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1章 異世界転移?異世界転生? 01

土の匂いがする。


大人になってから久しく嗅いだことのない、懐かしい匂いだ。


草の上に寝ていることが、背中の感触で分かる。


背中……?


俺の身体はなくなったはずでは……?


俺はそこで目を開いた。


青い空が、木の枝葉の隙間に見える。


一抱えもありそうな木々が、空に向かって真っすぐにそびえている。


林……? いや森か……?


俺は身体を起こした。身体だ、やはり身体がある。


しかも中年太りが隠せなくなった身体ではない。


筋肉のしっかりついた、成人男性の身体だ。


成人男性……そう、手足を見る限り、明らかに自分の知らない身体だった。


「何が起こってるんだ……?」


声を出すと、やはりそれは知らない声音。


いや、かすかに自分の声音が残っているような気もする。


首を動かし、周りを見る。


やはり森の中のようだった。


高い木々に包まれ、辺りは薄暗い。


下草があまり生えていないため、木々の隙間から遠くが見通せる。


と言っても木しかないが。


「よ……っと」


立ち上がると、視線に違和感がある。


明らかに視点が高いのだ。


もともと日本人の平均身長よりは幾分か高かったが、恐らく今はそれより10センチ以上視点が上にある。


「違う身体に生まれ変わったとでも言うのか……?」


状況がまったく分からない。


俺は確かに死んだはずだ。


死んで別の身体でよみがえり、森の中で目を覚ます。


そんなことが現実に起ころうはずがない。


臨死体験という言葉を思い出すが、しかしこれは違うだろう。


五感の感覚があまりにリアルすぎる。


その時ふと、長男がハマっていたと言っていた『異世界転生』という言葉が脳裏をよぎった。


トラックに()かれた人間が別の世界に行くという話を楽しそうに語っていた。


その時は、『異世界に行くなんて、昔から創作ではよくある話だぞ』などと語ったものだ。


「いや、いくらなんでも異世界は突飛すぎるだろう……」


そう思いかけて、すぐにやめた。


自分の常識や知識にあてはめて否定から入ると大抵失敗することはすでに経験で知っている。


可能性としては残しておくべきだ。


「……まずは現状の確認だな」


ともあれ、ただ考えていても仕方がない。


俺は自分の身体からチェックを始めることにした。





新しい身体……と言うのも抵抗があるが、新しい身体はやはり元の身体ではなかった。


手足は長く、身長も高い。


髪の毛も在りし日の量と同等。


身体を動かした感じでは、成熟した大人の身体のようだ。


子どもの時分に習った空手を思い出し突きや蹴りの動作をしてみたが、正直そのキレの良さに驚いた。


服は綿と麻の間くらいの肌触りの、くすんだ薄茶色の服を着ていた。


少なくとも現代日本では見たことのない材質だ。


縫製も雑で、かなり古い時代の衣服に見える。


靴は革製のしっかりしたものだったが、底はゴムがあるわけでもなく、やはり古い時代のもののようだ。


腰にはベルトがまかれていて、そこにナイフと、空の袋が下がっている。


ナイフは大型のサバイバルナイフくらいの大きさで、作りは大雑把だ。


ナイフと言うより、見た感じは刀身の短い直剣といったほうが正確かもしれない。


恐らく第三者から見ると、ファンタジー映画の村人A、もしくは狩人B、みたいに見えるはずの格好だ。






自身の確認を終えた俺は、森をしばらく歩いてみた。


ナイフで木に印をつけ、元の場所に戻れるようにしておきつつ周囲を探索する。


程なくしてきれいな川を見つける事ができたのは僥倖(ぎょうこう)だった。


生水は怖いが、それでも水がないよりは遥かにマシだ。


川沿いに歩いていけば、もしかしたら集落にぶつかるかもしれない。


今いるところが現実世界でも異世界でも、その可能性は高いはずだ。


異世界……そういえば長男が言っていたな。


『ステータス』と言うとステータス画面が出てくる、なんて話を。


俺は河原の岩に腰を下ろして小休止を取ることにした。


「ステータス、か」


何気なく口にしたその瞬間、俺の目に妙なものが映った。


妙なものと言ったが……はっきり言うと、それは確かにステータス画面だった。


自分も高校生の頃はゲームをやっていたから、さすがにそれは分かる。


分からないのは、なぜそのステータス画面がAR表示のごとく目の前に現れたか、だ。


「いやこれは……マジか……」


社会人になって封印していた昔の言葉遣いがでてしまう。


もしかしたら俺は死んだ後に脳だけ取り出されて高度なVRゲーム機につながれてるんじゃないか……などとSFチックな妄想が一瞬だけ脳裏をよぎる。


まあそれはない。


それ関係の情報学の講演を聞いた事があるが、脳に直接アクセスする技術なんてまだまだSF世界の話だ。


俺は改めてステータス画面を見直す。




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名前:ケイイチロウ クスノキ

種族:人間

年齢:26歳

職業:なし

レベル:14


スキル:

格闘Lv.3  

四大属性魔法(火Lv.1 水Lv.1 

風Lv.1 地Lv.1)

空間魔法Lv.1 算術Lv.6 超能力Lv.3

多言語理解 解析Lv.1 


称号:

天賦の才 異界の魂 


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ステータスという割には体力とか攻撃力みたいな数値がない。


年齢は……たしかに身体の感じだとそのくらいなのだろう。


実はまだ自分の顔の造作はきちんと確認できていない。


職業とレベルはとりあえず飛ばしてスキルだが……社会人でスキルと言えば仕事のスキルを指すが、ステータスにあるのはいかにもファンタジー、というかゲームっぽいスキル名だ。


『格闘』は空手をやってたからだろうか、『四大属性魔法』とはいかにも消えかかった少年心が揺さぶられるワードだ。


『空間魔法』はよく分からないが、『算術』は日本の公教育の賜物だろう。


そして『超能力』……これまた懐かしいワードがでてきたな。


俺が子どもの頃に流行った、念動力とか透視とか瞬間移動とか読心術とか、そんな能力をまとめた概念だ。


言うまでもなく都市伝説的な話だったはずだが、このスキルのレベルが高いのを見ると、実は自分は超能力者だったのか?


そんな間の抜けた考えを追い出して、さらにスキルを見ていく。


『多言語理解』というのはそのままの意味なんだろうが、重要なのはこの土地に言語がある……つまり人間がいるということをこのスキルが表しているということだ。


まさか日本語に加えて英語が少しできるぐらいで『多言語理解』なんて表記にはならないだろう、と思いたい。


『解析』というのは言葉からすると対象を分析するとかそんな感じなのか?


俺は足元に転がっている河原の石を拾って、『解析』と念じてみた。


自分は今何をやってるんだ……?と我に返ると同時に、AR表示風ウィンドウが追加で視界に表れる。



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逢魔(おうま)の森に流れる川のほとりで拾得した石。


投擲(とうてき)可。


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解析というにはかなり適当な表示だが、確かに言葉通りの機能が確認できた。


というか現実離れしていて色々とめまいがしそうだ。


これが現実だ、と思い直してステータスの続きを見る。


称号にある『天賦の才』、これは天才ということだが、誰が?……いや自分のことだろうが、自分の人生を振り返っても天才とは程遠い人間だったはずだ。


もしかしたらこの新しい身体が『天賦の才』を持っているということなのかもしれない。


魔法と共にこの後検証しないとならないだろう。


そして二つ目の称号『異界の魂』……この文字を見てなんとなく実感してしまった。


ああ、自分は異世界に来てしまったのだ、と。




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