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月並みな人生を歩んでいたおっさんがゲーム的な異世界に飛ばされて思慮深く生きつつやっぱり無双したりする話  作者: 次佐 駆人


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2章 城塞都市ロンネスク 12

準備を終えると、俺とネイミリアはそのまま走ってオークの谷に向かった。


実は馬が用意されていたのだが、そもそも乗れないのと自分の足の方が多分速いので使用は断った。


「走った方が速いので馬は必要ありませんよ」と言ったらサーシリア嬢は変な顔をしていたが、後で説明しておいた方がいいかもしれない。


道中ネイミリアは途中まで何とか自分の足でついてきていたが、さすがに全行程は無理だった。


置いていくわけにもいかないので背負うかお姫様抱っこをするかの二択を迫り、背負う形で谷まで連れていった。


彼女は胸当てをしているので、背中の感触は硬いだけであったと言っておく。




オークの谷は予想より酷い有様であった。


谷の手前にハンター勢が陣を張っているのだが、あちこちに怪我人が座り込んだり横たわったりしている。


上位種の出現によって戦況が悪化し、生命魔法の使い手もポーションも足りなくなってしまっているようだ。


俺は初めて足を踏み入れる戦場の雰囲気にいくぶん気を飲まれつつ、ネイミリアは普段通りの表情を保ちつつ、指示された協会司令部テントへ向かった。


「クスノキ殿か、もしやサーシリアに言われて来たのか?」


イケメンエルフのニルア副支部長は、俺の顔を認めると声をかけてきた。


弓手の出で立ちが大変キマっているが、オールバックの金髪がほつれているところに疲れが見える。


「ええ、彼女の依頼を受けて来ました。どちらへ行けばいいでしょうか?」


「ではこちらへ来てくれ」


本部奥の物資用のテントに案内される。俺達が入るとテントの入り口が閉められた。


俺は副支部長に確認をとり、インベントリから箱をすべて取り出して並べた。


「助かる。これで戦線はしばらく維持できそうだ」


「状況はかなり悪いのですか?」


「ああ、いきなり上位種が増えてな。ただこの後到着する増援にオークを相手にしてもらえれば押し返せるだろう」


「では我々も早速参加させていただきます」


「うむ、ところでそちらのお嬢さんは……」


言いかけたところで副支部長の動きが止まった。


眼鏡の奥の目を見開いてネイミリアを凝視している。


「まさかネイミリアか!? なぜこんなところに……!?」


「お久しぶりですトゥメック大伯父様。こちらへは師匠に従って加勢に参りました」


ネイミリアが慇懃(いんぎん)に礼をする。


ああ、そういえば副支部長は『ニルア』姓だった。なるほどこれがキラキラつながりか。


「師匠とは……クスノキ殿のことを言っているのか? いや、それより長の許可は取っているのだろうな?」


「長からは魔法を極めることを第一とせよと仰せつかっております。今回もそれに従っての行動になります」


「どうせ長の言葉を都合よく解釈しただけだろう?」


副支部長が(にら)むと、ネイミリアはプイっと横を向いた。


魔法マニアとは思っていたが、そういう側面もある娘さんなのか。


「……まあ、今ここにお前がいてくれるのはありがたいといえばありがたい」


イケメンエルフは溜息をついて、俺に向き直った。


「この娘が師匠と呼ぶならば、クスノキ殿はかなりの魔法の使い手ということだろう。済まないが、この娘とともに上位種の対応にあたってくれまいか。クスノキ殿がまだ4級であるのは承知しているが……」


「戦果によって自分とネイミリアの昇級がかなうのならば引き受けましょう」


「うむ、支部長との相談は必要だが、それはほぼ約束できる。ネイミリアの実力は知っているし、クスノキ殿についても例の魔法の話も含めれば支部長も首を縦にふらざるをえまい」


「そういうことであればお引き受けします。どちらへ向かえば?」


「丁度私も出るところだ。案内しよう」


副支部長に促され、俺達は戦場に向かった。




前線は谷の入り口であった。


バリケードが組まれ、その後ろに大勢のハンター達が並び、大地にぽっかりと空いた巨大な谷を睨んでいる。


ちょうど今はモンスターの波が引いたタイミングらしく、戦場は静寂に包まれている。


もっとも、モンスターは死ぬと消えてしまうので、戦場を感じさせるのはところどころ地面に染みている血の跡だけである。


「諸君、ポーションが新たに届いた。足りていないものは補充してくれ!」


「おお、ようやくかよ」


「助かるわね」


副支部長が声を上げると、10名ほどのハンターがポーションを取りに走る。


さすがに3級ハンターたちだけあって動きに無駄がない。


俺とネイミリアは副支部長から離れ、陣の後方、魔導師の列の端に身を置いた。


隣になった魔女風の出で立ちの黒髪のお嬢さんがこちらをちらと見る。


「あなたたち援軍?」


「ええそうです。私もこの娘も魔法はそれなりに使えますので邪魔にはならないと思います」


「そうね。どうせバカみたいに湧いてくる豚に魔法を浴びせるだけだから、魔導師は一人でも多い方が助かるわ」


「優先目標とかはありますかね?」


「やれるなら上位種だけど、火力が足りないなら雑魚を一匹でも多く倒してくれた方がいいわね」


「分かりました。ありがとうございます」


お礼を言うと黒髪魔女はちょっとだけ驚いた顔をして、「うちのバカもアナタくらい礼儀正しいと助かるんだけどね」と愚痴った。



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