表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月並みな人生を歩んでいたおっさんがゲーム的な異世界に飛ばされて思慮深く生きつつやっぱり無双したりする話  作者: 次佐 駆人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

58/251

7章 王門八極  04

クリステラ少年の剣技は、その自信ありげな態度に見合った凄まじいものだった。


身長はアメリア団長よりやや低いくらい、剣士としては決して恵まれた体格とはいえないが、両手剣を自在に操る膂力は言うに及ばず、『不動』『剛力』『剛体』スキルを十全に活かした剣の冴えはアメリア団長を超えるレベルにある。


『縮地』の使い方も巧みであり、俺は縦横から、ともすれば全く予想外の角度から打ち込まれる銀光を弾き返すのに苦労していた。


「アハハハハッ! いいねいいねッ! 折角遠くまで来たんだ、こうでなくちゃいけないッ!」


鋭く剣を振るうクリステラの表情はまさに新しい玩具を見つけた少年のようで、玩具扱いされるこちらとしては少し困る。


俺が強引に大剣を振って弾き返すと、クリステラは飛びのきざまに虚空に剣を振る。


と、その剣の軌跡から不可視の力が放たれたのが『見え』た。脳内に電子音。


『縮地』で回避すると、さっきまで俺がいたあたりの地面が深くえぐれていた。


「へえッ、ボクの『羽衣』を初見でかわす人間なんて初めてかもしれないなッ!」


不可視の斬撃が連続で放たれる。


俺は避けるのをやめ、先程作ったばかりの付与魔法を大剣に発動。


赤く輝く刃が、不可視の刃をすべて切り裂いていく。


「それは君のスキルかい? 随分と派手じゃないか! 気に入った!」


軽口を叩きながらも瞬時に踏み込むのを止めるあたり、クリステラ少年は勝負勘も優れているようだ。


この付与魔法は相手にとってかなり厄介なものだ。恐らく刃を受け止めただけで、相手の剣を切断してしまう。


……そうか、剣を切断してしまえばクリステラ少年は諦めてくれるかもしれないな。


「おっと、やる気だね」


こちらの攻め気を感じたのか、少年が剣を構え直す。


「じゃあ、ボクのスキルとどっちが強いか勝負といこうか」


俺たちは同時に『縮地』を発動、踏み込むと同時に剣を合わせ――切断されたのは、なんとオーガの大剣の方だった。


「もらったッ!!」

「ライトニングッ!」


止めとばかりに迫る少年――その漆黒の鎧に向けて、俺は魔法を放った。





「ちょっとまだ痺れて……ああもう、君、魔法はちょっとズルくないかな」


「そうは言われましても、咄嗟(とっさ)に出てしまったもので」


クリステラ少年は立ち上がると、恨みがましい目で俺を見た。


『ライトニング』自体はそこそこ出力を抑えて放ったが、ダメージが少なそうなあたりは鎧のおかげなのだろう。


「私は魔法を使ってしまいましたし、剣の腕ではクリステラさんの方が上ということでいいと思いますが」


「ふざけないでくれよ。普通ならあのタイミングで魔法は使えないだろう? 君に魔力を練る程度の余裕がまだあったということじゃないか。違うかい?」


「まあ……しかし最後はしてやられましたよ。まさか私の剣の方が切断されるとは思っていませんでした」


「ボクのスキル……『羽切(はねきり)』は強力だからね。だからこそ、それに頼って勝っても意味はないんだ」


「なるほど……」


彼のスキル……恐らく切断力を極限まで高めるとか、そんな感じのものである気がする。


それでもこちらが負けるとは思っていなかったが、もしかしたら剣の品質の差か? いや、これは負け惜しみだな。インチキ能力を使っておいて負け惜しみを感じるなど妙な話ではあるが。


「師匠、お疲れさまでした」


「ああ、ありがとう。ネイミリアは魔力の方はもう大丈夫かい?」


「はい、ほぼ回復しました。魔法も問題なく使えます。それより……」


近寄ってきたネイミリアが、脇にちらりと目をやった。


「いまっ、いまのはやっぱり雷魔法でしょ!? クスノキさん、どうして雷魔法なんて使えるの!? どこで覚えたの!? どうやって覚えたの!? 他にどんな魔法が使えるのっ!?」


そこには、目を見開いて手をワキワキさせグラマラスな肢体をクネクネさせている美人魔導師がいた。





「『王門八極』……ですか。お2人が?」


「そっ。信じられない?というか、ワタシ達って結構有名だと思うけど」


気分を害したふうもなくメニル嬢が言う。


「いえ、『王門八極』の御高名はよくうかがっていたのですが、何分初めてお目にかかるもので……」


「ああ、ボク達はあまり首都からは出ないからね。ロンネスク方面に来るのも久しぶりだし」


あの後謝罪をされ、改めてお互いに自己紹介をしたのだが、なんとこの美人と美少年の二人組は、今まで話だけはよく聞かされた『王門八極』のメンバーであった。


いや、自己紹介だけで信じるのは問題なのだが、クリステラ少年の強さは噂にたがわぬものであったし、メニル嬢も巨大な岩を一撃で吹き飛ばす魔法を見せてくれたので、その実力は疑いようもなかった。


