7章 王門八極 05
俺たちは今、狩場の最奥部と思われるところに来ていた。
大岩が密集して並んで通路のようになり、その奥が行き止まりになっていたのである。
「これは、洞窟……なんでしょうか?」
俺がついそう言ったのは、行き止まりにドンと構えた一際巨大な岩に、大きな穴が虚ろな口を開けていたからだ。
入り口は人が余裕で4~5人並んで入れそうな程の大きさで、もしこれがずっと開いているものであれば、サーシリア嬢が俺に伝えないはずはない。
とすればこれは最近開いた穴であり……この狩場の異常と大きな関係があるに違いなかった。
「もしかしたらだけど……これはダンジョンかもしれないわねっ」
「えっ、これがダンジョンなんですかっ!?」
メニル嬢の言葉に反応したのはネイミリアだ。キラキラした目で大穴を眺めている。
「ええ。『厄災』発生の前兆として出現すると言われてるけど、確かこんな感じの穴で現れることが多いはず。ワタシも見るのは初めてだけど、多分間違いないでしょ」
まさかの『ダンジョン』登場である。いつかは関わることもあるのだろうくらいは思っていたが……。
しかし困ったことに、俺は『ダンジョン』についてはほぼ知識がない。
「もしこれがダンジョンだとしたら、放置したらどんな問題が起きるのでしょうか?」
「過去の事例だと、ダンジョン内で生み出されたモンスターが一気にあふれ出す『大氾濫』が起きるみたいね。そうなると周辺の町や村に大きな被害が出るわ。あとは『厄災』の眷属が中で育って、それが出てくるっていうのもあったみたい。こっちは『大氾濫』以上に厄介かも」
「このまま放置はあり得ないということですか。むしろ早く対応すべきと」
「当然そうなるわね。でも、ダンジョンは下手をすると一番奥まで1週間以上かかる広さのものもあるみたいだし、今日は一旦出直すべきじゃない?」
そう提案するメニル嬢を、クリステラ少年が遮った。
「メニル、どうやらその暇はないみたいだ。奥からモンスターが多数この出口に向かってくる気配がある」
「うぇ、あ、本当だ。じゃあやるしかないじゃない。メンドくさっ」
確かに多数の……というか無数の気配がこちらに迫っているのが感じられる。
5等級~6等級も多数混じっているところから、オークの谷の『氾濫』より少し規模が大きいようだ。
しかしもしこれが『氾濫』だとすると……
「確認なんですが、ここで出てくるところを迎え撃つだけでは解決にならないんですよね。ダンジョンの奥に進んで元を断たないと止まりませんよね」
「ああそうか、そうなるね。もし『氾濫』が始まってるなら大元のモンスターを潰さないと解決しないんだ。まいったな」
そう言いながら、クリステラ少年の口元は笑っている。頷くメニル嬢もどこか浮かれている感じである。
「しょうがないわね。『王門八極』が2人と、高ランクハンターが2人いればなんとかなる、かな?」
「クスノキは多分ボクらに匹敵する強者だよ。ネイミリア君もかなりのものだろう? 戦力としては十分じゃないかな」
「そうね。クスノキさん、お付き合いお願いできるわよね、ねっ?」
俺はネイミリアが頷くのを確認し、答えた。
「ええ、もともと私達だけで解決しないといけないはずの案件ですから。むしろこちらからお願いする話ですよ」
俺とクリステラ少年が前衛、ネイミリアとメニル嬢を後衛とし、俺たちは洞窟ダンジョンに突入した。
それに先だって『王門八極』の2人には空間魔法を披露してしまった。
切断されてしまったオーガの大剣の代わりにオーガの大斧を出す必要があったのと、この後恐らく大量のドロップアイテムを収納する必要があるからだ。
念動力で収集するのは空間魔法のオプションという設定で行くことにした。
「まさかクスノキさんが空間魔法まで使うとは思わなかったわ、ねっ、と」
メニル嬢の火焔魔法で、オークソルジャーやらゴブリンロードやらがまとめて吹き飛ぶ。
「まったくだ。想像以上に面白そうな人材だねっ」
クリステラ少年の斬撃で、マンティコアやバジリスクは次々と両断されていく。
2人が討ち漏らしたモンスターはネイミリアが魔法で次々と霧に変え、俺はというと空間魔法+念動力でドロップアイテムを次々と掃除機よろしく収納していた。
あれ、俺前衛だった気がするんだが……いや、適材適所は大切である。
「こういう形で空間魔法を使うなんて初めて見たけど、メチャクチャ便利じゃないか。拾う手間がないっていうのは驚きだよっ」
少年の不可視の刃がオーガエンペラーを真っ二つにする。オーガの大剣がドロップ。これは俺が使わせてもらって大丈夫だろう。
しかし『王門八極』の2人は確かに強い。
5等級などいくら湧こうが無人の野を行くが如しだ。
ただメニル嬢とネイミリアはそろそろ魔力の残りが心配かもしれない。廃墟でのソリーンの二の舞は避けたいところだ。
「メニルさんとネイミリアは一旦下がってください。まだ先は長そうだ」
「りょうか~い、ちょっと休ませてもらうわっ」
「はい師匠」
都合よく大剣は手に入ったが、現状前衛はクリステラ少年に任せて、俺は魔法での援護に専念した方がよさそうだ。
