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月並みな人生を歩んでいたおっさんがゲーム的な異世界に飛ばされて思慮深く生きつつやっぱり無双したりする話  作者: 次佐 駆人


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3章 都市騎士団 04

その後の支部長室は、ちょっとしたカオスだった。


ゴージャス美女支部長はクックッと口を押さえながら愉快そうに笑い、イケメン副支部長はどこか遠くを見つめ始め、美人受付嬢は目を見開いて俺を凝視し、エルフ美少女は腕を組んでウンウンと激しく頷いている。


「何と言うか、自分としてはただ襲われたので倒しただけなのですが……騒ぎになっていたようで申し訳ありません」


「クックッ……。面白すぎますわ。こんなに笑ったのは久しぶり。クスノキ殿には重ねて礼を言わなくては」


「……アシネー、そういう問題ではないだろう。もしかしてネイミリアはこのことを知っていたのか?」


副支部長が支部長をファーストネームで呼んでいるのはスルーした方がいいんだろう。


「はい。私が師匠に教わろうと思ったのは、ワイバーンを『水龍螺旋衝(らせんしょう)』で討伐したのをこの目で見たからですから」


「そういうことは先に……いや口止めされていたのか。しかし『水龍螺旋衝』だと? エルフの秘術ではないか。さすがに情報が多すぎる」


副支部長は渋面を片手で隠し沈黙に入った。情報を整理しているのだろう。


「とりあえず、この場でワイバーン討伐の報告もお聞きしなければなりませんわね。それと恐らく大量のドロップアイテムをお持ちでしょうから、そちらの確認と対応の相談。後は昇級の扱いをどうするか、今日のところはそれくらいかしら?」


「……そうなるな。サーシリア君、倉庫はすでに1つ空けてあるはずだが、それを再確認しておいてくれたまえ。恐らく昨日までと同等以上のアイテム数になる。残業できる所員を可能な限り確保しておいてくれ」


「はい、分かりました」


この超有能スタッフ同士のやりとり感、こちらの方が俺としてはワイバーンより余程心揺さぶられるんだよな。




ワイバーンの件の報告その他を終え、宿に引き上げることができたのは午後に入ってからだった。


一番時間がかかったのはインベントリからドロップアイテムを取り出す作業で、案内された倉庫は学校の教室くらいの広さであったのだが、その床に山ができるくらいの量があった。


協会から帰る時に新人の受付嬢が「今日は帰れない……」とつぶやいていたのが不憫(ふびん)だったので、わざわざ見送りをしてくれたゴージャス美女に「もしよければ俺の取り分から残業代を出してあげてください」と言ったら、「お気持ちだけで十分ですわ。彼女たちにはきちんと正当な報酬を追加で支給しますから」とやんわり断られた。


まあ確かに仕事というのはそういうものだ。


しかし自分の気持ちとしてはやはり申し訳ないので、後で何か差し入れでもしよう。


サーシリア嬢経由なら受け取ってもらえるだろう。


昇級に関しては、ネイミリアの3級が確定した。


実力的には2級は確実なのだが、5等級上位種の討伐が条件らしく、今回は見送られた。


マンティコアを一匹残しておくべきだったかもしれない。


俺に関しては、ワイバーンとヒュドラの件を報告してから、ということになった。


どうやら支部長と領主の間で今回の件の扱いを調整をするらしい。


社長と重役の話し合いに対して、雇われ社員ができることはない。


まな板の上の鯉になるしかないのである。




さて、時間が半端にあいてしまったので、午後は各自自由ということにした。


俺は先日蹴られた図書館に行くと言ったらネイミリアもついていくとのことで、結局2人して街の中央区方面に向かった。


ロンネスクの図書館は日本の国会議事堂にも似た大変立派な建物であった。この国(サヴォイア女王国と言うとのこと)の第二都市の情報集積地にふさわしい威容である。


受付で図書館利用上の注意を聞くが、金を払えば会話の可能な個室が借りられるとのことだったので一室借り、俺たちは書架の並ぶ空間に足を踏み入れた。


圧倒される数の書架から、俺は歴史と地理関係の本を何冊か、ネイミリアは魔法関係の本を何冊か抜き出し、レンタルした個室にてそれぞれ本に向かった。


歴史の本は、有史以前、神話の時代の記述から始まっていた。


前世の世界での神話との共通点などがあってなかなかに興味深かったが、その後具体的な国名などが出てくる時代の記述になって、気になる所が出てきた。


それは、いくつもの国の終焉(しゅうえん)が、「魔王」や「邪龍」といったファンタジー的存在によってもたらされている点だ。


「読書中済まない。ネイミリア、ちょっといいかい?」


「はい、何でしょう?」


「今歴史の本を読んでるんだが、いくつかの国が『魔王』とか『邪龍』に滅ぼされてるって記述がでてくるんだ。これって有名な話なのか?」


「ええ有名ですね。この大陸では、昔からそういった邪悪な存在によって人間の国がいくつも滅んだと言われています」


「それは言い伝えとかではなくて?」


「エルフの有名な歴史家がいるんですが、その人が実際に現地に行って遺跡や廃墟を見つけたそうです。というか、里の長は小さい頃『闇の皇子』の軍勢を実際に見たそうです。この世のものとは思えないほどの瘴気(しょうき)が立ちこめていたと言っていました」


「えぇ……。暴君を魔王と言い換えたり、自然災害を龍に見立てたりしたとかじゃないのか……?」


「最近はそういう説が主流みたいですね。エルフは誰も信じてませんが」


「……もしかして、『魔王』とかの復活がそろそろ近かったりするなんて話はある?」


「これはエルフに伝わる話なんですが、『魔王』『邪龍』『(けが)れの(きみ)』『闇の皇子』『奈落の獣』『悪神』、これらはそれぞれ一定の周期で現れるそうです。そして、実は近い内にそれらすべてが同時に顕現(けんげん)する周期が来ると言われてます」


それを聞いて、俺は頭を抱えてしまった。


前世の世界なら笑い飛ばすような幼稚とも言える終末思想。だがこの世界では、それは間違いなく現実に起こる『フラグ』なのではないだろうか。


まさかとは思うが、俺がこの世界に来た理由、インチキ能力を持っている理由がそこにあったりはしないだろうか。


長男の話だと、異世界転移したらスローライフもできるはずなんだが。


まさかトラックにはねられなかったのがダメだったのだろうか?


ただの中間管理職で終わった人間が異世界で勇者とか、そんな話は誰も望んでないんだよな……。

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