を行うということになったのだが、そこで通らねばならなくなったのが隣領のケルネイン子爵領であった。


他領を通るとなれば通行税がかかることになるのだが、ケルネイン子爵はもともと派閥の違うニールセン子爵領の隊商が出入りすることを嫌い、通行税の率を上げるなどして制限をしようとしてきたという。


さすがに国法を超える税率になるに至って抗議をしたが、それでもあの手この手で税を取ろうと画策しているという。


そして、その弱味を聞きつけてやってきたのがボナハというわけである。





「なるほど……」


子爵が語る内情を聞きつつ、俺は非常に嫌な臭いを嗅ぎ取っていた。


子爵が語った内容、それはまさにゲームの『イベント』の設定そのものであったからだ。


「ちなみに、その奇妙な集団とケルネイン子爵の関係は?」


「無論調べた。と言いたいところだが、集団そのものがまるで捕まらんので、今のところケルネイン子爵の周りを探らせているだけだがな。しかし貴殿もそこが気になるか」


「話が出来過ぎていますからね。しかしもしその集団とケルネイン子爵に関係があったとしても、嫌がらせとアメリア様が目的というのが妙ではあります。長期的にこちらの弱体化を狙っているということでしょうか」


「そのようなところであろうな。それがケルネインにとってどれほどの利になるのかは分らんが」


裏を探る必要があるか……と言っても、俺はそちらの方は全くの門外漢である。


この身体がいくら優れていても、今できるのはそれこそ脳筋の正面突破だけ。


というか、これが『イベント』なら、脳筋プレイで行けばその内相手がボロを出すというパターンだろう。そう信じてできることをするしかない。


「わかりました。まずはその奇妙な集団とやらをどうにかしましょう。そこを潰せれば一旦は解決する問題でしょうから」


俺がそう言うと、子爵は驚いたような顔をした。


「待ってくれ、貴殿にそこまでしてもらうわけにはいくまい」


「もちろん、成功すれば報酬をいただきに参りますので、そこはご心配に及びません。報酬がいただけないというのなら別ですが」


「貴殿は……なるほどそう筋を通すというわけか。報酬については無論出すが、奴らを捕捉する当てはあるのか?」


「それについては私の力を信じていただくしかありませんが、やりようはありますのでご安心ください」


「ふむ。普通なら笑って相手にしないような話だが、貴殿なら本当に何とでもできる気がするな。では任せるとしよう……いや、領主として是非頼む」


子爵と握手をすると、俺はすぐさま行動を開始した。





子爵領から北に延びる街道は、前世で言えば自動車が対面通行できる道路ほどの幅の、この世界の基準でいえばかなり広めの道であった。


街道は兵士たちによって封鎖されていたが、同行者がいるおかげで子爵が渡してくれた許可証を出すまでもなく顔パスである。


「済まないケイイチロウ殿、このようなことになるとは思っていなかった」


「ホントよねぇ。まさかこんな変な話になってるなんて聞いてなかったしびっくりだわぁ」


同行者とは、当然のようについてくるアメリア団長とメニル嬢。


無論『当然』というのは二人の意見であって、俺の意見でないのは言うまでもない。


さて、俺がこの件に首を突っ込もうと思ったのは、何もゲームのイベント的だから、という理由だけではない。


話に出てきた『奇妙な集団』というものが、どうにも勘に引っかかるからである。


これが平時なら特殊な訓練を受けた部隊か……などと考えるところだが、『厄災』の前兆が複数確認された状況下では別の可能性が浮かび上がる。


すなわち、そいつらは『厄災』関係者なのではないか、と。


無論『厄災』関係者が、なぜそのような半端な示威行動にでるのか、なぜケルネイン子爵と連動した動きをするのかという疑問はある。が、その疑問そのものが、また別の可能性を示唆(しさ)しているとしたら――


