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月並みな人生を歩んでいたおっさんがゲーム的な異世界に飛ばされて思慮深く生きつつやっぱり無双したりする話  作者: 次佐 駆人


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22章 聖杯を求めて  06

翌日、俺はカレンナル嬢の案内で、武術大会の会場となる闘技場へと向かった。


昨日あの後ロンドニア女史とも話をして、優勝時の褒賞として国宝を選べる旨の確認が取れた。


正直この期に及んでも、武術大会という鍛錬を重ねた者たちが集うであろう場に出るのは気が引ける。


だが『厄災』を倒すためのイベントだから仕方ないと言い聞かせ、決意が鈍らないうちに登録をしようというわけである。


「闘技場があるということは、武術大会みたいなものはよく行われているの?」


道すがら、横を歩くカレンナル嬢に聞いてみる。


いつも真面目な顔をしている彼女だが、久しぶりの故郷のせいかいくぶん表情が柔らかい。


「いえ、武術大会は3年に一度のこの大会だけです。それ以外の競技の場として使われることもありますが、普段は訓練場として使われています」


「訓練場か。竜人族は身体を鍛えたり動かしたりするのがかなり好きな感じがするけど、実際はどうなの?」


「それは間違いではありませんが……ただ鍛えることを重視する者はあまりいません。単に力を誇示することを好む者が多いのです」


「なるほど。でもカレンナルさんは最初からそういう感じではなかったよね?」


「私はもともと誇るべき力が十分にはありませんでしたから。それにクスノキ様の力を間近で見ていたら、力を誇示しようと思いませんし」


「出会いがあんな感じだったからね……」


聖女ソリーンとその護衛のカレンナル嬢を助けたことが遠い昔のことのように思い出される。


当時から決して弱いとは感じなかった彼女だが、それでも不意をうたれればなすすべがない程度ではあった。


今ならあの時の賊など、文字通り指一つで倒せてしまうだろう。


「力を持ちながらそれを誇示しないクスノキ様は、私には理想の方なのです。だからこそ今回大会に出ると言われた時は少し驚いたのですが、理由があってのことと聞いて納得しました」


「理想といわれるのは少し困るんだけどね……」


あまり強く拒否するのも嫌味になるだろうから言葉尻を濁す。


しかしカレンナル嬢が俺をそんな風に見ていたとは知らなかった。どうもこの世界に来て普通に生活しているだけで、妙に周囲の人間の好感度が上がっていく感じがする。


もちろんそうなるようには対応しているのだが、自分の意図しない所でそれが多く起こっている気も……。


「あれが闘技場です。すでに登録が決まった選手が貼りだされていますね」


カレンナル嬢が言う通り、通りの奥に大きな建物が見えてきた。


前世ので言うと野球場やサッカースタジアムの雰囲気だろうか。


入口横には掲示板があり、そこに人が集まっている。


「やっぱり賭けとかも行われているの?」


「はい。国が主導する興行でもありますので、公式にも非公式にも賭けが行われています」


「それじゃ余計に人が集まるね。しかし賭けの対象になってる競技に俺が出るのはちょっと気が引けるな」


「出場選手が聞いたら逆上しそうな言葉ですね。私は事情を知っていますから理解できますが」


そう言いながら、カレンナル嬢はクスッと笑った。


こうやってまともに会話することもそんなになかったけど、笑顔を見るのは初めてな気がする。


家族とのわだかまりが解けて心境の変化があったのだろう。


掲示板に書かれた選手名をちらりと眺めながら、闘技場のロビーに入り、受付カウンターへ向かう。


「出場登録に参りました。私とこちらの男性の二名です。メイモザル家の推薦を受けています」


カレンナル嬢が受付の男性に声をかけると、男性は二枚の紙を差し出した。


「こちらへ記入をお願いいたします。推薦状をこちらへ」


カレンナル嬢が御尊父から預かった書状を渡す。


飛び入り参加も可能だが、有力者の推薦があれば話が早いのだという。


メイモザル氏はローシャン国の文官のトップらしいので、彼の推薦とすることで俺が国賓待遇だと暗に示す意味もありそうだ。


まあ派閥関係の話も裏にはありそうだが。


俺とカレンナル嬢は書類への記入を済ませ、受付の男性に差し出した。


彼は書類との照合を済ませると、金属製の札を二枚カウンターに置いた。


「こちらが参加証になります。当日試合が終わるまで持っていてください。くれぐれもなくさないように。大会は3日後になりますが、詳しい日程はそちらに掲示してありますのでご確認ください。開会式からの出場をお願いいたします」


「わかりました、ありがとうございます」


ということで手続きはつつがなく終了したのだが、どうやらそれとは別の面倒が近づいて来ていた。


竜人族の巨漢の姿をしたその『面倒』は、帰ろうとする俺たちの行く手を塞ぐように立った。


「見覚えのある顔だと思ったらカレンナルじゃ~ん。ローシャンに居らんなくなってサヴォイアに逃げたって聞いてたけど帰って来たんだ。で、まさか武術大会に出ようって? マジで?」


