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月並みな人生を歩んでいたおっさんがゲーム的な異世界に飛ばされて思慮深く生きつつやっぱり無双したりする話  作者: 次佐 駆人


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2章 城塞都市ロンネスク 08

ドロップアイテムの売買を済ませ、俺は宿に戻ることにした。


サーシリア嬢にお願いされ、斧は1本を残して全部売った。


オーガの斧は希少な金属を含んでいるらしく、1本10万デロルでの買取だった。


なるほどオーガを狙うパーティがいるわけだ。


なお、オークの谷の件に関しては3級ハンターを動員して対策するとのことで、俺ができることはもうないらしい。


一応できることは手伝うと伝えたが、「まだ4級でいらっしゃるケイイチロウ様にお願いするのは協会の規則に抵触しますので(ニッコリ)」と言われた。


名前の呼び方が変わったのと、ニッコリが営業スマイルでなくなっていたのは『空間魔法持ちを逃がすな』的な指示でも出たのだろうか。


なおドサクサに紛れた形でハンター2日目にしてランクは4級に上がった。


通りの角を曲がり、宿屋が見えてくる。


宿屋の前に小柄な人影があった。


いや、通りには他にも人はいるのだが、その小柄な人影だけがやたらとキラキラ輝いて俺の注意を引くのだ。


「見つけました、クスノキ様……」


それもそのはず、その人影は、森の中で出会った超絶美少女エルフ・ネイミリアだった。




「急な訪問となり大変申し訳ありません。しかしどうしても知りたいことがあり、クスノキ様の下に参りました」


宿屋1階の食堂、そのテーブルの反対側で、銀髪緑眼の美少女は深々と頭を下げた。


食堂には俺たちのほかにも客が何組かおり、ちらちらとこちら――ネイミリアに視線を送っている。


「分かりましたから、頭を上げてください。そこまで謝っていただくほどのことではありませんよ」


俺は内心冷や汗を流しながら、つとめて他人行儀に対応をした。


彼女と再会するのですら想定外なのに、妙な噂が立ちそうな行動はやめてほしい、本当に。


「それで、どのようなご用件でしょうか?」


ネイミリアは居住まいを正し、再度口を開いた。


「クスノキ様の使う魔法について、できれば詳細をうかがいたく思っています。私が見たところ、クスノキ様は我がニルア族に伝わる秘術を少なくとも2つはお使いになるご様子。それらについてまずはお聞かせいただければと」


「ええと、確からいりゅう……なんとかという魔法の事でしたね。しかしネイミリアさんの前ではそれしかお見せしていないと思うのですが」


「実はあの後クスノキ様がワイバーンを……」


「お待ちください!」


つい声を大きくしてしまった。


しかし仕方がないだろう、この娘さん今非常にマズい単語を口にしたのである。


「……んん、失礼しました。そのお話はこの場所でできるお話ではないようです」


俺が言うと、ネイミリアはハッとなって両手で口を押さえた。


その動作がいかにも女の子という感じに可愛らしいので、どうにもやりづらい。


「申し訳ありません。ではどこか人のいない場所で……」


「そうは言っても、自分の部屋でというわけにもいきませんし、困りますね」


困るから帰ってくれないかなあ、などとちょっとだけ期待。


「いえ、問題ありません。クスノキ様のお部屋でお話をさせてください」


問題しかない案件です、それは。




断ろうとしたら、宿屋のおかみさんと娘さんの2人に部屋に押し込まれてしまった。


ニヤニヤ笑っているので彼女たちが何か勘違いをしているのは明らかだったが、弁解する機会は一切与えられなかった。


食事は部屋にお持ちしますと言われたが、そんなサービスは必要ないんだが……。


仕方ないのでネイミリアを備え付けの椅子に座らせ、俺はベッドに腰を掛けた。


ネイミリアはまた頭を下げる。


「ワイバーンについては秘密にしておられるのですね。大変失礼いたしました」


「ええまあ、そういうことになります。それが知られるとここにはいられなくなりますので、どうか内密にお願いいたします」


これは嘘だが、何とか口止めはしたいところだ。


さすがにワイバーンの件は、現時点で(つまび)らかになると何が起きるのかまったく読めない。


「もちろん口外はいたしません。ですが、そのワイバーンを討伐した時にお使いになった『水龍螺旋衝』も、知りたいことの一つなのです」


また新しい技名が……『らいりゅう』に『すいりゅう』……『雷龍』『水龍』か。


『雷龍咆哮閃』『水龍螺旋衝』という感じだろうか。エルフの口からそんな言葉が出てくるとは驚きである。


しかしまあ、『若気の至り』を感じさせる魔法名はともかく、問題はネイミリアが単純に勘違いをしていることだ。


「なにか大層な魔法だと思われているようですが、あれは単なる雷魔法と、水と風を複合させただけの魔法ですよ」


「雷魔法!それはどのように習得されたのですか!?」


「えっ!? それは普通に雷をイメージして、魔力を変換する感じで……」


しまった、立ち上がって俺の手を両手で握ってくるネイミリアの気迫に負けて、つい適当なことを言ってしまった。


いや、適当ではなくて本当のことだが。


「まさかそれだけではないでしょう!? 雷魔法に関してはエルフ族も研究をしていますが、成功したものはおりません。しかしなるほど、『雷龍咆哮閃』は幻の雷魔法が基本になるのですね!」


「え、いや、あれはただの雷魔法で、それ以上のものでは……」


「『水龍螺旋衝』の方は水と風ということですが、それではただの『水流撃』にしかなりませんよね!? 他にどのような要素が入っているのですか!?」


「あれはちょっと特殊というか、確かに他の力も使っているのですが、説明が難しく……」


「構いません、理解するまで聞きますのでお教えください!」


ネイミリアが整いすぎた顔をグッと近づけてくる。この超絶美少女エルフ、魔法のことになると我を忘れるタイプなのか。


「お食事をお持ちしました~」


そこへ丁度入ってきたのは宿屋の娘さん。


ノックという習慣は異世界宿屋にはないらしい。


娘さん――リリネちゃんという名前だそうだ――は俺とネイミリアを見て、ニタッと笑ってから食事をトレーごと置いて出ていった。


いや、こういう勘違いシチュエーションみたいのは、是非とも10代の若者同士でやってもらいたいのだが……。

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