ただ正直、『王門八極』というのが一般にどのような存在として扱われているのか知らないので、俺もどのような態度を取るべきか分かりかねていた。


「ええと、その著名な方々がこんなところにいらっしゃったのは……?」


「主目的は、異常が多発しているロンネスク地方の実地調査かな。ついでに人材発掘も頼まれててね。君たちに声をかけたのはそっちの理由さ」


クリステラ少年が芝居がかった動作で手のひらを返す。


「なかなか面白い人材が見つかったから、そっちは陛下にいい報告ができそうだ。そちらのエルフのお嬢さんもなかなかの使い手のようだし」


「そうねっ。まさか未発明の雷魔法の使い手が二人も見つかるなんて、それだけでここに来た甲斐があったわ。ロンネスクに行ったら絶対に詳しい話を聞かせてねっ」


メニル嬢はずっと『雷魔法』に取り憑かれたままだ。武官というよりただの魔法マニア……エルフ少女と同じ弟子入りパターンはないことを祈りたい。


「ところで君、この狩場では異常は発生しているのかい? 初めて来た場所だから、今いるモンスターだけを見てもわからないんだ」


「事前情報と比較すると明らかに上位モンスターの数が多いようです。恐らく異常が発生しているかと」


「ふぅん、そっちも当たりか。じゃあちょっと調査していこうかメニル」


「へ?あ、ええそうね。ちゃちゃっと調査してロンネスクに行きましょっ。はやく魔法の話を聞かなくちゃ」


「まったく君は……。ところで君、クスノキと言ったっけ。できれば現地ハンターの協力が欲しいんだ。報酬についてはあまり期待させられないんだが……一緒に来てもらっていいかな?」


クリステラ少年は『協力』と言ったが、恐らく調査に協力させる体でこちらの能力をさらに見たいということだろう。


『腹芸』をこなすあたり、『王門八極』がただの武力集団ではないことが垣間見える。


「ええ、構いません。こちらも元々調査目的でここを訪れていますし、報酬は必要ありませんよ。名高い『王門八極』の方とご一緒できるだけで十分です」


「そうかい? じゃあそれに関しては甘えさせてもらおうか。では、しばらくパーティを組んで探索と行こうじゃないか」


お手本のようなきれいなウィンクを決めると、クリステラ少年は狩場の奥に向かって歩き始め、俺たちはその後についていった。





『ネイミリア、聞こえるか?』


『ひゃっ!? 師匠の声が頭の中に!?』


4人パーティで歩き始めてすぐに、俺は『精神感応』でネイミリアに話しかけた。


この魔法マニア少女は魔法以外は少しポンコツなところがあるので、確認をしておきたいことがあったからだ。


ソリーンの時の反省から事前説明をしておきたかったが……さすがに今するわけにもいかない。


『今俺のスキルでネイミリアの心に話しかけているんだ。できるだけ平気な顔で対応してくれ』


『師匠って本当になんでもできるんですね……。それで、何でしょうか?』


『『王門八極』の2人の前では光魔法は使わない方がいい。雷魔法はバレてしまったけど、光までバレたらさらに大変なことになりそうだ』


『なるほど、分かりました。光属性を複合した魔法も使用を控えますね。しかし王門八極の方々と行動を共にすることになるとは驚きです』


『エルフの間でも有名なの?』


『ええもちろんです。この国に住んでいて『王門八極』をよく知らないのは師匠くらいですよ』


『それは済まないね……』


『ところでこのすごいスキルって、いつから使えるようになったんですか?』


『この間教会で捕まった時だね。ソリーンに話しかけてみたら上手くいったんだ』


『あ、じゃあ覚えたてなんですね。ん……ソリーンさん?』


そこで急にネイミリアが冷たい目を向けてきた。何かしてるのが他の2人にバレるからリアクションは抑えてほしいのだが。


『師匠、スキルを初めて試すなら相手は弟子の私にすべきだと思います。それともソリーンさんに何か特別な感情がおありですか?』


『いや単に必要があって試してみたら上手くいっただけで……。それ以上の理由はないからね』


『ふぅん、それならいいですけど。でも師匠、私が弟子だってことは忘れないでくださいね』


プイっと前を向き直したネイミリアを見て、俺は会社員時代の女子社員の扱いの難しさを思い出し、一人胃の痛みを感じるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