ストーンバレット……本当はメタルバレットだがこれは誤魔化せるだろう……を並列処理で高速生成し射出、次々と雑魚モンスターを駆逐する。これ多分前世のガトリングガンとかそんな感じになってる気がする。
「えっ、なにあれっ、ストーンバレット? それにしては貫通力ヤバくない?っていうか発動速度もおかしいし、ちょっと待ってあれなんなのっ!? ねえネイミリアちゃんもそう思うでしょ!?」
「え、ええ。おかしいと思うんですが、でも師匠ですし……」
「師匠だからってやっていいことと悪いことがあるわよねっ!? しかも同時に空間魔法でアイテム回収してるしっ! やばっ、これやばっ!」
なんか後ろの方でやたらとテンションの高いお嬢さんがいるようだが……少しするとモンスターの出現が途切れたので、俺たちは小休止することにした。
謎現象によって岩の一部が光っている洞窟ダンジョンの中で、俺たちは座って休んでいた。
インベントリから行動食を出して皆に配る。
実はこんなこともあるかと思って、インベントリには一月分くらいの食材を入れてあったりする。
--------------------------------------
名前:ケイイチロウ クスノキ
種族:人間 男
年齢:26歳
職業:ハンター 1段
レベル:75(8up)
スキル:
格闘Lv.23 大剣術Lv.24 長剣術Lv.19
斧術Lv.18 短剣術Lv.15 投擲Lv.8
八大属性魔法(火Lv.20 水Lv.24
氷Lv.17 風Lv.32 地Lv.30 金Lv.25
雷Lv.22 光Lv.18)
時空間魔法Lv.20 生命魔法Lv.13
神聖魔法Lv.10 付与魔法Lv.5(new)
算術Lv.6 超能力Lv.32 魔力操作Lv.26
魔力圧縮Lv.23 魔力回復Lv.18
毒耐性Lv.10 眩惑耐性Lv.10 炎耐性Lv.9
闇耐性Lv.4 衝撃耐性Lv.13 魅了耐性Lv.5
多言語理解 解析Lv.2 気配察知Lv.20
縮地Lv.20 暗視Lv.17 隠密Lv.18
俊足Lv.19 剛力Lv.21 剛体Lv.20
魔力視Lv.2(new) 不動Lv.19 狙撃Lv.22
錬金Lv.19 並列作業Lv.23
瞬発力上昇Lv.19 持久力上昇Lv.21
〇〇〇〇生成Lv.9
称号:
天賦の才 異界の魂 ワイバーン殺し
ヒュドラ殺し ガルム殺し
ドラゴンゾンビ殺し(new) エルフ秘術の使い手
錬金術師 オークスロウター
オーガスロウター エクソシスト
アビスの飼い主 トリガーハッピー(new)
--------------------------------------
ステータスを確認するのは久しぶりな感じが……叙爵とか色々あったから仕方ない。
『付与魔法』は予想通り、『魔力視』はクリステラ少年の不可視斬撃を察知した時に取得したものだろう。
称号の『ドラゴンゾンビ殺し』はそのままだとして、『トリガーハッピー』は……。やはりメタルバレットは銃扱いなんじゃないだろうか。というか異世界でトリガーっていいのだろうか? 一応ボウガンとかなくはない……のか?
教会で捕まえた『灰魔族』の男のおかげで『闇属性』があることは確定したが、さすがに精神を改変するような魔法は試す相手がいない。
モンスターは人型でもほぼ知性を感じないので無理だろう。『穢れの君(分霊)』みたいに話すモンスターがでてきたら試してみるか。
「ねえねえねえっ! クスノキさんっ! さっきのストーンバレットってどうやってるの!? あの威力ってどうやったら出せるの!? それと発動速度はどうやって上げてるの!? 空間魔法との同時使用は!?」
行動食を食べ終えたメニル嬢が、長いツインテールを振り乱して迫ってきた。
知識欲が旺盛なのはいいことなのだろうが、魅惑的な身体ごと迫ってくるのは心臓に悪いので困るんだが……。
「ええと、威力と発動速度は地属性と風属性のレベルが高いからで……同時使用に関しては、複数の動作を同時にできるスキルがあるんですよ」
「そんなスキルあったかしら? クリステラ知ってる?」
「う~ん……あ、ガス爺が持ってる『並列処理』じゃないか? 確かそんな能力だったはずだ」
メニル嬢の心臓への攻撃のせいでつい話してしまったが、『並列処理』は普通に身につけられるスキルのようだ。
というより、俺が後から取得しているスキルは基本的に他の人も取得できるスキルのようだ。ネイミリアも雷属性とか取得出来ていたわけであるし。
「え~、でもそれってガス爺身につけるまでに50年くらいかかったって言ってなかった?」
「ああ、そうかもね。そんなスキルをその若さで身につけてるなんて、クスノキはちょっと底が知れないね」
「そういう問題じゃないと思うけど……」
メニル嬢は納得いってなかったようだが、渋々引き下がった。
ふとネイミリアを見ると、何故かジトッとした目でこっちを睨んでいる。
「どうかした?」
「別になんでもありません。師匠は美人に迫られると口が軽くなるとか思ってませんから」
心臓の次はまた胃か……。精神からくる内臓へのダメージこそ、耐性スキルが欲しいんだがなあ。