「これは荷馬車の残骸のようだな。そうするとこの辺りが襲撃の現場か」


10分ほど街道を走った時であろうか、アメリア団長が街道脇に散乱した木片を指して言った。なるほど地面には焼けたような跡もあり、いかにも襲撃跡といった雰囲気である。


ちょうど街道左右から森が迫っている地形であり、その森の向こうには低い山が連なっている。


山賊が現れそうな土地と言えば、そう言えなくもない。


もっともこの世界に来てから、俺は賊の類には全く遭遇していない。それはそうだ、少しでも未開の地に足を踏み入れればモンスターに襲われる世界なのだ。


「ケイイチロウさん、それでこれからどうするの? さすがにこの周囲を全部探索するのは無理があるわよ?」


メニル嬢の俺の呼び方が変わっているが、まあ夫候補にして誤魔化すみたいな話もあったからだろうか。


俺の方も結婚相手(偽)とその妹ということで、二人に対する言葉遣いは変えた。


「いくつかのスキルを組み合わせて賊の存在を探知してみる。その間無防備になるから、二人にはその間周囲の警戒を頼みたい」


「うむ、任せよ」


「わかったわ、守ってあげる。それと後でそのスキルの事も教えてねっ」


メニル嬢は相変わらずである。


さて、思いついて試した時にはうまくいったから大丈夫だとは思うが……俺は『千里眼』を発動、視点を上空に移動させ、周囲を俯瞰(ふかん)する。


視点の座標を動かすようにすると、ドローンのカメラ撮影のように視界が動くていく。


そこで『気配察知』と『魔力視』を発動。すると森の中に棲息する動物やモンスターなどが、赤外線撮影のような輪郭で表示されるようになる。


無論それらはかなりの数に上るため、大きさや魔力量が小さいものは表示から除外しつつ、探索を続けることしばし――


山の中腹あたりに、数体の人型をした輪郭が集まって存在するのを確認した。


視点を寄せてみると、木々の隙間からテントのようなものが設置してあるのが見え、しかもそのテント近くには、不自然に木が密集したところがある。


テントの周囲には全部で5人の人間がおり、うち3体は普通の人間の魔力、1体は以前『悪神の眷属』に感じたものと似た粘りつくような魔力――恐らく闇属性魔法持ち――もう1体はそれらとはまた違った妙な魔力を持っていた。


なお、普通の人間と思われる者が望遠鏡のようなものでこちらを監視しているのも確認できた。


「どうやら見つけたようだ。5人の人間が山の中腹でこちらを見張っている。一人は恐らく闇属性魔法を使う奴だろう。それとは別にもう一人、特殊な能力を持っていそうな人間がいる」


俺は『千里眼』を解除し二人に報告した。


「何故そんなことが分かるのか……と聞くのはきっと無粋なのだろうな。ケイイチロウ殿は私たちの知らない力をまだ多く隠しているようだ」


「ホントにねえ、聞きたいことが多くなりすぎて、離れられなくなっちゃう」


アメリア団長はやや呆れたように、メニル嬢はいつもの調子で反応した。


「俺の能力についてはそのうち話す時がくると思う。進んで広めるつもりはないけど、信用できる人間には隠さないで使うことにしたからね」


ハンター2段という肩書を持ち、しかもかなりの権力者とつながりを持ってしまった身である。


『厄災』の姿が見え隠れしている今、能力をひた隠しにして自分の行動を縛ってしまう方が愚かだろう、とここ数日で思い直したのである。


断じてボロを出しすぎて隠すのを諦めたとか、面倒になったとかではない。


「それじゃワタシたちは信用できる人間に入れてもらえているのねっ! 嬉しいっ」


「う……む。そう言ってもらえているのなら私も嬉しい……な」


メニル嬢が抱き着いてきて、アメリア団長は顔を真っ赤にしつつ身を寄せてくる。


そういえば今もあちらさんに監視されてるんだよな。この二人はかなりの有名人だし、警戒が強まったりはしないだろうか。


そう考えると行動は早い方がいい。『ラブコメ』的な話から始まったこのイベントは、早く終わらせないと取り返しのつかないことになりそうな気がする。


2人の様子を見て、俺はそう確信した。

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