ゴツい岩のような顔と身体、そして野太い声に似合わないチャラい言葉遣いに、俺はつい吹き出しそうになってしまった。


一方のカレンナル嬢はというと、顔から一切の表情を消していた。その時点で彼女が彼をどう思っているのか分かってしまう。


「久しぶりですバンクロン。国を出てそれなりの力をつけてきたので、腕試しをしに来ました」


「へ~、『能無し』がそれなりの力ってか。あ~、そういやなんか噂になってるって言ってたっけ。でもどうせ強い奴にくっついていっただけなんだろ? それで勘違いしちゃうのはダメじゃん?」


バンクロン青年は常にニヤニヤ笑いを口元にはりつけたまま話し続ける。


ちょっと芝居がかった感じなのは、後ろにいる数人の仲間……というか舎弟と、周囲にいる他の人間にも聞かせる意図があるからだろう。


まあある意味分かりやすい状況である。


「勘違いかどうかは大会ではっきりします。貴方こそ以前と大して変わっていないように見受けられますが?」


「はぁ? 変わるワケないじゃん。オレは生まれつき最強なんだし、これ以上変わったらヤバすぎるでしょ~。抱いた女壊しちゃうさ~」


下品なジョークに反応して舎弟たちがゲヘヘとかいって笑っている。演技してるわけじゃないよねこの青年たち。


「それに、ブ・レ・スの方も相変わらず最強のままだし。ブレスも吐けない誰かさんとは違ってさぁ。お前が逃げ回ってる間にオレは傭兵やってこの国にも貢献してるんだけど、そのあたりお前の親父もきちんと理解して欲しいんだよなぁ」


「それに関しては父も評価はしています。ただしそのことと、この国の、竜人族の未来とは別の話というだけです」


「強い者が稼いで、強い者が国を引っ張る。別におかしな話じゃないだろ? お前の親父だって力で今の地位にいるんじゃん。なんでそれを変えようとかすんのか意味不明すぎ」


「……別にそこは変えようとしてはいないのですが、今話しても平行線でしょう。大会でその意味がわかると思いますので、もういいでしょうか?」


カレンナル嬢が会話を打ち切ろうとすると、バンクロン青年は気分を害したように眉を寄せた。


「なんか久しぶりに会ったと思ったら随分と自信家になっちゃったじゃないの。は~ん、もしかしてその男が師匠的な感じだったりすんの? それとも恋人的な感じ? 竜人族に相手にされないからって人族とか笑えんだけど」


あ、存在が認識されてないのかと思ったらそうでもなかったようだ。


「この方は確かに私の師です。申し訳ありませんが、貴方など足元にも及ばない強者です。態度には気を付けたほうがいいと思いますよ」


「はぁ!? こんなヒョロいのが強いとか、カレンナルやっぱ頭おかしくなってねえ? なあアンタもそう思うだろ?」


バンクロン青年は、少し前かがみになってグイッと俺に顔を近づけてきた。もちろん威嚇の表情つきである。


「初めまして、クスノキと申します。ただ今の質問ですが、私はそうは思いません。彼女も私も貴方より強いですから」


「あん!?」


言った瞬間に来た。


バンクロン青年の岩のような右拳が、下からすくい上げるようにふるわれたのだ。


狙いは俺のみぞおちあたりだったようだが、残念ながらその拳は5センチほど前で俺の左手に受け止められている。


なるほど威力は大したものだが、正直予備動作が大きすぎて見え見えなんだよな。


ロンドニア女史やメイモザル氏の心配事がよく理解できる。


「なっ!?  テメッ、はなせよッ!」


掴まれた右拳が動かないのに焦ったのか左拳までふるいそうになったので、俺は突き返すようにして手をはなしてやった。


よろめくように一歩後ろに下がったバンクロン青年は、虫ぐらいなら落とせそうな強い殺気のこもった視線を俺に送る。


「ッチ、結構やるみたいじゃん。これなら大会も少しは面白くなりそうって感じか。アンタ、クスノキって言ったか、オレに当たるまで負けんなよ」


いけません、そのセリフは『フラグ』って奴ですよ青年。


などと思っている間に、バンクロン青年は舎弟を引き連れて去って行った。


その後ろ姿を一瞥すると、カレンナル嬢は俺に向かって頭を下げた。


「申し訳ありませんクスノキ様。バンクロンを()きつけるようなことを言ってしまいまして。まさかこんなところで拳を振るうとは思いませんでした」


「いや、彼が暴れたのは俺が(あお)ったからだからカレンナルさんのせいじゃないよ。それにあそこで俺を意識させておいたほうが後々話がつながるだろうし、ちょうど良かったんじゃないかな」


「そう言っていただけるとありがたく思います。しかし……彼が傭兵として活躍しているというのが本当なら、このままでは何も変わりません。そうは思いますが、だからといって私が変えられるかどうか……」


「それは誰にも分らないし、俺たちが考えることじゃないよ。大会でやるだけやったら後は長やお父上の仕事だから、そこは任せよう」


「そういうものなのでしょうか。いえ、クスノキ様が言うならその通りなのでしょうね」


カレンナル嬢は曖昧に頷くが、真面目な上にまだ若い彼女が役割分担で割り切りをつけるのはまだ無理だろう。


俺はカレンナル嬢をうながして闘技場を後にした。

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