2章 → 3章
―― とある受付嬢の述懐
その男性が『素材買取』のカウンターに現れたのは、受付業務に余裕ができる昼頃でした。
歳は20代中ごろ、背は高く、黒髪黒目の顔はそれなりに整っていましたが、それ以外はあまり特徴のない人です。
その人は買取を依頼すると、3等級の魔結晶を3つカウンターの上に並べました。
3等級の魔結晶はこのロンネスクでは主力とも言うべき商品ですが、それなりの腕利きでないと採取できない品です。
ハンターではないと申告している目の前の男性……クスノキさんが取ったとは思えません。
しかし、街に入った時に犯罪歴なしと判定されているならば、盗んだわけでもないはずです。
となると、この方は在野の腕利きハンター予備軍なのかもしれません。
私は買取処理をすませ、彼にハンターになるように勧めました。
ちょっとだけ気になったので、その後上司である副支部長にハンターの昇級条件について確認をして、その日は帰りました。
次の日、彼は午後早くに顔を出しました。
礼儀正しい彼のことは妙に記憶に残っていたのですぐにわかりました。
彼の背中の袋がかなり重そうなのを見て、私はあることを直感しました。
カウンターの新人に代わって彼の相手をします。
別の部屋で彼が採取してきた1等級の魔結晶を数えました。
300――普通の新人ハンターパーティが1~2ヵ月かけて満たす昇級資格を、彼は半日で満たしたのです。
次の日、彼はまた午後に顔を出しました。
ただ、今日は少し顔に焦りが見えます。何かあったのでしょうか?
話を聞くと、どうやらオーク狩りの谷のほうで異常事態が発生しているようです。
彼を副支部長室に案内し、事の次第を報告してもらいました。
彼の話は理路整然としていて、主観と客観が混じるようなことがありません。
部下の報告に非常に厳しい注文をつける副支部長が、人の報告を聞き返すことなく最後まで聞くのは大変珍しいことです。
私はこの時、クスノキさんが非常に優秀なハンターになるだろうと強く感じました。
さらにその後、副支部長が証拠品を求めると……クスノキさんは守秘義務に関して確認を取った後、空間魔法を使ってみせたのです。
空間魔法……王国でも使い手は10名ほどしかいないと言われている極めて稀な魔法です。
馬車30台分以上の荷物を、重さを感じることなく運ぶことができるという、流通の在り方を根底から覆すような魔法です。
使い手は王家および一部の大貴族や商人に囲われていると聞きます。
報告を聞き終えた副支部長が、会議室を出る時に「彼は君が責任を持って担当したまえ」と私に耳打ちしました。
私はこの時、多分笑っていたと思います。
なぜならこの時すでに、クスノキさんが自分が待ち望んでいた人間に違いないと、私は半ば確信を持っていたからです。
それなのに……
なんで!? なんでクスノキさんは次の日に女の子を連れてくるの!?
しかも見たこともないくらいの美少女なエルフ!
ハンター登録3日目で、どうしたらそんな娘をパーティメンバーに誘えるの!?
しかも「クスノキ様」とか呼ばせてるし、クスノキさんは普通の言葉でしゃべってるし!
まあよく見れば、クスノキさんは彼女に一歩引いた態度で接してるみたいだけど!
私の胸をできるだけ見ないようにしていたから、誠実な人だと思ってたのに……。
クスノキさんに抱いていたイメージが、ガラガラと、とまではいかないけど、かなり崩れたのは確か。
まあ別に、私の目的を達成するためにネイミリアさんが邪魔になるわけでもないし……でもなんかもやもやする。
少し睨んだら、クスノキさん……ケイイチロウさんはちょっと済まなそうな顔をしていたから、私の気持ちが少しは伝わったと思いたい。




