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月並みな人生を歩んでいたおっさんがゲーム的な異世界に飛ばされて思慮深く生きつつやっぱり無双したりする話  作者: 次佐 駆人


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5章 穢れの足音(前編) 02

例によって廃墟までは2人で走っていった。


多分時速50キロくらい出てる気がするのだが……異世界でもさすがにこれはおかしいと思わざるを得ない。


まあ俺はインチキ能力持ちだからアレだが、ネイミリアはかなり凄いと思う。


俺のようにスキルだけ速いわけじゃなくて、風魔法の制御でカバーしているとのことで、毎度のことながら本当に天才である。




30分ほどでたどり着いた廃墟は古城跡ということではあったが、すでに城の体はなしていなかった。


崩れた城壁や半壊した城の壁、柱などがあちこちに残っていて、ちょっとした迷路を形作っているように見える。


城跡というからには広さは遊園地くらいはあるだろうし、全部を踏破するだけでかなりの時間がかかりそうだ。


ちなみに廃墟全体が霧に覆われていて、昼間にもかかわらずアンデッドが出るという雰囲気は十分である。


「馬車がありますね。先程の話に出てきた人たちでしょうか?」


「そうだね。教会の馬車っぽいから間違いないだろうね」


俺たちは武器を手に、辛うじて城門の形を保っている入り口から、アンデッドの巣窟に足を踏み入れた。




廃墟の中を歩くこと10分、一向にアンデッドらしき気配を感じない。


アンデッドに『気配察知』スキルは効果がないのか――と思っていたら、少し離れたところに10ほどの反応あり。


いや、これは人間だな。


「貴方たちっ! 何をするのですかっ!」


「……いやぁっ」


なるほどこれが絹を裂くような女性の悲鳴か――などと言っている場合ではない。


教会での会話から考えて、声の発生源付近で何が行われようとしているのかは何となく推察できる。


俺とネイミリアは現場に最速で向かった。


「おい、そっち押さえとけよッ」


「この女力ありすぎんだろ。暴れんじゃねえよクソがッ」


「こっちの聖女様は力弱えなあ。そうそう、おとなしくしてりゃ命までは取らないぜぇ」


「二人とも胸がデケえから楽しめそうだなァ」


現場に着くと、予想通りの事態が発生していた。


黒髪の少女と青髪の女性騎士が地面に押し倒され、そこに戦士風の男たちが群がっている。


戦士風の男たち(教会で言っていた『傭兵』だろう)は、俺たちに気付くと、女2人を押さえてる人間以外は立ち上がって、こちらに歩いてきた。


「ったく無粋な客だな。こっちがお楽しみ中なのは分かるだろう?」


「おっと、ずいぶん可愛いエルフ連れてるじゃねえか。土産として置いてけよ」


全員が獣のような顔でニタニタ笑っている。


俺が元の日本人だったら全力で謝って逃げているだろうが、今は恐怖とは別の感情が胸の奥にせりあがってくる。


俺はふぅ、と息を吐いて、高まりそうな感情を落ち着かせた。


「ライトニング」


電撃を受けて、立っていた5人が糸が切れた人形のようにその場に倒れる。


「んなっ!?」


一瞬の出来事に、少女たちを押さえていた男たちが立ち上がる。


悪知恵が働くのか、少女を人質にしようと動く者も見えた。


「飛べ」


残り4人を念動力で吹き飛ばす。


念動力はある程度強いモンスターに抵抗されると直接作用させるのは厳しいのだが、この程度の連中なら問題なく吹き飛ばせる。


俺は男たちを念動力で一か所にまとめ、身に着けているものをパンツ一枚残して()いでインベントリに放り込んだ。


もちろんインベントリ自体は女性2人には見えないように、だ。


「ヒィッ、何なんだよッ! テメエはいったいッ……!」


「ライトニング」


「あがッ!」


まだ意識のあった奴を気絶させ黙らせる。……多分全員気絶で済んでいるはずだ。


さすがに異世界だからといって、婦女暴行未遂で全員即死刑というわけにはいかないだろう。


「大丈夫ですかっ?」


ネイミリアが女性の下に駆け寄って、生命魔法で手当をする。


まったく、こういう場面に出くわすことは考えないではなかったが、実際目の当たりにすると随分とストレスを感じるものだ。




襲われていた女性2人は、落ち着くと自分たちのことを語ってくれた。


黒髪をボブカットにした、紺色の修道服風ドレス(?)を着た少女はやはり話にでてきた聖女ソリーンだった。


感情の起伏が少なそうな雰囲気を持つ、人形を思わせるような顔立ちの、目の覚めるような美少女である。


少し先のとがった耳と、白を通り越して青みがかかった肌が、彼女が魔人族という種族であることを証している。


もう一人の20歳前後に見える軽鎧を着た女性騎士はカレンナルといい、セミロングの青い髪が美しい、これまた目の覚めるような美人であった。


騎士カレンナルの頭部からは角が二本、天に向かって突き出ており、背中側にはトカゲの尻尾のようなものが生えている。龍人族といわれる種族である。


なお、聖女ソリーン、騎士カレンナル共にキラキラオーラをまとっているのは言うまでもない。



「それでは、ソリーン様が自らの意志でこの廃墟にいらっしゃったというのは本当なのですね?」


「……そうです。この廃墟に何らかの力の集まりを感じ、調べるためにここに来ました」


俺が確認を取ると、聖女ソリーンは抑揚のない口調でそう言った。


「そのことを大司教に相談して、あてがわれたのがあの傭兵たちですか」


「カレンナルだけでいいと言ったのですが、どうしてもというので供をしてもらいました」


「それがまさかあのような者たちであったとはっ! 警戒はしていたのに、力足らず……申し訳ありません聖女様……」


「仕方がありません。多勢に無勢でした」


騎士カレンナルは悔しそうに唇を噛み、聖女ソリーンがその頭をなでている。


「……それで、お二人はこの後どうされますか? ロンネスクに戻るならご一緒いたしますが?」


「できれば調査を続けたいと思います。まだ力の集まりは弱いのですが、なるべく早くその正体を知っておいた方がよいという予感があります」


「聖女様、それは……っ」


「カレンナル、私の使命は自分の能力に従ってその職責を果たすことです。理解してください」


「わかりました。今度こそ、命に替えましてもお守りいたします」


美しい主従関係を確認し合っている二人の姿に感動した様子を見せながら、ネイミリアがこちらに顔を向けた。


「師匠、どうされますか? これも何かの縁だという気がするのですが」


「……まあ、流れとしては放ってはおけないよな」


ゲーム的イベントが進行中だから、とは間違っても言えない。


まあ俺としても、さすがに何もしないという選択肢はない。


俺はソリーンに提案をもちかけた。


「我々はこの廃墟にアンデッドを討伐しに参りました。もしこの後出現するアンデッドのドロップアイテムを、あなた方が討伐した分まですべて譲っていただけるなら、ご一緒して御身をお守りしましょう」


「それは……いいのですか?」


「ええ、取引をするだけですから、こちらとしては問題ありません」


「クスノキ様には何か強い……とても強い力を感じております。ご一緒いただけるならこれに勝ることはありません」


「では、契約成立ということでお願いいたします」


協力するにも対価を求めるのが互いにわだかまりの残らない方法である。


無償の奉仕など、むしろ裏があるのではと疑うのが人の性であるから。

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